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王都編上

第65話 吊り橋効果魔族バージョン

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 クアドラード王国冒険者ギルド協会
 ギルドマスター及びサブギルドマスター

 クアドラード要注意人物で提出した『ダクア冒険者、S-04444、リィン』『シュテーグリッツ冒険者、S-0842、ライアー』の追加情報です

 前回の報告にあったグリーン領旧グリーン子爵別荘跡地潜伏盗賊16名の完全捕縛(事件番号SD-215)
 に続き同じく表沙汰に出来ない功績が増えましたので追加します

 冒険者ギルドダクア支部にて不正行為を行っていた3名(名簿は次回の責任者会議で)の特定(事件番号SD-218)
 グリーン子爵に潜伏していたトリアングロ王国軍事幹部〝白蛇〟ウィズダム・シュランゲ(偽名:ヴァイス・ハイト)の特定と完全捕縛(事件番号SD-219)

 もう一度言いますが字面だけだと『事件に協力的な頭の切れる冒険者』『品行方正の冒険者』『ランクが実力に追いついてないランク上げ中の冒険者』『とてもいい子』『真面目で有望株』『今後に期待出来る冒険者』『実力評価が出来ないのが(善意的な意味で)惜しい』などとお思いかも知れません

 そんなことは一切無いです

 この2人は『事件に巻き込まれた頭が嫌な方向に切れる冒険者』『Eランクから発生する義務から逃れようとするFランク冒険者』『ランクが実力に追いついてない逆詐欺ランク冒険者』『性格がとても(悪い意味で)良い』『冒険者活動に非積極的』『効率と要領を求めがち』『実力評価が出来ないのが(悪意的な意味で)惜しい』です
 それぞれの冒険者ギルド支部で表沙汰に出来ない案件があるかもしれません。この2人は対人戦(特にリィンの方は戦闘以外でも)に優れているので利用するも良し。ですがFランク故に義務や強制招集が効かない為、逃げられない様に逃げ道を塞ぐかさりげなく巻き込むかしてください

 合言葉はFランク冒険者に人権は無し、です

 遠慮はいりません、普通のFランク冒険者の様に戦闘が出来ないわけでもありませんし普通の一般人でも無いです
 逆に嬉々としてこちら側の弱点を握って優位に立とうとするので丸め込める自信の無いギルドは極力関わらない様に。関わる必要があれば貴族を出してください。権力に弱いです

 なお、グリーン領地スタンピード(事件番号SD-216)とダクア奴隷商襲撃(事件番号SD-217)との関連性は判明してません。随時捜査します

 事件詳細は正式な報告書に記載します


 ==========


「…………なるほどね」

 王都ギルドの応接室で見せてもらった書類。
 私はニッコリ頷いたあと──

「くたばれエルフッッッッッッ!」

 ──ビリビリに破いた。

「いや、それ大丈夫なのか?」
「ライアーは腹立つしませぬ!?」
「俺別にそこまでの不都合はねぇし……ある意味信用が出来たと思えば動きやすいんじゃねぇか?」
「そこまで楽観視ぞ出来ぬー!」

 私一応高貴な身分を隠しているので目立つのは避けたいです私は!
 あとこれ二通目ってことは一通目に見た目の特徴書いてるな……?
 そうじゃなきゃ一発目で私が誰か分からないはず。

「はははっ、その程度直せるさ」

 キラキラ。

「そんでリィン、あと野郎」

 キラキラ。

「王都へようこそ。まさかあのリリーフィアから警告が飛んでくるとは思わなかったぜ」

 キラキラ。

 ……。
 キラキラエフェクトがとてもうるさい……ッ!

 とても、視界が、うるさい。
 おかげで話の内容が入って来ないし。

「リリーフィアちゃんのそういう書類って珍しいのか」
「自分のギルドが厄介まみれな癖に誰にも助けを求めない頑固者で危機感がない子は早々居ないだろ」

 誤差程度だけどじりじりと視線を奪われる。嘘だ、魔力を奪われる。あぁだめだこれ頭が痛くなりそう。

 理解しないとよく分からない。

 間違いなく分かる事は魔力が奪われるということ。

「魔族さんそれ辞めるすて……」

 眉間に手を当てて深くため息を吐く。
 私は魔力の操作に自信がある。魔力操作に淀みがあればバシバシ魔法叩き込んでくる鬼畜がいたから。だから、その私が自分の意思ではなく他人に強制的に魔力を奪われている現状に薄気味悪いのだ。
 そうたいした量じゃないけど。

「あぁ、悪いな。これは俺の意思じゃないんだ」

 ゼウスさんが困ったように笑った。

「俺は魔族だ。王都外の人間ならあまり聞いたことないだろうが」
「魔族差別ですよ」

 エルフの兄さんがズバッと切り込んだ。
 い、言いづらい事言ったなーーしかもはっきり。

「エルフは精霊を介して魔法を使いますが、魔族はそこら中にある魔力を集めて魔法を使うんです」
「あー、そいつが言った通りだ」

 魔族差別。
 知識だけは知っている。

 人間と違い永久的に魔法を使えることから嫌悪されているのだと。

「実際、俺はそこら中にいる存在から魔力をかき集めることができる。今、リィンが陥ってる状態な」
「あぁ、うん、無くなるすていく」
「それを人間は『恋』だと認識するんだ。本来なら気付かないうちに魔力が無くなっていくんだけどな」

 多分私レベルの魔力操作に自信のある人間じゃないと気付けないと思う。ナチュラルに、あるべき現象のように奪われるから。

「奪われているのは魔力なのに、それを心だと勘違いする。俺がサブマスターにエルフのコイツを置いてるのは、エルフに魔力が無いから魔族の影響を受けないからなんだよ」

 あぁなるほど。
 エルフは精霊を介す、ってことはエルフ自身に魔力があるわけじゃないんだ。

 魔法の行使を精霊が代わっているだけなんだ。

 人間は限度ありで回復式の魔力。
 エルフは限度曖昧な精霊の魔力。
 魔族は限度なしで吸収式の魔力。

 魔法を使える種族の具体的な違いが知れた。だからエルフのリリーフィアさんに魔法を教えてもらった時、ペインがびっくりしてたのか。そもそも魔法行使の仕方が違う。
 別に知らなかったわけじゃないけど、きちんと認識出来たのはこれが初だ。

 ……なるほど、それでフェヒ爺はバカスカ私の魔力が切れるまで魔法を使えていたのか。
 どんだけ魔法使っても何も影響ないもんね。

「魔族は人間を魅了する。魔族は無限の魔力を持った脅威だ。──これが、魔族差別の根源って訳だ」

 ゼウスさんは悲しそうに目を伏せる。

「だからお前みたいな魅了されない人間ってのは本当に珍しい。それでも、俺は……。魔力を奪い取ることが止められないんだが」

 ポツリ、ポツリと零し始めた言葉。
 ウンウン悲しいね。

「じゃあ人間の職員ぞ置かぬでしょ」
「それなんですよ。このバカマスターが魔力吸収するの女性だけなんですよ」
「しかもそれぞ利用すてる?」
「嬉々として」

 ですよねー!
 エルフのお兄さんの言葉にニッコリ笑う。

「おいバラすなバカ」
「バカにバカとは言われたくないですね」

 つまり、この魔族は……。

「モテればモテるだけ強くなる魔法職……?」
「あぁ、その通りだ」

 ライアーが机に肘を着いて口元を隠しながらいえば、真剣な顔でゼウスさんが答えた。
 このおっさん共…………。

「「はぁ」」

 エルフのお兄さんとため息が重なる。
 苦労してますね、お互い。

「ここの職員男かエルフしか置いてないんですよ。自然と女エルフを置くのもちょっと……」
「それで」
「もちろん、リィンさんみたいに魔力が奪われていることを実感出来る実力者なら魅了と勘違いせずに済むんですけど……。まぁ、中々居ません」

 いたら私が泣く。
 私の地獄の日々を早々越えられてたまるか。

「僕の名前はエティフォール。このギルドのサブマスターをしてます。と言っても、ギルマスの代わりに外に出ることが多いので」
「なるほど監禁!」

 ギルマス、下手に外出したらまずいもんね!

──スパンッッ!

「監視か保護にしろ」
「軟禁!」
「わざとか?????」

 プレイ使わなかったんだからいいじゃん!?
 叩かれた頭を押さえながらライアーを睨みつけた。

「ふ、不思議な言葉遣いしますね……」

 あぁ! エティフォールさんが『せっかく見つけた苦労人仲間だと思ったんだけど裏切られた』みたいな顔してる!

「つーかお前ら大会出るのか?」
「へ?」

 冒険者大会?

「出る?」
「……ぶっちゃけ興味はあまりねぇな」
「私も」

 下手に目立つのはな……。
 出たところで手の内民衆に晒すだけだし。

「優勝したらモテまくるぞ」
「……まじで?」
「そりゃそうだろ。腕も立つ冒険者、カッコイー! 素敵ー! 抱いてー! ってなること間違いなしだろ。富も名声も興味なくてもいいがモテモテ選り取りみどり状態は男なら逃せねぇな」

 エティフォールさんが横のゼウスさんを指さしながら『この人大会出禁なんです』と呟いた。
 んん、何年前の話だろうな。

「優勝が金貨100枚と建物とギルド手数料無し。準優勝で50枚と手数料無し。大会の報酬はこんなところだな」
「きんかひゃくまい」
「大金だろ」

 市政の金銭感覚身につけた今ではかなりの大金だと思います。だって前世計算100万円の価値だよ!? 14歳の小娘が持てる額じゃない。

 まぁ、報酬諸々王都に利益しかないけどね。

 運営費(ダクア支部でまなんだ)を考えれば150枚ははした金だし、建物は強い冒険者の拠点にしてもらう為で、手数料無料ってのはギルドを多く利用してもらうため。
 いやー。いい商売してるな。
 長期的な目で見れば利益になる。

「なぁリィン」
「なにライアー」
「どうせ暇だし、参加してみねぇ? ほら、俺たちの実力を測るって意味でも丁度いいしコンビネーション身につけるためにも参考になるんじゃねェか?」
「本音は」
「──この男がいるとまともにナンパが成功する気がしねェからモテモテ選り取りみどりの為に」

 どうせンなこったろうと思ったよ。
 んー。学生生活始まったら活動拠点はどうせ王都になるしここで拠点得ておくのも避難に丁度いいかな……。

「よし、やるです! ──全ては怠惰生活の為に!」
「おぉ! 俺たちコンビは最強だ!」

 やったるぞー! おー!

「…………理由が糞みたいだな」
「なんであんたが関わるとこんな案件ばっかなんだ」

 胃痛案件は与えられるだけでなく与えるものでもある。
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