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戦争編〜序章〜
第110話 魔法の国を憎む国
しおりを挟むこつり、こつり。
トリアングロ王国要塞都市の中心に堂々とそびえ立つ王城に、続々と幹部が集まっていた。
もちろん中には戦争の前線にて戦う者もいる為、全員が全員と言うわけでは無いが。
「レヒト・べナードが戻りました」
「ライアルディ・ルナール、戻った」
クアドラード王国に潜入していた2人がそう挨拶を告げると、会議室にいた幹部は振り返る。
「早かったな」
蛇、サーペントが書類を片手に口を開いた。
「時間も無かったことだし、国境で転移魔導具を使わせてもらいましたよ。宣言者の我々がいなければ元も子もないでしょう」
「魔石の補充は?」
「はんっ、そんなもの私がカジノ経営しているのだから腐るほどありましたよ」
べナードが鼻を鳴らし席に腰掛ける。
魔石を大量に用いることになるが、幹部の国内移動は魔導具の使用を許されている。
トリアングロは平地の多いクアドラードに比べ土地の高低差が激しい。故に重要な情報を担っている幹部の移動は国内の誰よりも優先される。
もちろん、コストがかなりかかる為推奨されないが。
「移動魔導具なんて使えるのはクアドラード潜入組だけだろうよ」
猫、コーシカがふいっと興味無さそうに顔を背ける。
幹部唯一の獣人でもある男は元より魔法だとか魔導具だとかに興味はなかった。
「あぁ、噂の猫さんですか。初めまして、鹿のべナードです」
「おい若造。その言い方だけはやめろ」
「こちらとしては敬意を表して呼んでいるんですけども」
「あぁ? それなら俺はてめぇのことを鹿ちゃんって呼んでやるぞ?」
「自分のキャラ分かってます???? くそほど似合わないの分かってやってます????」
べナードが首を180度回転させるレベルで首を傾げる。
するとバタバタと大きな足音を立てて何者かが近付く。
「あーーーー! もうっ、ほんっっと信じらんない!」
バン! と勢いよく入ってきたのは薄い水色の綺麗な髪をハーフツインにしたくりくりお目目の可愛い顔立ちをした若い世代の子であった。
「ほら見てよ! 俺の肌! うっげぇー! 俺魔法アレルギーだって言ったじゃん! 王様さぁ、なんでこんなか弱い俺に、しかも薬学の街とかふざけた場所に潜入させんの!? ……って王様居ないしッッッ!」
腕を捲り鳥肌を見せ、ドスドスと足踏みをして不満を漏らしまくる。
「やぁ、シュテーグリッツのアイドル」
「猿、ティザー・シンミア。ただいま戻りましたっと」
挨拶の終えたシンミアが揶揄うべナードをキッと睨む。
「その口塞ぎなよ胡散臭カジノオーナー」
「貴方に言われたかないですね」
「はーーーー、帰って早々こんな美しくも無い奴らの顔見るなんて」
「あら、うちは美しくないっていいはるん?」
海蛇、アダラが笑顔で首を傾げればシンミアはより一層顔を歪めた。
「そんなどす黒い腹抱えた女が美しいとか冗談じゃない。見た目はまあ美しいとは思うけど」
「せやねぇ。戦争企む様な人間が美しくあるわけないやんなぁ」
クスクスと笑みを浮かべるアダラは妖艶そのもの。シンミアは軽くあしらわれてしまった事により一層腹を立てた。
「猫獣人!」
「獣人族に動物の名前を被せんな猿野郎」
「俺もかっわいくねぇ猿なんて名前で呼ぶなって言ってんだろデコ助野郎!」
可愛い顔から吐き出される言葉はどぎつい。
コーシカはやれやれと言いたげにため息を吐いて机に足を乗せた。
「せや。クアドラードに潜入してはった人らに質問なんやけど」
アダラは頬に手を当てて笑みを浮かべたまま3人を見た。
「魔法の国はどないやった?」
「「「最悪」」」
べナードは嘲笑するように。シンミアはうげぇと顔を歪めて。ルナールは無表情で。
更にいえば発言が被った3人は、そのこと自体に最悪そうな顔をした。
「まず俺は元々魔法アレルギーってなんっっかいも言ってたのにさ」
「仕方ないだろ、お前の長所はクアドラード向きなんだから」
「あんな汚い国に行くだけでくしゃみ止まらなくなるし鳥肌だらけだし、コマース領で薬学ババアの任務終わらせた瞬間さっさと帰ってきたよね」
サーペントが呆れ顔で文句をぶつくさたれるシンミアを諌めようとするが普通に無視された。サーペントは幹部1の情報通故に、幹部の粗方の情報は掴んでいた。
「私はそうですね、王都にずっと居ましたし。膿みたいな貴族相手にしてましたからね」
「その変な口調もあっちで出来た癖か。お前昔は丸太担いで敵対相手吹き飛ばしてただろ」
「……黒歴史をほじくり返すのは本当にやめろ」
サーペントの思わぬ暴露に殺気が漏れた。殺したい。
「はあ。あっちは差別も中々でしたよ。魔法が使えるが故の問題、というか。……第2王子が国を見限るのも無理は無い」
「お前本当に王族味方に出来たんだな……。俺の、チビ助から伝令聞いた時は度肝を抜かしたが」
「うちの、ヘビちゃん有能やろ? クアドラード国内走り回ってくれて、ほんまに嬉しいわぁ」
まーた蛇同士が睨み合いをしている。
シュランゲの友人に一票。べナードはそうツッコミを入れたかったが普通にやめた。賢明な判断だ。
「魔族差別なんて笑いものです。向こうの王都のギルマスが魔族なのですが、彼、ギルドから中々出られませんよ」
「へぇ、出られないって?」
「ギルド職員から止められているというのも理由の一つですが国が魔族という『魔法に関して完全上位存在』に国の秩序を乱されるのは嫌なんでしょうね。……それに今の貴族は理由無く差別しています。特に、頭の弱い大人と子供に多いですね。ま、賢い貴族当主はやりたくとも出来ないでしょうが」
そりゃそうだ、と各々が納得する。国同士の秩序を守るため、この世界には世界法がある。貴族当主は世界法に基づき、様々な仕組みを教えさせられる。
「あぁ、魔族の奴隷は酷いもんですよ。対人戦の練習をさせられているんです。『魔法に長けた種族で魔法に耐性があるから的に丁度いい』と」
「……反吐が出るな」
「魔法をずっと使い続けることが出来るのも、気味が悪い、と。魔物みたいだ、と」
べナードは鼻で笑った。
「人間が魔法なんか使うから。本当に愚かですよねぇ」
王都で最も魔法国家の汚い所を見てきた男の言葉は、心の底から吐き出された。
「狐さんはどうだったんです。貴方結構、厄介なのにまとわりつかれてましたよね」
べナードが横を見て問いかけると、眉間にしわを寄せたルナールは息を吸って溜め込んだ鬱憤を吐き出す。
「…………ほんっっとうに、無意味な存在だった。本当に最悪だった」
感情を表に出すのは珍しい。アダラが軽く目を見開いた。
「魔法職ってのはろくな奴が居ない。俺のした功績はことごとく無意味と化す」
「あぁ、お前の嫌うことだろうな。無駄な労力ってのは」
「労力と功績が割に合わない。腹立たしい」
「でた効率厨」
「別にそこまで効率厨では無い。ただ、過去が無意味になる行為が嫌いなだけだ。自然と効率も良くなる」
「うちは狐のその考え方好きやで。裏切りと最も縁遠いところ、ほんまに扱いやすくて敵わんわぁ」
だってトリアングロ王国で得た功績、無駄になりかねんもんなぁ。とアダラは怒りを抑えた表情で笑顔を見せる。
べナードが何かあったのか、とサーペントに視線を向けると『か、ら、す』と口パクで説明をした。裏切り者の名前だ。
「……まぁ狐の席に着いたって功績持ちのお前が無意味に裏切るとは考えられんが。お前の起こしたスタンピードを『狐』の名前が着いた存在に止められた、と合ってな」
「…………やはり月組に疑いの目を向けられてもあの時殺しておくんだったか」
「あ、もしかしてそれ女狐ですか? 王都にも噂として広まってましたよ。……もしかしてあの時の『シュランゲ、元グルージャ、ルナールに囲まれた言語不自由娘』が?」
「情報量が多いちょっと待てその話全く知らないんだが報告しろ」
ルナールは、忌々しい旅路を思い返した。
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