最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜序章〜

第111話 ライアー(上)

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 この日、ライアーは人生最大に運勢が悪かった。


 ライアーの冒険者生活は夜中に隠密活動をするため、昼から始まる。
 全ての日をスパイ活動に注げば普通にバレるため、色街には実際よく顔を出すし、金に物を言わせアリバイ工作もする。

 女好きでだらしない万年最弱Fランク。
 Fランク冒険者ライアーの評価はこんな所だろう。

 最後に定められていた任務、『グリーン領スタンピード』のために拠点をダクアに移したライアーは、魔物の活性化を仕組む為に夜な夜な人の血を森に撒いていた。

 血液には魔力が多く流れていると聞く。
 そもそも、魔物を興奮させるのに血は有効だ。

 対人関係に欠陥があると自覚しているライアーは、与えられた任務にこれ幸いと周辺の魔物をダクアにじわじわと集めていた。

 魔物に詳しいわけではない。
 もし襲われても普段通りの速度で逃げれば問題は無い。

「ふわぁ……寝み……」

 そこで金色の髪をした無価値と出会った。
 悪夢の始まりだ。


「どうですぞ、おっさ……」
「お前……詠唱だけならまだしも魔法名すら言わなかったな!?」

 クアドラードに潜伏して随分と長くなる。
 魔法の国では魔法の知識も必要なため、自然と魔法を知るのだが。詳しくない自分でも分かるほどの『異質』さ。

 野を焦がす魔法の腕前がおかしいということがよく分かる。と言うか、逆に魔法に詳しくなく常識しか知らない自分だからこそ常識外れだと判断を下せる。


 その後、ダクアに引き寄せていたワイバーンと鉢合わせるというハプニングに巻き込まれるが無事切り抜け、魔物の報告も誤魔化せた。今ここでギルドに報告して周辺の調査などされたらたまったもんじゃない。



「……使えるな」

 当時はそう判断を下す。
 魔法の腕では無い。無知さに、脳みその回転の速さに。

 そもそも子供連れは疑われにくい。
 トリアングロの計画で多少のタイムラグはあれど一気に事件を起こす為、疑いの目を向けられやすいのだ。特にスタンピードを起こした後、王都か国境に行かねばならない自分からすると。

 目眩しに丁度いい。

「おい」
「……! は、はい旦那!」
「お前らのリーダーに伝えとけ。ヘマしても安心しろ、すぐに殺してやる、と」

 使いっ走りの盗賊にそう伝える。

「じょ、冗談よしてくださいよ旦那。俺たちは主人に言われた仕事はきちんとこなしてますよ。そんな、ヘマなんて」
「どうだかな」

 シュランゲの奴隷の盗賊とは、シュランゲの代わりにコンタクトを取っていた。と言っても全員ではなく1部の代表とだけだが。

「いいか、決して俺たちの情報は漏らすな。お前たちの存在もバラすな」
「へい、それはわかっちゃいますが」

 この盗賊達は元々クアドラード王国からトリアングロ王国に潜入していた者だ。文化の違いに身バレをした彼らを奴隷として魔導具を埋め込み。そして祖国を滅ぼすための手伝いをさせている。

 盗賊は犯人役だ。トリアングロの幹部全ての罪を着せる為に存在する保険だ。

 今のところ死体の処理や、アリバイが必要な時に殺させていたり、そういったことにしか使われてないが。
 ただ元々クアドラードの人間なので警戒は最大限。狐の面をつけてルナールとして訪問を繰り返している。

「ダクアのギルド職員の不正はどんな感じだ」
「俺が冒険者として接触しちゃあいますが。段々大胆になってきたかなー、とは」
「……そろそろ罪を着せる時か。おいお前」
「はっ、はいわかってます! 俺たちの主人はダクアのギルド職員モザブーコ様です! 彼の私利私欲の為に命令を受けてました! ……あの、これで本当に助けてくれるんですよね?」

 ライアーは鼻で笑った。

「あァ。助けてやる」

 全くの嘘っぱちだが。

 主人の罪を着せればトリアングロの潜入幹部がバレる可能性は低くなる。目的を達するまででいい。

「事が起こればお前らはすぐにダクア周辺の魔導具を回収しろ。分かったな」
「はい……!」



 スタンピードのタイミングは狙っていた。
 条件は『ギルドのギルマスとサブマスの両人不在のタイミング』だ。特に元Aランクだったギルマスがダクアに残っていれば拙い。

 幸いギルドマスターという職種は定例会があるので街を離れることもある。問題はサブマスターのリリーフィアだった。


 ここで役に立ったのは盗賊。
 彼らには領主が見過ごせない、リリーフィアが緊急と判断を下せる相手を元々襲わせていた。

 グリーン子爵の私兵団の1人を襲わせた。

 元々の計画の話をしよう。
 シュランゲが子爵邸で報告を誤魔化し時間を稼ぐ。ここまでは実行出来た。
 ルナールが盗賊の根城から証拠を盗み出しギルドに報告をする。そして報告のために消えたタイミングでスタンピードを起こし、原因となった魔導具を回収した盗賊を、今度は『討伐した』と言い信用の為に切り捨てる。自作自演の計画の流れがそれだった。


 まさかダクアでも注目を集めるリックとグレン。そしてリィンが盗賊退治に乗り出すとは思っても見なかったが。


 多少計画に狂いは出たが盗賊の根城から証拠さえ奪えれば誰がどうなろうと問題ない。盗賊とスタンピード様の魔導具の後始末を自分でする事になり、苦労はするだろうが。



「いまっっっっすぐ! 報告するんで! 取得物一覧素直に提出してください! 今からまとめてください!」

 盗賊の報告をすると予想通りリリーフィアが慌てた様子で出発の準備をし始めた。
 ギルドマスターは不在。サブマスターもダクアを離れる緊急事態。

「おっさんなんか禿げちまえーーーーーーーッッッ!」



 ナチュラルに取得物一覧の仕事を押し付けた怠け者のフリをして、ライアーは急いで街の外へ飛び出した。

 北から西回りに、木、火、金、土、水。エルフの使う五大元素とやらで出来た魔導具を置いて行く。
 魔導具を発動させれば火の魔導具は半径5cmを焼きながら、じきに魔物を引き寄せ始めるだろう。

「は、はは。これこそだ! 俺がクアドラードでコツコツとやってきた努力が実を結ぶ」

 どっかの誰かと違い詰めの甘さは無い。

 不安要素の魔法職はあれだけ魔法を使い果たした。よって、スタンピードを邪魔されることは無い。
 魔導具設置の瞬間を見られては拙いので即座にその場から離脱する。

「(それに、あの子供。まだ子供であることを考えると使える)」

 ルナールは外壁の門を誰にも気付かれない速度で入る。速度は、これまでの努力の証だ。その努力は決して裏切らない。無駄にならない。

「(ビビりでヘタレた所があるが拷問を出来る残酷さも持ち合わせ、状況判断の速さもある。他人と息が合わないのが難点だが、アレを使うなら集団より単独だろう)」

 無駄な努力は1番嫌いだ。
 使わない知識など学ぶ時間が勿体ない。必要になれば学べばいいだけだ。

「(恐らく軍に所属しても問題無いはずだ。性質は違うだろうが、演技ならできる。いざとなれば軍人の仮面くらい被れる筈だ)」

 ライアルディ・ルナールは自己主義だ。誰かを守るためとか、誰かを憎むために軍人になったわけじゃない。
 ただ自分の今までの時間を。努力を、苦労を、正しく評価するのがトリアングロ王国の幹部の席であっただけだ。

 今まで培ってきた技術で殺せば幹部に成れる。
 これまで積み重ねてきた実力は幹部で居続ける事で評価され続ける。生きている限りずっと。



 だからライアーはスタンピードを起こせた事に喜びを感じていた。

 ──のに。



「ねぇライアー。コンビ、組まぬ?」

 スタンピードでパニックに陥るダクアの路地裏。
 自分を引き寄せてそう提案する子供の姿に目を見開く。

「は……。あ、いや、都合が……良いような悪いような……」

 この子供を取り入れるならコンビを組んだ方がいい気がする。何故だろうか、嫌な予感がする。

「結論!」

 今すぐに、と問い詰める子供。
 ライアーとしてどう答えればいいのか迷った。

 ふと、自分の襟を握る手が震えていることに気付いて、思わず目を丸くした。

「(ごちゃごちゃうるせぇな)」

 まるで自分の方が優位に立っている様なその姿は普通に腹が立った。
 ライアーはリィンの襟首を掴み、最大のミスを犯した。

「いいぜ、なってやるよ」

 だから早く逃げると言ってくれ。
 魔物がいるからこんな国はうんざりだと。

 自分の足であればスタンピードの群れから逃げられる。それに加え、魔物を引き寄せた場所から考えると安全なルートも考えられる。

 なのにその子供は狐の面を取り出した。
 一瞬心臓が跳ねる。落ち着け、自分がルナールだと言う事はバレてない。

「……でもこれが」

 やめろ。
 やめてくれ。

「1番確率高き」

 ──俺の努力を無駄にするな……ッ!


 ぶわりと浮かんだリィンをライアーは掴もうとする。だが、虚しくもその手は空を切った。

「あいつ、ッまだ余力を残してたのかよ……ッ!」

 早く殺さなければ。
 邪魔される前に、無駄にされる前に!

 化け物の様な魔法を連続して使う姿を見上げながら何もすることがない自分を歯痒く思う。その岩一つ一つがライアルディの今まで費やしてきた時間だと思うと怒りが溢れてくる。
 よくも、よくも。

 東の空が絶望で染まる。
 リィンが西に行くのを見て、ライアーは走り出した。

 ライアルディとして培ってきた最高速度で。


 西の森には見るからに異様なクソデカい水の玉が森を包み込んでいた。
 あそこにいる。

 ライアーは右手の剣を携え、シャドウバットの接近を構えている子供の背中を狙う。頭だ。
 自分の速度で貫くならば頭が有効。たとえ聞き手じゃなくとも、それくらいの威力は出るのだ。

「ッ!」

 振り返──!

 剣先をズラしてシャドウバットへ剣を貫かせる。

「気付くのが遅せぇよ」

 もっと早ければこんなギリギリで踏みとどまらなかったのに。
 自分の視界に入った段階で接近に気付かれればルナールはきっともっと油断を誘えただろう。

 怪しい動きを見せたあとだ。魔法職の子供が空へと飛べば阻止する術はない。
 ライアーは自分の手で殺すことを諦めた。そもそもここに向かうまでの途中、恐らくだがグレンと目が合った。しくじった。

 その代わり戦闘の手を抜き、魔物が殺意を向けるのを無視する。あわよくば魔物が子供を殺してくれてたら。それは残念ながら儚い夢だったが。



 運のいいことに、元々の目的である土地を荒らす事が子供の魔法で叶った。完全に無意味になることは無かったが、それでも腹立たしい事に違いはない。

 やはりクアドラード王国はやりにくい。全ての布石をひっくり返す魔法があるから。

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