最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜第一章〜

第127話 この後布団に潜り込むことに決めた

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「わァ、初めますて、エルフさん! すごい本物ぞ! クラップさん見るして! エルフ耳! ファンタジー! あっ、私リィンって言うです。今日からエルフさんのお世話係になりますた。言語苦手ですけどごめんなさいです」

 大興奮で飛び跳ねながら目を輝かせた私に、緑の髪に緑の瞳を持ったエルフ──エリィは呆然とした。

「………………誰ですの?」


 今のそれ、本音だな?



 朝から慌ただしく掃除をしていた私に何度か考えた様子を見せたクラップの一言がこう。『姫さん、エルフの世話するか』
 エルフに憧れている異世界人としては真っ先に喜び飛び跳ねたけど、想像していたより展開が早くて正直ビビっていた。
 ついでに全然怯えてませんよアピールでクラップに子供みたいに飛び付いてひっつき虫したけどあいつ無表情で引き剥がしたあと適当な兵士に向かってぶん投げやがった。受け身、取りませんでしたよ。取れたらおかしいじゃん。壁とか椅子とかじゃなくて人に向かって投げたのは温情だと思うけど、もう少し絆されてくれたって……。いや無理か。短期間でそんなに変わるわけが無い。

 基地は着々と様子が変わっていく。一番特徴的なのは人が減ったこと。どうやら海軍は残り他の軍兵は出発した様子。冒険者や雑用はまだ残っているが、仕事に余裕も出てきた。
 必死に熟さなくても良くなったということだ。
 もう少しで基地に来て2週間。要するに戦争再開から2週間ということ。攻めていく様子も無ければ攻められる様子もない。

 と、まぁ様子の分からない戦争のことは置いておき、私は今ある仕事を速攻で片付けてエルフの元に向かったというわけだ。
 え? タフ? そんなか弱い女の子見ながら言うことじゃないですよ兵士さん。
 純粋たる馬鹿? 喧嘩なら買うよ。とりあえず前線行ってみ?
 俺にも抱きついてくれ? クラップ以上に取り入る価値があったらね。


 そして現在──


「目が離せねぇ奴らを組み合わせりゃ楽」

 エリィの居た部屋は比較的豪華な部屋だった。一室だけだが幹部並みに大きく、来客用なのか適度に飾り付けもされてある。
 部屋で腕組みながら眺めたクラップの発言にキッと睨みつける。厄介なものを掛け合わせて楽しようって魂胆か。

 未だに飲み込めてないのかポカンとしているエリィを放っといてクラップに近寄る。


「そう睨むな姫さん。この基地も人手不足でな。安心しろ、姫さんが逃げ出さねぇように監視はしとく。そのエルフの嬢ちゃんの面倒見とけよ。わがままに付き合わされるほど暇じゃねぇんでな」
「それで、私は彼女に何をすれば良きですか」
「王都に行くように勧めろ。手段はこちらが用意する。頑として動かないみたいでな」
「……分かりますたけど、この世界の常識ぞ持ち合わせるすてなき異世界人に任せるには荷ぞ重きですよ。まァ、エルフに会えるしたですからいいですけど」

 良くないです。この世のエルフは夢も希望もないです。

「いるものがあったら言え。俺は部屋の外で待機しているから、逃げ出そうとするなよ。俺が姫さん監視しているのに変わりはねぇからな」
「……仕事、ちゃんとしましょうぞ」
「不審人物の監視も立派な仕事なんだよぶん殴るぞ姫さん」
「むぎゃうっ!」

 指揮官に値する人がたった1人の小娘に付きっきりで職務放棄するんじゃないよと忠告するも顔面掴みトリアングロ文化によって物理的に黙らされた。

 その文化、廃止すべき。

「いいか姫さん。例え異世界人だろうと姫様だろうとお前がやるべきは一つだ──」

 クラップは真顔で告げた。

「──やれ」
「あ、あいあいさー!」

 普通に殺気。
 私が敬礼するとクラップはふんと鼻を鳴らしながら部屋の外に出た。ちっ、からかい過ぎたか。

 私はぐるっと振り迎える。
 部屋に残されたのはエリィと私だけ。でも、恐らく中の会話は筒抜けだろうな。


 大混乱中のエリィには悪いけど、こちらのペースに乗せてもらおう。

「エルフさん!」
「は、はい!? なん、なんですの。えっ、というか本当に……リ」
「お名前ぞお聞くすてもよろしきですか! あ、あとエルフについて教えるして欲しいのと、家族構成に好きな食べる物に……。あ、エルフってお肉ダメですか? 私野菜しか食べぬと思うしてたのですけど合うすたです?」
「ま、まっ、お、お待ちに、え、ん、なんで」

 そこそこ・・・・の音量で畳み掛けるように質問をぶつけるとエリィは目をぐるぐる回し始めた。

 さっきっから彼女の脳裏に浮かんでいるのは『誰?』という言葉だろう。そりゃそう、私エリィにグイグイ関わるタイプじゃないし混乱するよね。
 ……あとエリィって腹芸出来なさそうってか本気で出来ないからこちらのペースに持っていく!

「──姫さん自分の言語考えろッッッ!!!!」


 『そこそこ』の音量だったのにも関わらず、耐えきれないツッコミが部屋の外から大音量で飛んできた。
 ふぅん。やっぱりこの部屋の会話は筒抜けか。

 部屋はパッと見2人きり。窓は無く出口はクラップ陣取る扉だけ。盗聴器という文化があるのか分からないけどそういう盗み聞き用の魔導具があるのか、それとも単に壁が薄くて筒抜けなのか。
 真実がどれか分からないけど油断は出来ないってことだね。


 ならやることは一つ。私がエリィを使う。
 ……いやだってグレンさんとやった様な会話が出来ると思わないじゃん。

 べーっ、と扉の外に向かって舌を出すと、改めてエリィに向き直る。
 さて、私の質問にだけ答えてもらおうか。混乱中のエルフさん。

「お名前は?」
「……んぇ? あなた私の名前は知っ」
「あわァゴメンです。実は情報の引き継ぎぞしてなきですて。なので教えるして貰えると嬉しきです。エルフさん名前は?」
「えっ、だってリ」
「あ、リィンですぞ、私の名前。よくリーとか呼ぶされます。それでエルフさん名前は? リィン、エルフさんの名前しるしたいです」
「……………………(ポカン)」
「名前は?」
「え、エリィ……」
「わァエリィサンって言うのですね! エルフの頭文字と同じ名前でです!」


 これぞ不穏カッター。
 怪しい言葉は喋らせてたまるか。

 これならクラップに頼まれた仕事もきちんとしている様に見えるだろう。必殺グイグイ行って王都行きを許可してもらうぜパンチ!


 余計なこと言わせてたまるかキック。

 ここまで上手くやれたから! ルナールの行方が分かったら王都経由で行くのが無難! そこら辺はクラップから探ってやる!

「エリィさんお友達になりませぬか?」
「へ?」
「お友達なりましょ! うん、そうしましょうぞ!」
「えっ、ぇ」

 じわぁ、とエリィの瞳に涙が浮かんだ。

「っ、ぅ、ぐすっ、私、もぅ、お友達、じゃ」
「エリィさん!」

 もうお友達じゃないのですか。
 そう言おうとしたエリィを強制的にキャンセルする。

 えぇーーーんバブちゃんちょっとだけでいいからこちらの意図を組んでよーーーー!!

「もう自己紹介もとっくに終わらせるしてますたし、お友達ですね! 私同じくらいの子とお友達、初めてです! 初めてのお友達! 嬉しき!」

 こうして、ストレスのたまるボロ出し回避の苦行が幕を開けたのである。

 真正面から相手するの面倒くさくてエリィとなるべくサシにならない様にしてたのに! 強制的に会話を続けなきゃならないの! 普通にダメだ! 早めに、早めに終わらせなければ!

 クロロス助けてッッッ!
 もしくはグレンさん!!!



 ==========



「ブエックシュ」
「うっわ、やめろよクロロス。絶対俺に移すなよ」
「殿下に移したら斬首で終わらないのでそういうことは……。誰かが噂しているんですかね」
「あー……」
「殿下? なんでそんなめちゃくちゃ遠い目をしてるんですか? どこ見てるんですか」
「リィンが、あのエルフの子目の前にしてめちゃくちゃ疲れ果ててるみたいだからそういうことだと思う」
「………………。」
「思ってること当ててやろうか」
「いりません」
「ざまぁみろって」
「いりませんって言ったじゃないですか!」



 ==========



「…………姫さん生きてるか?」
「無理」

 ようやく今日の仕事から解放された私はお風呂入った後にクラップの私室で夜伽をしながら疲れ果てていた。

「エルフ……もっと大人で清廉で……頭が良くって……」
「エルフに憧れてりゃそうなるわな」
「分かるしてて私に仕事振りますたね?」
「当たり前だろ」

 銃で出来た傷を手当し、手に出来た火傷も手当をする。少しずつ傷はマシになってきているけど、お腹に出来たふっかい穴が空いた火傷が未だに熱を持っている。
 これ、手当てをサボったらすぐ腐るだろう。

「姫さん、手を止めるな」
「うん」

 ぐるぐると包帯を巻いていく。
 医療知識もろくにない、回復魔法も使えない私に人を癒すことなんて……。可愛い笑顔くらいしか思い浮かばない……っ! くっ、私が美人に生まれてしまったばっかりに敵国に侵入し簡潔に指揮を上げてしまう……!

「(今なぜかすごい不愉快な気持ちになったな)」

 全自動癒し作成機の私の話は置いておこう。
 それよりエリィ任務から早く終わるために必要な情報を集めないと。

「この国って、王都までどれくらいかかるですか?」
「……方法による」

 いくつかあるのかぁ。

「エリィさん、多分長期移動に耐える出来る様な人じゃなきですよ。基地が用意ぞしてるルートですと、どれくらいかかるですか」
「………………5日だな」

 思っていたより速い。
 魔法ありきで国境から王都までの距離感を最短2日で駆け抜けたクアドラードと違い、この国は魔法がない。
 途中的に大きさはそう変わらないと思うんだけど。

「その前に休憩ぞ入れることって」
「……滞在時間を除き、移動時間が1日伸びるが都市圏に寄れるだろうな」
「としけん」

 分からない。
 地形は誤魔化されている感が半端ない。

 くそ、クラップから地形を探るのはやめておこう。引き際が肝心だ。むしろ冒険者組の方が手に入れやすいだろう。

「終わったら茶」
「……クラップさん絶対モテないですぞね」
「はぁ?」
「なんでもなきでェ~す」

 くっそ濃いお茶を入れる。おぼつかない手つきで大体これくらいかな、と。
 うーん色が濃い。前世で言うところの緑茶に近い飲み物だと思うんだけど、この濃さ普通に抹茶レベル。味見もしたくない。
 クアドラードは紅茶圏なんだ、許してね!


 ……ま、入れ方は分かるけど。わざとだわざと。嫌がらせとも言う。

「はいどうぞ」
「ん」

 クラップは士官心得を片手に読みながら、湯呑みに入ったお茶を口に入れると眉を顰めた。一瞬で表情を戻し何事も無かったの様に飲んでいるけど。
 私が料理下手と思ってるんだろうな。
 お茶くらいなら自分でも入れて飲むから、謎の毒混入は起こらないし満足いく味になるけど。そんなこと知らないクラップは飲み進めた。

 なんか、普通に負けた気分。

「それでクラップさん」
「仕事は終わりだろ、はよ寝ろ」
「私結構ミィーハァなのですけど」
「今めちゃくちゃ変な発音だったが」
「みぃ」
「……」
「はぁ」
「……ミーハーな」

 床に体操座りして膝を抱え込みながら椅子に座るクラップを見上げる。

「クラップさん以外の幹部ってどんな人がいるですか?」
「……敵に情報漏らすと思うか?」
「一応言うして起きますが私がスパイだとしても情報を味方に渡すが可能と思うしてます?」


 意訳:私が味方に情報渡す隙をまさか作ってくれるんですか?


「………………姫さん。それ素か? わざとか?」

 クラップも言葉の裏は読めるんだなぁ。そりゃそうだ。

「素でこの口調ぞ」

 わざと煽るように言ってます。
 口調は本当だけど。

 今の私は好奇心旺盛な天然さんだから! そう、天然は養殖なんだ!

 斜め上の発言すれば人間誰だって頭いかれてるか天然って評価になるんだよ覚えておきな。

「はー。姫さんって生きるの大変そうだな。エルフを人だと言ったり金髪青眼だったり、俺に目をつけられたり」
「全くもってその通りですね!?」

 あっ口から煽る言葉が自然と溢れ出ちゃった……!

「エェッと、いっぱいいるのですぞね、幹部って。クラップさんが、鯉。フロッシュサマが、蛙」
「敬称」
「じゃあ、えっとこの前ここに来た…………。るにゃーるサマとべなーっとサマは?」
「…………ルナールは狐でべナードが鹿」
「ほわ、鯉よりずっと強き名まあだだだだだだだ!」

 顔面ッッッ!

「チェンジ!」
「そんな機能はねぇよ」
「ヤダー! クラップさんヤダー! 狐さんか鹿さんがいいー! どこにいるですか取り入るので教えるして!」
「俺の目が黒い内にこの基地から出すと思うなよ」
「えっ、クラップさんの目って赤めの色で黒とは遠きですぞね?」
「慣用句! 揚げ足を取ろうとすんな」
「異世界人に言語でどーこー言うしないでくれませぬか!?」

 いじめられてヒンヒン泣く。チラッ、チラッ。気にした様子は無さそうだ。ちぇっ。

「それで、どこにいるのですか? 私クソ寄りの茶髪って好きなのですけど」
「ちゃっかり見た目の情報仕入れてんじゃねぇよ。それも、それは普通に悪口だからやめとけ」

 クラップさんは頭痛いとばかりにため息を吐いた。

「あいつらなら今は王都だ。姫さんが近寄れるわけがねえ。諦めて俺にしとけ」

 っ、ほほう。
 本当か嘘かはさておき、ひとまず目標地点が決まった。王都だな。

 残念遠いなー、という表情で肩を落とす。

「いいからそろそろ寝ろ」
「はぁい」

 もそもそと布団に入る。
 有力な情報も手に入れたし、そろそろ寝ようかと目を瞑った。微睡みが私に襲いかかる。
 明日はエリィに王都に行くという言質を取って私も同行するようにわがまま行ってもらうことにして、それで……。


 眠…………。

「…………前、何故戦争をするのかと言ったな」

 それは夢か現実か分からない状態で聞こえてきた言葉。

「俺は軍人だから戦う。国にそう命令されたから人を殺す。それが、人を殺しても裁かれない席についた、俺の報いだ」

 床は固くて、寒い。
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