【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第二十四話 王弟と王太子と第二王子と

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「まてっ、待ってくれ! 兄上、とめっ、止めてっ!」

「…………そのくらいにしてください叔父上。剣をおさめろエドガー」


そのくらい、というがギザーク、私はまだギースの幼少期の恥ずかしい話シリーズから13個話しただけだ。
イモモが好きだから自分で育てたいと言って専用の畑を作ってもらったのに植えた種がただの雑草でしかも繁殖力が強かったことから付近の畑にまで広がって農士から苦情がきたとか、お忍びで市井に行ったときに見た大道芸の変な踊りをずっと陰で練習していたこととか、10歳までおねしょしていたとか、腕に包帯巻いている騎士がかっこいいといって怪我もしていないのに左手に包帯を巻いて「傷がうずくぜ……」と言って会う人会う人に中二病を披露していたこととか、田舎の別邸に行ったとき女性の御不浄で覗きをしようとしていたら最初に来たのがジャデリア妃(ギースの母)で見つかってこってりしぼられたとか……まだまだこれからだ。


「聞いているこちらが恥ずかしいです、叔父上」

「まだ足りないだろう」

「グイスト。それはそれで聞きごたえがあるが、肝心のエリシャの件がまだだ」

「ああ、そうだったな」

「なっ、なんなんだよぉ~!」


魔装戦会場にいくつかある、王族専用個室で大会を観戦していたギースのところへ、映像に映っていた生徒について聞きに来たのだが……、コイツがあまりにも「知らないよぉ」「取り巻きなんて勝手にいるだけだよぉ」「誰だよぉ」と語尾が気持ち悪いので、早く吐かないと幼少期の恥ずかしい話をここで暴露するぞ、と脅したのだが話さないから私が延々と昔話をすることになったのだ。


「その映像の女生徒なら、よくピオミル嬢と一緒に来ています」

「えぇ? そうだっけ?」

「はい……ギース様の目には、ピオミル嬢しか映っていないようですが」

「ピオミルだと?」


エドガーが反応した。

ギースの側近の、ダイアン・サルシドだ。言うならおとなしく13個もエピソードを聞いていないでもっと早く話せばいいものを。まあいい。そうか、よく皆で一緒にいるからギースの取り巻きかと思ったが、ピオミルの友人だったのか。そういえば側近も、今は一人しかいないようだが……。


「で、そのピオミルはどこにいる?」

「先ほどまで一緒に観戦していたのですが……」

「お化粧直しって言って出ていきました」

「そうか」

「…………」


ギザークが聞くが、ダイアンは行き先は知らなかったようで、ギースが補足して答えた。そうか、といないことを納得して言ったが、エドガーは何やら難しい顔をしている。


「エドガー?」

「……ああ、すみませんギザーク様。ピオミル……あの女は一体なんなのでしょうね…………」


なんなのか……今は家を出て近衛の隊舎で暮らしているエドガーはほとんど接点がない。次期侯爵であるから家の内情はきちんと把握しているようだが、やはりピオミルとその母についての真相は、ポジウム侯しか知らないようだ。


「ポジウム侯は、今はジダール海峡だったか」

「はい。海峡を挟んでモボ国とにらみ合いをしているはずです」


まだしばらく戻ってくるまでに時間がかかるだろう。
今までは、侯爵はエストルム邸には寄り付かなかったようだが戦地から帰ると陛下には挨拶をしにきている。時期も時期だし事情も事情だ。今度戻ったら、一度話してみよう。


「ギース様ぁ、お ま た せっ」

「おお、ピオミル! ドレスを変えたのだな? うんうん、いいぞいいぞ」


ギース以外の、室内の皆が同じ顔をしていた。

いつもだいたいピンクのフリル満載のドレスだが、今日もいつものピンクのフリル満載のドレスだった。


「だ……ださっ……」

「ギザーク」

「ふっ……だって叔父、うえ……っ」


ださい、確かにそうだ。

女性のドレスについて詳しいわけではないが、なんというか、ださいという言葉がぴったりな、学園に通う年齢で着るようなものではない、幼稚なドレスだった。
それをギースは褒めて讃えて、プレゼントした甲斐があったと……プレゼントしたのか、お前が。


「って、あらぁ、お兄様じゃない! まあ! ギザーク様にグイスト様まで!!」


気づかれた。

フリルが迫ってくる。


「私はお前の兄ではないと、何度言ったら――」

「相変わらずイケメンですねぇ」

「……誰が、私を名で呼ぶことを許可した?」

「えっ? ギザーク様?? やだ、お顔が怖――」

「二度はない」

「えっ? あ、っ!!」


ギザークの連れていた護衛が、ピオミルを拘束した。


「牢に入れておけ」

「えっ? な、なんで!? ちょっ、やっ、離してよっ!!」

「あ、兄上!」


格下の貴族が格上の貴族に向かって、許可されていなければ、名を呼んだだけでも不敬罪だというのに、ましてや平民が王太子の名を軽々しく呼ぶなどと……ほんとうに教育は受けていないようだな。横目で見たらエドガーの顔が青ざめていた。


「ああ、いい。エストルム家とは無関係とする」

「……はっ」


これでエリシャの件を、ゆっくりじっくり取調べできそうだ。




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