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第二十五話 主人公は本編を生きる
しおりを挟む「すばらしいですわ!」
「よかったですね、見れて」
「ええ! 一回戦見逃がしたのは惜しいけれど、白銀の鎧が見れたのだもの、大感動ですわ!」
変な事件に巻き込まれ、気を失っている間に終わってしまった一回戦は心残りですが、それはあとで記録映像で拝見しましょう。
ジオラルド様は、わたくしが見逃した一回戦では水魔法を選択したらしく水魔装だったようですが、二回戦は氷魔装! しかも、通常の氷魔装ですと白銀の鎧ですけれど、この戦いでは白金を纏っての戦い……とてもとても美しく見事でしたわ!
ちなみにわたくしは、自身の一回戦に間に合い、水の魔装と水の刀で戦いました。相手がよかったのか、水を纏い刀をひと振りしただけで対戦相手の火の魔装が解除され、判定勝ちとなりました。弱点魔法同士の戦いは、魔力量と質の違いで一瞬で勝負がつくのです。同等なら、拮抗して引き分けですけれど。
魔装戦では、戦いごとに使う属性はひとつと決められています。わたくしは一回戦は水魔法を選択しましたが、以降はお相手の得意魔法の弱点を選択していました。まあ得意魔法を必ず使うとは限りませんので、三回戦では同じ属性になってしまい火魔法対火魔法で戦い、魔力量の多さでなんとか勝利しましたけれど。
「でもお嬢さま、ハーティシャー様と当たったらどうするんですか?」
「えっ、そうね、どうしようかしら」
「えっ、まさか考えていなかったと?」
「えっ、そうね……」
忘れていたわ。
ジオラルド様の戦いが見れる見れると喜んでいたけれど、わたくしも同じ大会に出ているのでしたわ。トーナメント戦ですから、勝ち上がればどこかで当たることになります。ちなみに、男女混合ですのよ。騎士や兵士と違って、魔法使いに男女差はありませんから。
「勝っちゃいますか」
「お相手は、魔法師団からも破格の待遇でスカウトが来ているくらいの、学園始まって以来の魔法使い様ですからね」
伯爵家の五男であるジオラルド様は、お家を出ることが決まっているとお聞きしました。魔法師団に入団なさるというお話しです。氷魔法は随一の実力者。そのほかの魔法でも常人では敵わないですし、魔力は底なしだとか。対してわたくしは、水魔法が得意といっても水属性でかろうじてジオラルド様より授業での成績が良く、学年一位を取れるくらいです。魔力もそこそこはありますけれど、さすがに学園始まって以来の魔法使いに敵うとは思えませんわ。
「わたくしが一番得意な水魔法を選択して、ジオラルド様が火か水なら勝てる可能性もあるかもしれませんけれど……」
「弱点属性でも魔力量で押し負けるかもしれませんね」
「そうですわよね……わたくし相手にあえて水を選択するなんてこともないでしょうし」
とまあ、そんな心配するだけ無駄でした。
なぜなら、順調に勝ち上がってはいたものの、第五戦の相手が、相性最悪の雷魔法を選択したからです。
「ほほほほほっ! エリシャさん、私に水魔法で勝とうなんてさすがに無茶が過ぎるのではなくて?」
「え、ええそうね、ファルミアさん……もう、痺れて動けませんわ……」
「審判っ! 私の勝ちですわっ!」
と、いうわけで、私はファルミア・マクラーレン様に惨敗しました。
金髪巻き毛のファルミアさんは、その髪がふわふわと舞う蝶のように見えることからお蝶令嬢と呼ばれています。マナーのなっていない者には厳しく、よくピオミルさんが「廊下を走るなんてはしたないですわ!」とか「音を立ててお食事をするなんてマナー違反です!」とか「王子殿下に気安くしてはいけません!」とか「スカートが短い!」とか「胸元のボタンを留めなさいはしたない!」とか注意されています。本人は親切心で言っていますし、当然のことなので注意されるほうがどうかしているのですが、何分お蝶令嬢の語気が強いので、いじめているのでは……?と見る者もいるそうです。わたくしにとっては、ツンデレで可愛らしい幼馴染なのですけれど。
そのお蝶令嬢は、得意な属性がなく、どれも平均以上に扱える凄腕です。わたくしが一番得意なのは水魔法、これは皆さん知っていることです。ですので、知られている水魔法は選択しないだろうと思われていると考え、あえて水魔法で挑んだのですが、裏目に出てしまいました。水と雷は最悪の相性ですから。
「残念だエリシャ嬢。君と戦うのを楽しみにしていたんだが」
敗戦後にやってきたジオラルド様が、眉毛を下げてそうおっしゃったときには、きゅんがきゅんして魂が抜けるかと思いましたわ。
「おーい、帰ってこーい」
ジオラルド様が去ってから、リノに声をかけるまで放心状態でした。
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