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第二章 外国漫遊記
第十話 旅の終わり
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「閉店、した?」
「ええ。つい昨日、後処理をして旅立たれたようですよ」
「そ、そんなぁ……!!」
皆さんこんにちは。エリシャ・エストルムです。
第一章でなんやかんやあり、冒険者となり国を飛び出した私ですが、どうやら楽しい冒険はここまでのようです。
冒険者登録をし国を出て、魔の森セーラ・デ・サンバロッソを抜けてDランクになったところまではよかったのです。
が、ここ最近の砂糖価格の高騰により、マゴールパティシエの〝甘い愛〟が休業してしまっていたため、目的のひとつであるマゴールパティシエのボルティ限定ギャロ菓子を食べることができませんでした。
ドセ・アモォルにだけ砂糖を届けたとしても、お店は休業中でしたし、お菓子を食べられない可能性のほうが高かった……。
ですので、心置きなくギャロ菓子を食べるには、砂糖を国内に行き渡らせる必要があると考えました。
そのためには、国の税率を決める議会に参加できるような人物と話をする必要があります。
私はまず、ボルティ国内の南に位置するセトゥーバル領の領主夫人、スイ友であるベネディータ様を訪ねました。同領内の聖女様を紹介してもらうためです。
聖女様は、この国の王太子の婚約者ですから、話を通せるとしたらこれ以上の有権者はいません。国王以外。
それなのに、聖女様の後見人を引き受けているモーニシュ家が、聖女はいないと言ってきました。
怪しいところがありましたので直接モーニシュ家を訪ねると、その家族がいろいろと問題だったようで、なんやかんやで当主と妻、娘が領警備団に連れていかれました。
残された聖女様をどうするか、婚約者である王太子にまずは相談しようと城を目指します。相談するまでもなく、再会したおふたりにラブラブっぷりを見せつけられました。
聖女様は、これからはモーニシュ家が妨害して遅れていた王太子妃教育を城で行い、来年末にはご結婚されるそうです。
ついでに、ボルティとジャービーの戦争に辟易していたらしい王太子からの提案で、即位したあかつきには終戦の方向に持っていくという書状も手に入れました。ご即位は間もなくだそうです。
そして本命の砂糖のありえない税については、すぐに戻してから首謀者をあばくと王太子にお約束いただきました。
これでいろいろと片付いたので、間もなく砂糖が手に入るようになると伝えたくて、店舗には誰もいないかもしれないけれど逸る気持ちを抑えきれず、マゴールパティシエのボルティ国唯一の店舗ドセ・アモォルに来てみたら……。
冒頭に、戻ります。
マゴールパティシエは、旅立ったあとでした。
対応してくださったのは、店舗のオーナーであるボアベンチュラ・バスコンベロスさんでした。
「エリシャ…」
「グイスト様……どうしましょう。マゴールパティシエは、どこに行ったのでしょう?」
「また、噂を聞くまではなんとも」
「そうですわよね……ボアベンチュラ・バスコンベロスさんは、マゴールパティシエの次の行き先をご存じありません?」
「ああいや、すんません。行き先は…」
「そうですの…」
店の前で膝をつき項垂れる私の背中を、グイスト様がそっと優しく撫でてくださいます。
ボルティ限定のお菓子は、ボルティでしか食べられません。お店があったならば、ご本人がいらっしゃらなくても販売していたことでしょう。
しかし、もう、この国唯一の店舗は引き払ってしまった……。
もう、ボルティ限定のお菓子は、食べられません……。
もしかして、もしかしたら、お願いしたら作っていただける可能性は、ないことはないかもしれませんが、限定というのはそうやって手に入れるものではありませんから……。
「彼の菓子は、ほかの国でもいろいろな限定品があるだろう?」
「はい……。 え? 彼?」
「ああ。だから、また違う国を目指そう」
「そう、そうですわね。こんなところで悲観に暮れている場合ではありませんわね。彼女のお菓子は、それこそ世界各国で販売しているのですから」
「まだまだこれからだ」
「っ、はい!」
そうして私たちの旅は、いったん終わりを告げたのでした。
まずは、ホジェリオ様からいただいた終戦の意を伝える書状を持って、いったん帰国しましょう。
「帰りだが、もう一度セーラ・デ・サンバロッソを通るか?」
「えっ、そうですわね…」
あの三日間を、思い出します。
寝ても覚めても、とは言いませんが、起きているときは大体何かしらと戦っていた、あの三日間を。
剛毛ベアーは水の矢一発で撃ち抜けるようになりましたが、それが何体も出るのだから、結局何発も撃つことにはなりますし。少ないわけではないけれど、多くもない魔力量ですから、じわじわと疲労だか何だかが蓄積していくのです。あまり好ましい感覚ではありませんでした。
「来た時よりもゆっくりじっくり進めば、戻るころにはCランクに上がれると思うが?」
「そんなにランク上げを急いでいるわけではありませんけれど、せっかくの機会ですから行きますか、魔の森セーラ・デ・サンバロッソ」
「さすがエリシャ。向上心が半端ないな」
「ふふっ、夜の見張りは交代制ですわよ?」
「いや、いいんだ。私がやろう」
「だめですー。交代制です」
「それでは、かわいい寝顔を見る機会が減ってしまう」
「だっ、だめです! もう、夜はずっと私が起きてます!」
「それはさすがに無理だろう。一日や二日ではないんだ」
「そっ、だっ…」
「ははっ、真っ赤だぞエリシャ」
「う、ううー…」
「そんな顔も、かわいいな」
「ちょっ! 耳元でしゃべらないでくださいます?! は、離して!」
このあと、結局魔の森セーラ・デ・サンバロッソでは戦闘に疲れ果て、夜は爆睡してしまいました。四日連続でグイスト様に寝顔をさらすことになりましたが……、グイスト様はいつ寝ていらっしゃるのでしょう? 寝不足には見えない顔色ですけれど。艶々していますし、ニコニコしていますし、謎です。
そして、たんまりと素材を手に入れ討伐記録を記し、魔の森セーラ・デ・サンバロッソを抜けたところで、ボルティ国への冒険は終わりを迎えました。
次はどこへ行こうかしら、グイスト様?
「ええ。つい昨日、後処理をして旅立たれたようですよ」
「そ、そんなぁ……!!」
皆さんこんにちは。エリシャ・エストルムです。
第一章でなんやかんやあり、冒険者となり国を飛び出した私ですが、どうやら楽しい冒険はここまでのようです。
冒険者登録をし国を出て、魔の森セーラ・デ・サンバロッソを抜けてDランクになったところまではよかったのです。
が、ここ最近の砂糖価格の高騰により、マゴールパティシエの〝甘い愛〟が休業してしまっていたため、目的のひとつであるマゴールパティシエのボルティ限定ギャロ菓子を食べることができませんでした。
ドセ・アモォルにだけ砂糖を届けたとしても、お店は休業中でしたし、お菓子を食べられない可能性のほうが高かった……。
ですので、心置きなくギャロ菓子を食べるには、砂糖を国内に行き渡らせる必要があると考えました。
そのためには、国の税率を決める議会に参加できるような人物と話をする必要があります。
私はまず、ボルティ国内の南に位置するセトゥーバル領の領主夫人、スイ友であるベネディータ様を訪ねました。同領内の聖女様を紹介してもらうためです。
聖女様は、この国の王太子の婚約者ですから、話を通せるとしたらこれ以上の有権者はいません。国王以外。
それなのに、聖女様の後見人を引き受けているモーニシュ家が、聖女はいないと言ってきました。
怪しいところがありましたので直接モーニシュ家を訪ねると、その家族がいろいろと問題だったようで、なんやかんやで当主と妻、娘が領警備団に連れていかれました。
残された聖女様をどうするか、婚約者である王太子にまずは相談しようと城を目指します。相談するまでもなく、再会したおふたりにラブラブっぷりを見せつけられました。
聖女様は、これからはモーニシュ家が妨害して遅れていた王太子妃教育を城で行い、来年末にはご結婚されるそうです。
ついでに、ボルティとジャービーの戦争に辟易していたらしい王太子からの提案で、即位したあかつきには終戦の方向に持っていくという書状も手に入れました。ご即位は間もなくだそうです。
そして本命の砂糖のありえない税については、すぐに戻してから首謀者をあばくと王太子にお約束いただきました。
これでいろいろと片付いたので、間もなく砂糖が手に入るようになると伝えたくて、店舗には誰もいないかもしれないけれど逸る気持ちを抑えきれず、マゴールパティシエのボルティ国唯一の店舗ドセ・アモォルに来てみたら……。
冒頭に、戻ります。
マゴールパティシエは、旅立ったあとでした。
対応してくださったのは、店舗のオーナーであるボアベンチュラ・バスコンベロスさんでした。
「エリシャ…」
「グイスト様……どうしましょう。マゴールパティシエは、どこに行ったのでしょう?」
「また、噂を聞くまではなんとも」
「そうですわよね……ボアベンチュラ・バスコンベロスさんは、マゴールパティシエの次の行き先をご存じありません?」
「ああいや、すんません。行き先は…」
「そうですの…」
店の前で膝をつき項垂れる私の背中を、グイスト様がそっと優しく撫でてくださいます。
ボルティ限定のお菓子は、ボルティでしか食べられません。お店があったならば、ご本人がいらっしゃらなくても販売していたことでしょう。
しかし、もう、この国唯一の店舗は引き払ってしまった……。
もう、ボルティ限定のお菓子は、食べられません……。
もしかして、もしかしたら、お願いしたら作っていただける可能性は、ないことはないかもしれませんが、限定というのはそうやって手に入れるものではありませんから……。
「彼の菓子は、ほかの国でもいろいろな限定品があるだろう?」
「はい……。 え? 彼?」
「ああ。だから、また違う国を目指そう」
「そう、そうですわね。こんなところで悲観に暮れている場合ではありませんわね。彼女のお菓子は、それこそ世界各国で販売しているのですから」
「まだまだこれからだ」
「っ、はい!」
そうして私たちの旅は、いったん終わりを告げたのでした。
まずは、ホジェリオ様からいただいた終戦の意を伝える書状を持って、いったん帰国しましょう。
「帰りだが、もう一度セーラ・デ・サンバロッソを通るか?」
「えっ、そうですわね…」
あの三日間を、思い出します。
寝ても覚めても、とは言いませんが、起きているときは大体何かしらと戦っていた、あの三日間を。
剛毛ベアーは水の矢一発で撃ち抜けるようになりましたが、それが何体も出るのだから、結局何発も撃つことにはなりますし。少ないわけではないけれど、多くもない魔力量ですから、じわじわと疲労だか何だかが蓄積していくのです。あまり好ましい感覚ではありませんでした。
「来た時よりもゆっくりじっくり進めば、戻るころにはCランクに上がれると思うが?」
「そんなにランク上げを急いでいるわけではありませんけれど、せっかくの機会ですから行きますか、魔の森セーラ・デ・サンバロッソ」
「さすがエリシャ。向上心が半端ないな」
「ふふっ、夜の見張りは交代制ですわよ?」
「いや、いいんだ。私がやろう」
「だめですー。交代制です」
「それでは、かわいい寝顔を見る機会が減ってしまう」
「だっ、だめです! もう、夜はずっと私が起きてます!」
「それはさすがに無理だろう。一日や二日ではないんだ」
「そっ、だっ…」
「ははっ、真っ赤だぞエリシャ」
「う、ううー…」
「そんな顔も、かわいいな」
「ちょっ! 耳元でしゃべらないでくださいます?! は、離して!」
このあと、結局魔の森セーラ・デ・サンバロッソでは戦闘に疲れ果て、夜は爆睡してしまいました。四日連続でグイスト様に寝顔をさらすことになりましたが……、グイスト様はいつ寝ていらっしゃるのでしょう? 寝不足には見えない顔色ですけれど。艶々していますし、ニコニコしていますし、謎です。
そして、たんまりと素材を手に入れ討伐記録を記し、魔の森セーラ・デ・サンバロッソを抜けたところで、ボルティ国への冒険は終わりを迎えました。
次はどこへ行こうかしら、グイスト様?
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