【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第二章 外国漫遊記

第十二話 幕間② 街歩き

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「へっへっへ、おきれいなお嬢さん。ありったけの金を置いてってもらおうか」

「それは、困りましたわね」


ありったけの金、と言われても、買い物目的で出てきたわけではありませんから、1イェーンも持っていません。

そもそも買い物は、家に来る商会から買うものですし、街でも侯爵家御用達のお店で買いますから、請求は後日家に来ます。その場で現金で払うということはいたしません。

たまに屋台で串肉を買って食べたくなる時は、リノに立て替えてもらっていましたし、ああ、小切手なら持っていますけれど。


「なので、ありったけと言われても困るんです。小切手切りましょうか? まあ、簡単には換金できないでしょうけれど」

「何言ってやがる! そんな身なりしてんだ、金持ちだろ?!」

「まあそうですね、金持ちではあります。ですが、金持ちは、今すぐ使えるようなお金を持ち歩いてはいないんですのよ? ご存じない?」

「ば、ばかにしやがって!」

「まあまあまあまあ、旦那。やめといたほうが身のためですよ?」

「っ、はあ?! 誰だっ、なっ、顔が良いな、てめェ!!」

「…リノ?」


馬鹿にしていたわけではないのですが、何かしらが癇に障ったようで激高する物取りさん。今にも飛びかかってきそうだったので、防壁を張るか攻撃しようか迷っていたところ、間に割って入ってきた人がいました。

後ろ姿でもすぐわかります。ずっと、その背に護られていましたから。


「はいはいリノですよーお嬢様。お久しぶりです。あんたたちは、これ以上この人に関わるのはやめたほうがいい。 金持ちすぎる金持ちは金持歩かないし、身ぐるみはがそうなんて手を出したら痛い目見るからさ」

「あぁああ? なんだこのイケメン。文句あんのか! お前が金出せ!」

「文句あるから割って入ったんだし、金は出さねぇよ。痛い目見ないとわかんないってんなら俺が相手になるけど?」

「やっちまえ!」

「「おおー!!」」


リノに飛び掛かる物取りさんたちでしたが、あっという間に飛んで行ってしまいました。ええ、読んで字のごとく、お空に飛んでいきました。


「わああぁぁぁぁぁ……」



「ふう」

「相変わらずめんどくさがりですわね。警備に突き出さなくてはだめでしょう」

「まあ、あのくらいの小物いいでしょ」

「ふふっ、あなたらしいですわ」


物取りさんがお空の星になり、危機は去りました。危なかったですわ。私が反撃を選んでいたら、辺り一帯の崩壊は免れませんもの。


「いやあしかし、久しぶりですね。…ん? 久しぶりですか??」

「そうでもない…ですわね」

「こんなところで何してるんです?」

「街歩きしていますわ」

「なんで?」

「暇、だったから?」

「冒険者やめたんです?」

「やめていませんわ」

「え、あのお別れから、一か月しか経っていませんよね」

「あのお別れ、というと退職金をせびりにきたときのこと?」

「違います。あの、一緒にいかないのかーって話したときのやつですよ」

「ああ、結婚して花屋になるからーって話したときのやつですわね」

「そうです。結婚して花屋になりました」

「ねえ、なんで式に呼んでくれなかったの? というか、いない時を狙って挙げたのよね」

「バレました?」

「ちゃんとお祝い準備してたのに」

「それで、退職金あんなにくれたんですか?」

「まあ、それもあるしあれもあるわ」

「へー」


退職金だけでも、10年も勤めてくれてくれていたのだからあれくらいは当然ですけれど、呼ばれなかった結婚式のお祝いも入れていました。気持ち程度ですが、新婚さんは、お金が必要かと思いましたし。


「お花屋さんは? 順調?」

「今、改装中です。もらったお金で」

「そうなの?」

「ええ。花屋に併設してカフェも開店しようと思いまして」

「へぇ」


花屋併設というならば、メニューには当然エディブルフラワーを使った何かしらがあるということね?
ケーキの飾りに色とりどりの花を使うのもいいし、ドーナッツなんかは生地から色を変えて同色の花で飾るなんていうのもすてきでしょうね。ゼリーの中に閉じ込めてたら、宝石のような美しいものができそう。

楽しみだわ!


「送りますよ」

「リノ、牛串が食べたいわ。サーロイン」

「ええー…」

「サーロインっ」

「はいはい、わかりましたよ」

「やったっ」


いつも寄っていた串焼きの屋台で、一番高い牛串を買って食べました。エストルム邸まで送ってくれたリノは、当然のようにその代金を、久しぶりの再会を喜ぶヴァルデマールさんに請求しています。


「じゃ、また」

「ああ、リノ。アーシャさんにこれを持って行きなさい」

「これ? なんすか」

「先日偶然お会いしたのだが、カフェの内装に悩んでいるだろう? 参考になるカタログがあったから渡してくれ」

「ああ、あざーす」


なんだかんだで、みんな仲良くやっているのですわね。
邸のひとたち、何人かは結婚式に参加したみたいだし。あまり久しぶりでもないようです。

あら? 私だけ? アーシャさんにお会いしたことすらないのですけれど。

ほんとうは脳内恋人で設定花屋さんだと思っていたのですが、どうやら実在する人らしきアーシャさん。
このリノの奥様になるなんて、きっとすごい人に違いありません。ぜひお会いしたいものです。


「ご挨拶に」

「やめてくださいよ」

「お会いしたいわ」

「ほんとうに、ザ・平民なんですよ。元王子妃候補だとか現王弟の恋人だとかのお姫様を前にしたら、きっと気絶してしまいます」

「そんなはずありませんわ」

「とにかく、エリシャ様は絶対来ないでくださいね。まあ、今は来ても店改装中ですけど」

「住居は店舗とは別なの?」

「そうですけど、教えませんよ」

「けち」

「はいはい。じゃー俺はこれで。ちゃんと冒険者やるんですよー」

「またすぐ旅立つわよ!」

「ははっ」



隠されると、余計に気になります。アーシャさんとは、いったいどんな方なのでしょう。
久しぶりにリノのペースに乗せられて、口調も砕けきってしまいました。

あら? でも、冒険者ならこれくらいがいいのではないかしら?




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