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第二章 外国漫遊記
第二十七話 開会式待機中②
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「女神エリシャ、もしや国同士の諍いを気にしておられるのか」
「あっ、まあ、そうですわね。…気にしないわけにもいきませんから」
「俺は、いただいたご恩を決して忘れない」
「ああ、俺もだエリシャさん。そう固くならないでくれ」
「もしも俺と結婚してくれるのなら――」
「お前は! そんな危ねぇこと言ってんな! どう考えてもこのふたりデキてんだろ! ルシエンテス公爵だぞ?! 無駄な火の粉をまき散らすんじゃねぇぞ!」
結婚、のところでブワッと殺気を放ちガッと剣に手をかけたグイスト様の右手。それをサッと掴むと、フッと力が緩んだので、その顔をそっと窺うと、まあよくわからない真顔でした。
「そう、見えるか」
「え?」
「『このふたりデキて』るように、見えるか」
「あっ、ああ、はい。グイストさん、いやルシエンテス公爵殿下。短い時間でしたが行動をともにして、お互いが支えあっているというか、そんなふうに見えて、仲良しなんだろうなーなんて思い、ました」
「そうか……。いやいいんだ、名前で呼んでくれ。気安くしていいぞラクレンバル」
「あ、ああ。ありがとな、グイストさん」
満足したらしいグイスト様は、笑顔になりました。
しかし、部屋の空気はあまりよくありません。
それもそのはず。ここには推薦制でVIPチケットを贈られた人のほかに招待客もいるのです。モッラーロや、もちろんフィレンセの貴族も。
そんな中で王子が敵国の王弟公爵や貴族令嬢と話をしていたら、注目も浴びるというもの。先ほどグイスト様が殺気を放たれたときから、部屋の中の人がみな、凍りついています。
「自己紹介は済んだのかしら?」
「王子妃殿下」
腐ってもしっかり教育を受けた身、間違っても公の場でアンナさんだなんて呼びません。それは、弟君も、従兄弟君も、グイスト様も同じでした。
「エリシャさん! すてきね。薄いグリーンのはかなげなドレス、とても似合っているわ」
「ありがとうございます、アントワネット様。そちらも…ひまわりの生花ですの?このような大輪の生花を飾りで誂えるだなんて、素晴らしいですわ」
「ふふっ、公の場では愛称で呼んでもらえないのが寂しいわね。このあとは空いている? ルシエンテス公爵ともども、私的なディナーにご招待したいわ」
「まあ、ありがとうございます。是非参加させていただきますわ」
「よかった」
両国間の関係を示唆するポーズなのか、アントワネット様は私と親しげに振舞っています。嫁ぎ先のモッラーロとしてなのか、出身国であるフィレンセとしてなのか。
部屋にいる方々は捉え違えてはならない、と真剣なまなざしでこちらを窺っています。少し怖いです。
「さ、開会式が始まるわ。早く終わらせてスイーツ食べましょ」
「ついに! マゴールパティシエのスイーツが!」
「ええ、エリシャさんはどんな予想を?」
「そうですわね、やはり、ここだけの限定となると、季節感を大切にしていらっしゃると思うので、初夏を感じさせるレモンや、涼しげなゼリーが並ぶのでは、と」
「そうねそうね、レモンは外せないわ」
「モッラーロならでは、といえばチョコレート菓子ですから、溶けやすいチョコレートを、氷菓子としていただける可能性もありますわよね」
「いいわね、最高だわ」
「ひょっとしたら、水まんじゅうのような餡子菓子もあるのではと期待しています」
「餡子ね! その発想はなかったわ」
こうして、アントワネット様と楽しくお話ししながら退出すると、グイスト様、ベジックさんとラクレンバルさんも居なくなった部屋の中で、ざわめきが起こりました。
「どういうことだ? モッラーロは戦争に参加しない国だからわかるが、殿下方とも仲良くしているようだが」
「まさかもう、戦争は終結に向かっているのではないか?」
「そうだとしたら大変だ。戦時中と終戦後では、流通が大きく変わるぞ」
「すぐに領地に連絡を!」
「う、うちもだ! 鉄鉱山より材木に人を回せ!」
「食べ物も、量より質を上げなければ…」
「あああ、豪いことだ」
「あっ、まあ、そうですわね。…気にしないわけにもいきませんから」
「俺は、いただいたご恩を決して忘れない」
「ああ、俺もだエリシャさん。そう固くならないでくれ」
「もしも俺と結婚してくれるのなら――」
「お前は! そんな危ねぇこと言ってんな! どう考えてもこのふたりデキてんだろ! ルシエンテス公爵だぞ?! 無駄な火の粉をまき散らすんじゃねぇぞ!」
結婚、のところでブワッと殺気を放ちガッと剣に手をかけたグイスト様の右手。それをサッと掴むと、フッと力が緩んだので、その顔をそっと窺うと、まあよくわからない真顔でした。
「そう、見えるか」
「え?」
「『このふたりデキて』るように、見えるか」
「あっ、ああ、はい。グイストさん、いやルシエンテス公爵殿下。短い時間でしたが行動をともにして、お互いが支えあっているというか、そんなふうに見えて、仲良しなんだろうなーなんて思い、ました」
「そうか……。いやいいんだ、名前で呼んでくれ。気安くしていいぞラクレンバル」
「あ、ああ。ありがとな、グイストさん」
満足したらしいグイスト様は、笑顔になりました。
しかし、部屋の空気はあまりよくありません。
それもそのはず。ここには推薦制でVIPチケットを贈られた人のほかに招待客もいるのです。モッラーロや、もちろんフィレンセの貴族も。
そんな中で王子が敵国の王弟公爵や貴族令嬢と話をしていたら、注目も浴びるというもの。先ほどグイスト様が殺気を放たれたときから、部屋の中の人がみな、凍りついています。
「自己紹介は済んだのかしら?」
「王子妃殿下」
腐ってもしっかり教育を受けた身、間違っても公の場でアンナさんだなんて呼びません。それは、弟君も、従兄弟君も、グイスト様も同じでした。
「エリシャさん! すてきね。薄いグリーンのはかなげなドレス、とても似合っているわ」
「ありがとうございます、アントワネット様。そちらも…ひまわりの生花ですの?このような大輪の生花を飾りで誂えるだなんて、素晴らしいですわ」
「ふふっ、公の場では愛称で呼んでもらえないのが寂しいわね。このあとは空いている? ルシエンテス公爵ともども、私的なディナーにご招待したいわ」
「まあ、ありがとうございます。是非参加させていただきますわ」
「よかった」
両国間の関係を示唆するポーズなのか、アントワネット様は私と親しげに振舞っています。嫁ぎ先のモッラーロとしてなのか、出身国であるフィレンセとしてなのか。
部屋にいる方々は捉え違えてはならない、と真剣なまなざしでこちらを窺っています。少し怖いです。
「さ、開会式が始まるわ。早く終わらせてスイーツ食べましょ」
「ついに! マゴールパティシエのスイーツが!」
「ええ、エリシャさんはどんな予想を?」
「そうですわね、やはり、ここだけの限定となると、季節感を大切にしていらっしゃると思うので、初夏を感じさせるレモンや、涼しげなゼリーが並ぶのでは、と」
「そうねそうね、レモンは外せないわ」
「モッラーロならでは、といえばチョコレート菓子ですから、溶けやすいチョコレートを、氷菓子としていただける可能性もありますわよね」
「いいわね、最高だわ」
「ひょっとしたら、水まんじゅうのような餡子菓子もあるのではと期待しています」
「餡子ね! その発想はなかったわ」
こうして、アントワネット様と楽しくお話ししながら退出すると、グイスト様、ベジックさんとラクレンバルさんも居なくなった部屋の中で、ざわめきが起こりました。
「どういうことだ? モッラーロは戦争に参加しない国だからわかるが、殿下方とも仲良くしているようだが」
「まさかもう、戦争は終結に向かっているのではないか?」
「そうだとしたら大変だ。戦時中と終戦後では、流通が大きく変わるぞ」
「すぐに領地に連絡を!」
「う、うちもだ! 鉄鉱山より材木に人を回せ!」
「食べ物も、量より質を上げなければ…」
「あああ、豪いことだ」
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