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第二章 外国漫遊記
第三十二話 乱入者
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大きな音を立ててやってきた乱入者は、この国の第一王子ウジェーヌ殿下と、側妃クリステル様。アントワネット様の旦那様と、ディアーヌ様の妹君です。
「私的なディナーなのよ。あなたたちは招待していないわ」
「そうだよね、アントワネット」
「なんなのよ! 正妃だからってえらそうに! ウジェーヌに愛されているのは私なんだからね!」
「そんなことはないよクリステル、落ち着いて」
正妃のほうが側妃より、立場は上でしょうから、クリステル様のおっしゃることは間違っていますわね。正妃のほうがえらいのです。ウジェーヌ様に愛されているのが私、というのはわかりませんけれど。
「わきまえなさい、クリステル。他国の公爵閣下もいらっしゃるのよ」
「わきまえるのはお姉様よ! あなたは公爵夫人、私は王子妃。私のほうがえらいんだから!」
それはそうですね。ディアーヌさんとクリステル様の関係ではそれで間違ってはいませんが、なぜでしょう、間違っていないけれど間違っている感がすごいです。グイスト様も、首をかしげています。
「他国の公爵っていったって、王子妃より――…あらぁ、あなた! ジャービーの方よね?」
「ああ、ルシエンテス公爵、グイストだ」
「そうそうグイスト様! 前にセントリュッツ学園で会ったわ! これは運命の再会なのかしら?」
それは違います。グイスト様とクリステル様の間に、運命は存在しません。まったくの他人です。
「黙りなさい、クリステル。グイストさんは、臣籍降下したとはいえ現王弟です。無礼は許しません」
「むぐっ…!」
「ははは、すまないねアントワネット。どうしても行くと言ってきかなくて」
「ウジェーヌ、それでも止めるべきだったわ。ここは私的な場だからまだいいけれど、これが国同士の会食だったらどうするの?」
「ははは……ごめん…」
噂には聞いていましたが、ずいぶんと頼りない王子ですこと。クリステル様の口を塞いだのはいいですけれど、この方が次期国王なのですね。それと同時に、アントワネット様が次期王妃。それなら、まあ、いいのかしら?
「ウジェーヌ殿、妃を御しきれぬようではこれから先が思いやられる。ただでさえ、今は姉上がご懐妊なさったのだ。もっとしっかりしていただかないと――」
場が凍りつきました。
ベジックさん、それ言っちゃいけないやつ。
ラクレンバルさんの様子からも、アントワネット様のご懐妊は察しがつきましたが、まだ公表されていないということは、妊娠して間もないからなのでしょう、と思っていました。
妊娠初期は、いろいろと大変だと聞きますから。どこから危険が訪れるかもわかりませんし、お体が安定して万全の体制ができてから公表するおつもりだったのでしょう。特にこの方は、次期王妃なのだから。
ほら、冒頭で「ウジェーヌに愛されているのは私なんだからね!」とか言っていたクリステル様のお顔が、すごいことになっています。
「どういうこと?! え? ウジェーヌ、この女ともやってたってこと?!」
「や、やってただなんて言い方…。アントワネットは正妃で、ふたりの間に子をもうける必要があるということは、わかるだろう?」
「気持ちはないってこと? だからって許さないけど!!」
「気持ちはー…あ、あったかな? あー、だってさ、フィレンセの王女だよ? 僕の正妃だし、美人ですごく頭もよくてかっこいいし、あっ、でも君ももちろん、可愛くていい体だっていうのは間違いないよ?」
要約すると、クリステル様は体だけみたいになっちゃっていますが、ええと、この修羅場どうしたらいいのでしょう?
「許さないわ! 私だけって言ってたのに! クリステルが好きだって!」
「君のことはもちろん好きだよ! でも、だ、だけなんて言ったかな?」
「双方落ち着け」
「「――っ!!」」
圧強めのグイスト様の声が、部屋の温度を3度下げます。
凍りついた部屋はキャンキャン騒がしいクリステル様によって加熱されていましたが、今また、グイスト様の参入で3度下がりました。
「アントワネットさんに、私的に誘われている以上、ここで不敬だなんだということにはならないが、それにしても限度があるだろう」
「あー、えっと」
「ウジェーヌ王子、ここにそのうるさい側妃を連れてくればどんなことになるかなんてわかりきっている。制止しきれなかったことには目をつぶるとして、今すぐ出ていけ。エリシャが夕食を楽しめないだろう」
「あっ、はい、すみません」
夕食、確かに大事なことですが、せっかくの威厳が台無しですわグイスト様。
それに、なぜか年上の他国の第一王子に、どさくさに紛れて命令していますね。ええ、命令になっています。確か10歳くらいは上だったと思いますが、尊敬できない人は年上とか先輩とか関係ない派ですか、そうでしたわね。グイスト様はそういう方でした。
それから、「うるさい側妃」とか言われたら黙っていなさそうなクリステル様がまだ固まっているうちに、ウジェーヌ王子が連れ出そうとします。
しかし――
「もういやあぁぁぁああああぁああ!!」
「あっ、クリステル!」
癇癪を起こしたクリステル様がウジェーヌ様を振り切り、ワゴンに乗っていた料理を切り分ける用のナイフを手にしてアントワネット様に向かって走り出しました。
「私的なディナーなのよ。あなたたちは招待していないわ」
「そうだよね、アントワネット」
「なんなのよ! 正妃だからってえらそうに! ウジェーヌに愛されているのは私なんだからね!」
「そんなことはないよクリステル、落ち着いて」
正妃のほうが側妃より、立場は上でしょうから、クリステル様のおっしゃることは間違っていますわね。正妃のほうがえらいのです。ウジェーヌ様に愛されているのが私、というのはわかりませんけれど。
「わきまえなさい、クリステル。他国の公爵閣下もいらっしゃるのよ」
「わきまえるのはお姉様よ! あなたは公爵夫人、私は王子妃。私のほうがえらいんだから!」
それはそうですね。ディアーヌさんとクリステル様の関係ではそれで間違ってはいませんが、なぜでしょう、間違っていないけれど間違っている感がすごいです。グイスト様も、首をかしげています。
「他国の公爵っていったって、王子妃より――…あらぁ、あなた! ジャービーの方よね?」
「ああ、ルシエンテス公爵、グイストだ」
「そうそうグイスト様! 前にセントリュッツ学園で会ったわ! これは運命の再会なのかしら?」
それは違います。グイスト様とクリステル様の間に、運命は存在しません。まったくの他人です。
「黙りなさい、クリステル。グイストさんは、臣籍降下したとはいえ現王弟です。無礼は許しません」
「むぐっ…!」
「ははは、すまないねアントワネット。どうしても行くと言ってきかなくて」
「ウジェーヌ、それでも止めるべきだったわ。ここは私的な場だからまだいいけれど、これが国同士の会食だったらどうするの?」
「ははは……ごめん…」
噂には聞いていましたが、ずいぶんと頼りない王子ですこと。クリステル様の口を塞いだのはいいですけれど、この方が次期国王なのですね。それと同時に、アントワネット様が次期王妃。それなら、まあ、いいのかしら?
「ウジェーヌ殿、妃を御しきれぬようではこれから先が思いやられる。ただでさえ、今は姉上がご懐妊なさったのだ。もっとしっかりしていただかないと――」
場が凍りつきました。
ベジックさん、それ言っちゃいけないやつ。
ラクレンバルさんの様子からも、アントワネット様のご懐妊は察しがつきましたが、まだ公表されていないということは、妊娠して間もないからなのでしょう、と思っていました。
妊娠初期は、いろいろと大変だと聞きますから。どこから危険が訪れるかもわかりませんし、お体が安定して万全の体制ができてから公表するおつもりだったのでしょう。特にこの方は、次期王妃なのだから。
ほら、冒頭で「ウジェーヌに愛されているのは私なんだからね!」とか言っていたクリステル様のお顔が、すごいことになっています。
「どういうこと?! え? ウジェーヌ、この女ともやってたってこと?!」
「や、やってただなんて言い方…。アントワネットは正妃で、ふたりの間に子をもうける必要があるということは、わかるだろう?」
「気持ちはないってこと? だからって許さないけど!!」
「気持ちはー…あ、あったかな? あー、だってさ、フィレンセの王女だよ? 僕の正妃だし、美人ですごく頭もよくてかっこいいし、あっ、でも君ももちろん、可愛くていい体だっていうのは間違いないよ?」
要約すると、クリステル様は体だけみたいになっちゃっていますが、ええと、この修羅場どうしたらいいのでしょう?
「許さないわ! 私だけって言ってたのに! クリステルが好きだって!」
「君のことはもちろん好きだよ! でも、だ、だけなんて言ったかな?」
「双方落ち着け」
「「――っ!!」」
圧強めのグイスト様の声が、部屋の温度を3度下げます。
凍りついた部屋はキャンキャン騒がしいクリステル様によって加熱されていましたが、今また、グイスト様の参入で3度下がりました。
「アントワネットさんに、私的に誘われている以上、ここで不敬だなんだということにはならないが、それにしても限度があるだろう」
「あー、えっと」
「ウジェーヌ王子、ここにそのうるさい側妃を連れてくればどんなことになるかなんてわかりきっている。制止しきれなかったことには目をつぶるとして、今すぐ出ていけ。エリシャが夕食を楽しめないだろう」
「あっ、はい、すみません」
夕食、確かに大事なことですが、せっかくの威厳が台無しですわグイスト様。
それに、なぜか年上の他国の第一王子に、どさくさに紛れて命令していますね。ええ、命令になっています。確か10歳くらいは上だったと思いますが、尊敬できない人は年上とか先輩とか関係ない派ですか、そうでしたわね。グイスト様はそういう方でした。
それから、「うるさい側妃」とか言われたら黙っていなさそうなクリステル様がまだ固まっているうちに、ウジェーヌ王子が連れ出そうとします。
しかし――
「もういやあぁぁぁああああぁああ!!」
「あっ、クリステル!」
癇癪を起こしたクリステル様がウジェーヌ様を振り切り、ワゴンに乗っていた料理を切り分ける用のナイフを手にしてアントワネット様に向かって走り出しました。
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