【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

文字の大きさ
71 / 101
第二章 外国漫遊記

第三十三話 解決

しおりを挟む
「風よ」


魔法を放ったのは私だけでしたが、ベジックさんは体を張ってアントワネット様の盾となり、グイスト様は帯剣していないので食卓のナイフを手に構え、コンスタン様はディアーヌ様に飛び火がこないよう抱き締めて守っているようです。

幸い、私の風魔法でクリステル様を押し返せたので、誰も傷つかずにすみました。


「い、痛いわ」

「加減したつもりですけれど、ごめんなさい」

「なによぉ、なんでよぉ」

「なんでもなにもありませんわ。あなたこのモッラーロのご側妃なのでしょう? ご正妃が懐妊するのも当たり前ですし、私的な食事なら、呼ぶ人は主催の好きにするでしょう。なにがご不満なのかしら?」

「だって、だってぇ! ウジェーヌは、私のこと好きだって言うのよ? それで、お姉様とは政略的な縁談だったから、でも君とは運命の恋だって。だから正妃になるはずだったの! お姉様は正妃として迎えられるはずだったから! なのに、私との結婚は、国王陛下も許してくれたけど、なんでか側妃だし、フィレンセの王女が正妃になるとか言い出すし! ウジェーヌもそんなの跳ねのければよかったのに! 相手は大国の王女だから無理だって…。それでその女が来たらさ、鼻の下伸ばしちゃってさ。あれが僕の物になるのかな~とか言うんだもん。まあ、そのあとも、ずっと私を愛してはくれていたから。王子を生んで、その女より上に立ってやるーって思ったけど……。それがまさか、先越されるだなんて!」


恐らくクリステル様は、見てわかるように、ご正妃の器だとみなされなかったのでしょうね。それでほかに正妃を立てる必要があり、アントワネット様に白羽の矢が立った、と。


「正妃になりたかったのなら、努力しなければいけませんでしたね。王子の愛を独占したかったのなら、努力しなければなりませんでした。そして貴族なら、まずは自分のことより民のことを考えなければなりませんでした。貴女にはすべてが欠けています。ご側妃ではなく、愛妾ならよかったのではありませんか?」

「なっ」

「それならば、国政に関わらず、穏やかに、ただ王子に愛されていればよかったのでは? 離宮にでも籠って」

「あなた! 失礼よ!」

「あれもやりたくないしこれもできない、でもそれは嫌だ、だなんて貴族だったら子供でも許されませんわ。生まれたての赤ん坊ですの? もう30歳なのですよね?」

「ううっ……なによ! ちょ、ちょっと若いからって調子に乗らないで!」

「若いから言っているのではありません。私は、侯爵家に生まれたという自覚を持ったそのときから、国のため民のためときちんと考えて動いています。あなたはご側妃の責任を放棄し、国に単身嫁いできたアンナさんに、そのナイフで、切りかかったのです。ああ、だんだん腹が立ってきましたわ。お覚悟なさって? 抑えられるか、自信ありませんので」


巻き髪ツインテールで、パステルピンクのドレスをまとった30歳のクリステル様。好きな格好すればいいと、それはそう思いますが、なかなかどうしてイライラさせる天才ですわね。目からも耳からも、この人間はキライだという情報しか入ってきません。

その後、今にも攻撃しそうな私の空気を読んで、グイスト様は「私がやろう」とおっしゃるし、ベジックさんも「手を汚すなら俺が」とおっしゃるし、アントワネット様まで「エリシャさんの手を汚すまでもないわ。衛兵が片付けるから」とおっしゃって、結局クリステル様は連れていかれました。ご正妃殺害未遂で、牢に繋がれるそうです。


「今回のこと、お父様には、いえフィレンセ国王にはしっかりと伝えるわ」

「国王陛下に?」

「ええ。貴女に命を救われたことを強調してね」

「まあ」

「頼んだわよ? ベジック」

「もちろんだ。これで、ジャービーとフィレンセの争いもなくなるだろう」


両国は、領土を巡って争っています。ジャービーの北東、フィレンセとの国境にあるピレネト山脈の山間にあるガインドラ村。長年、ここガインドラは先祖を辿ればフィレンセ人だったりジャービー人だったりがおさめてきた土地と言われていて、それが絶えず争いを引き起こしてきたのです。


「姉の、フィレンセの王女の命を救ってくれたのだから、領土争いから手を引くくらい当たり前だろう」

「それは、よかったですわ」

「すごいな、エリシャ。またひとつ戦争を終わらせた」

「そう、なります?」

「ああ」

「それでエリシャさん。これで俺たちの間に障害は無くなっただろうか」

「障害、といいますと」

「私がなろう」

「え?」


ベジックさんはきっと、ジャービーとフィレンセの国交に問題が無くなったという話をしていたのだと思いましたが、グイスト様が急に、私とベジックさんとの間に立って物理的な壁になりました。

まさか、国交を阻むものがグイスト様だなんて。


「待ってください。戦争が終わってフィレンセとの国交が開始されれば、私の持つ事業の展開が大いに期待されます。フィレンセは大国ですから、当たればうはうは大儲けです。税金で、国庫が潤いますわ。なぜ、立ちはだかると?」

「エリシャ、違うそうじゃない。国交は好きなようにしたらいい。なんなら、紳士服部門のモデルも手伝おう。邪魔などするはずないだろう?」

「そう、ですわよね。グイスト様が私の邪魔をするなんて、ありえないことですわ」

「わかっていてくれて嬉しいよ、エリシャ」

「グイスト様が広告塔になってくださったら、どんな服でも完売ですわ」


いらぬ心配をしてしまったようです。
すると、ベジックさんがグイスト様の向こうから顔を出して言いました。


「俺では、だめだろうか」

「ベジックさん。私を倒せると思うのなら、挑む権利くらいは差し上げてもいいが?」

「そうか……、それは、無理そうだ」

「ならば早々に諦めるがいい」

「いやしかし、……」


もう私の入る隙もなさそうなので、私はアントワネット様に今夜泊まる部屋に案内していただきました。もう遅い時間ですし、泊っていってちょうだい、とのことでしたのでお言葉に甘えることにしました。


「いろいろと、巻き込んでごめんなさいね」

「いえ。結果的に国益になったのならば、ありがたいことです」

「明日は、本戦も見ていくでしょう?」

「はい。そのつもりです」




しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ エレインたちの父親 シルベス・オルターナ  パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...