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第二章 外国漫遊記
第五十五話 スナークズタケ
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「スナークズタケ!」
「わかるか、エリシャさん」
フィレンセの国境を越えジャービーに入って最初の町、セバスティアンジュでリノとヴァランタンさんと合流しました。引き続き、ベジックさんは特使としてジャービーの王都までご一緒します。
リノがこちらを帰路に選んだのは、やはりキノコがらみだったようです。
めったにお目にかかれない、砂浜に突如現れるスナークズタケが、この辺りに生息しているのをヴァランタンさんにお見せしたかったそうです。
「ジャービーでまずキノコ好きが挙げるのがこれだからってんで、ぜひ見てほしくて」
「ええ、わかりますわ。いい選択です」
「ザル島でやっていたキノコ研究は、やはり食用かどうかが大事で、それを量産することばかりだったんだ。実家にいたころは、世界の珍キノコ図鑑を見て、フィレンセにはないものもいつか手に入れてみたいと思っていた」
「いやほんっと、この人が今後のエストルム邸キノコ会を引っ張っていってくれること、間違いなしですよお嬢様!」
「ありがとう、リノさん。そう言ってくれて嬉しいよ」
道中、相当盛り上がったらしいキノコ話で、話題に上がった砂地で育つキノコ、スナークズタケ。世界でも大変珍しいキノコで、浜辺に生える植物の根から糸のような長い菌糸を伸ばして成長し、砂浜で顔を出すという仕組みだとか。
「ヴァランタンさん、改めてお伺いしますわ。我が家で働く気はありませんか? あなたの知識と経験が、必ず役に立つポストをお約束します」
「エリシャさん……」
「エストルム家はおすすめだよー。週一の休みは確約されてるし、申告すれば必要なときに休みを取れるし、使用人一同何かしらの精鋭揃いだから、知りたいことや習いたいことがあったらみんな喜んで教えてくれる。それになんてったって給料がいい」
「ええ、優秀な人ばかりで、ありがたいことですわ。ヴァランタンさんが我が家でキノコ研究を主に働いてくださったら、毎月これくらいはお支払いいたします。ご希望でしたら、研究棟に付属するお部屋に住んでいただくこともできます」
「断る理由が見つからないな、ぜひよろしくお願いします」
こうして私は、優秀な学者をひとりスカウトすることに成功いたしました。
これによって、我が家で新しいキノコ料理が開発されたりしたら最高です。
「お嬢様、俺のお手柄ですよね」
「そういえなくもないけれど、いずれ私がスカウトしていたでしょうね」
「そんなこといわずに俺の手柄にしておいてくださいよ」
「手柄にするもなにも、リノ、あなたは今私の護衛ではないでしょう? 点数を稼いでも仕方ないのではないかしら?」
以前リノが私の護衛をしてくれていたときは、何かしら手柄を上げるとポイントをつけて、それがたまると景品と交換する、というような遊びをしていたのですけれど、今はポイントをつけたところでもう私のそばにはいないので意味がないと思います。それも、10歳くらいの子供が思い付きで始めたものでしたから、景品も『主人と同じメニューを食べられる券』だとか『急なお休みに対応する券』だとかそんなものでした。
「あれ、あったじゃないですか、シルクのシーツ券」
「ああ、あなた好きでしたわよね」
「サラサラシルクのシーツ、あれ他じゃ買えないじゃないですか」
「商品化していないから、買えないでしょうね」
「あれください」
「……まあ、いいですけれど」
「やった」
私が寝心地だけを追求して設計したシルクのシーツは、蚕の育成から防燃加工まで、時間とコストがかかりすぎるため商品化できなかったものです。
なので今は、蚕を育てて絹糸を作るところまでは自分の手で行い、以降の工程は契約している工場にポケットマネーでお願いしています。自分用に作っている分だけなので生産量は年数枚、とても希少価値が高いのです。
「リノさんと女神は、ずいぶんと仲がいいようだな」
「そう、あのふたりはいつもああだった……」
「さすが、グイストさんがライバルというだけのことはある」
「一応言っとくと、リノ結婚してるからねー」
「なにぃ!」とすごい声が聞こえて振り向いたら、ベジックさんがうろたえていました。
「わかるか、エリシャさん」
フィレンセの国境を越えジャービーに入って最初の町、セバスティアンジュでリノとヴァランタンさんと合流しました。引き続き、ベジックさんは特使としてジャービーの王都までご一緒します。
リノがこちらを帰路に選んだのは、やはりキノコがらみだったようです。
めったにお目にかかれない、砂浜に突如現れるスナークズタケが、この辺りに生息しているのをヴァランタンさんにお見せしたかったそうです。
「ジャービーでまずキノコ好きが挙げるのがこれだからってんで、ぜひ見てほしくて」
「ええ、わかりますわ。いい選択です」
「ザル島でやっていたキノコ研究は、やはり食用かどうかが大事で、それを量産することばかりだったんだ。実家にいたころは、世界の珍キノコ図鑑を見て、フィレンセにはないものもいつか手に入れてみたいと思っていた」
「いやほんっと、この人が今後のエストルム邸キノコ会を引っ張っていってくれること、間違いなしですよお嬢様!」
「ありがとう、リノさん。そう言ってくれて嬉しいよ」
道中、相当盛り上がったらしいキノコ話で、話題に上がった砂地で育つキノコ、スナークズタケ。世界でも大変珍しいキノコで、浜辺に生える植物の根から糸のような長い菌糸を伸ばして成長し、砂浜で顔を出すという仕組みだとか。
「ヴァランタンさん、改めてお伺いしますわ。我が家で働く気はありませんか? あなたの知識と経験が、必ず役に立つポストをお約束します」
「エリシャさん……」
「エストルム家はおすすめだよー。週一の休みは確約されてるし、申告すれば必要なときに休みを取れるし、使用人一同何かしらの精鋭揃いだから、知りたいことや習いたいことがあったらみんな喜んで教えてくれる。それになんてったって給料がいい」
「ええ、優秀な人ばかりで、ありがたいことですわ。ヴァランタンさんが我が家でキノコ研究を主に働いてくださったら、毎月これくらいはお支払いいたします。ご希望でしたら、研究棟に付属するお部屋に住んでいただくこともできます」
「断る理由が見つからないな、ぜひよろしくお願いします」
こうして私は、優秀な学者をひとりスカウトすることに成功いたしました。
これによって、我が家で新しいキノコ料理が開発されたりしたら最高です。
「お嬢様、俺のお手柄ですよね」
「そういえなくもないけれど、いずれ私がスカウトしていたでしょうね」
「そんなこといわずに俺の手柄にしておいてくださいよ」
「手柄にするもなにも、リノ、あなたは今私の護衛ではないでしょう? 点数を稼いでも仕方ないのではないかしら?」
以前リノが私の護衛をしてくれていたときは、何かしら手柄を上げるとポイントをつけて、それがたまると景品と交換する、というような遊びをしていたのですけれど、今はポイントをつけたところでもう私のそばにはいないので意味がないと思います。それも、10歳くらいの子供が思い付きで始めたものでしたから、景品も『主人と同じメニューを食べられる券』だとか『急なお休みに対応する券』だとかそんなものでした。
「あれ、あったじゃないですか、シルクのシーツ券」
「ああ、あなた好きでしたわよね」
「サラサラシルクのシーツ、あれ他じゃ買えないじゃないですか」
「商品化していないから、買えないでしょうね」
「あれください」
「……まあ、いいですけれど」
「やった」
私が寝心地だけを追求して設計したシルクのシーツは、蚕の育成から防燃加工まで、時間とコストがかかりすぎるため商品化できなかったものです。
なので今は、蚕を育てて絹糸を作るところまでは自分の手で行い、以降の工程は契約している工場にポケットマネーでお願いしています。自分用に作っている分だけなので生産量は年数枚、とても希少価値が高いのです。
「リノさんと女神は、ずいぶんと仲がいいようだな」
「そう、あのふたりはいつもああだった……」
「さすが、グイストさんがライバルというだけのことはある」
「一応言っとくと、リノ結婚してるからねー」
「なにぃ!」とすごい声が聞こえて振り向いたら、ベジックさんがうろたえていました。
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