【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第二章 外国漫遊記

第六十一話 結婚式

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「私、グイスト・ルシエンテスは生涯、エリシャ・エストルムを妻として愛し、敬い、慈しむことを誓います」


「私、エリシャ・エストルムは生涯、グイスト・ルシエンテスを夫として愛し、敬い、慈しむことを誓います」



扉が開くと、教会の中庭にある噴水の周りにいた鳥たちが、一斉に羽ばたきます。


今日は私とグイスト様の結婚式の日。


一昨年、ギザーク様とアリオネッサ様との結婚式が行われ、すぐにご懐妊したアリオネッサ様は昨年、元気な双子の男の子をお産みになられました。
まだ生まれたばかりですが、王太子夫妻に男の子が生まれたことで跡継ぎの不安もなくなり、これを機にとグイスト様を担ぎ出そうとする連中を一層し、勢いづいたグイスト様が、私との結婚式を今日に予定したのです。



この良き日に、世界中からお友達がお祝いに駆けつけてくれています。



王立セントリュッツ学園の同窓であるみなさん。

イエス・ノーはっきりしているファルミア・マクラーレンお蝶令嬢は、現在は結婚して公爵夫人になっています。今日はお子さんを連れて参列してくださいました。


「やっと結婚衣装が見れましたわ、エリシャさん。お幸せにね」

「ふふっ、ありがとうファルミアさん。今日は怒られませんわね」

「そうね。完璧な淑女でしたわよ」

「ありがとうございます」


そして生徒会メンバーだった、バンテ・ジャックス子爵令息、フィリアン・クイース伯爵令嬢、東大陸オズトリアの第十五王子ハマメル・エーコラとモンド・ダックス。懐かしい面々です。


「エリシャさん、お久しぶりね」

「ポリーさん! 来てくださったのですね」

「ええ。ハマメルから聞いて。あのキノコ、送ってくれてありがとうね」

「まさかポリーとシリアイとはおどろいたヨ。ボウケンシャしてたんだって?」

「ええ、モッラーロでご縁あって。懐かしいですわ。やはりご親族でしたのね」

「ウン、キョウダイおおくてヨクワカラナイけど、ポリーはオナジハラのいもうとヨ」


見知った面々に紛れて、モッラーロのモンティ=ガイロでお会いしたポリーさんがいました。お別れするときに、気に入ってくださったキノコをオズトリアの王宛で送ってくれと言っていましたからもしかしてと思いましたが、ご兄妹だったとは。


「エリシャ嬢、おめでとう」

「ジ、ジオラルド様っ!」

「きみのドレス姿はきっととても美しいと思っていたが、想像以上だ」

「そっ、そんな…」

「冒険者としての噂は耳にしている。今戦ったら、君に勝てるかもうわからないな」

「嬉しいですわ。ぜひ…機会がありましたら一戦交えましょう」

「ああ、楽しみにしている」


学園始まって以来の最強魔法使いである私の憧れのジオラルド様は、魔法師団に入団なさって大変なご活躍だそうです。先のモボ国戦でも、底なしの魔力を惜しげもなく使い、氷魔法で一掃したとか。

未だに小競り合いと停戦が続いている両国ですが、灼熱の国であるモボ国は、どうしても北側の領土が欲しいのでしょうね。終戦の予定はなく、近く王都から実力者総出の大規模な遠征が行われるそうです。

これで、降参してくださるといいのですけれど。


「エリシャ! ついにね!」

「ついに結婚式ねー! おめでとう親友!」

「ミサト、ヒューラ、ありがとう」

「で? 結局結婚式まで、完全にシロなの?」

「え? ええ、結婚式ですもの。ご覧の通り、ドレスは白ですわ」

「エリシャ、違うの、そうじゃないの」

「伝わらないわねーヒューラ」


なにを言っているのでしょうか、この親友たちは。結婚式なのだからドレスは白に決まっています。当然、グイスト様との関係も、真っ白シロスケに決まっています。ちょっと、チュっとしたくらいです。




イロメー団長と、リノもいますわね。相変わらず、アーシャさんは見当たりませんけれど。招待状にはご夫婦で、と書いたはずですが?


「この度はおめでとうございます。エリシャ様」

「ありがとうございます。イロ、団長様」

「いろ……?」

「っ、お嬢様! いや! おきれいで」

「ええ、ありがとうリノ。今日はアーシャさんは?」

「来てないですよ」

「なんでよ。パートナーには奥様をって書いたわ」

「お言葉乱れてますよ。俺は今騎士団所属なんで、騎士団代表で団長と一緒に来たんですー」

「もう離婚間近ね?」

「不吉なこと言わないでください。職場完全に分けてからは、揉めることも減ったんで大丈夫です」

「なんだ、カートナーは離婚の危機なのか? 仕事が忙しすぎたか?……」

「いえ、むしろ我々夫婦は、俺が忙しくして家にいないほうがうまくいくみたいなので、このままでお願いします」 

「ねえ、ほんとうに存在するのですわよね? アーシャさん。私だけ会ったことないみたいだけど」

「あ、でも、閣下も会ったことないはずですよ」

「グイスト様も?」

「ええ。お嬢様ご夫婦には、架空の嫁ってことで」

「そんなこと言ってみなさい、グイスト様、あなたに決闘でも申し込みかねないわ」

「公爵閣下が、ですか? なぜ、カートナーと」

「いやー団長、あの人やきもち妬きなんで」

「あっ、圧が飛んできているからもう行きますわ」

「ははっ、お幸せに!」

「ありがとう!」


不思議そうな顔をしているシーザー団長をそのままに、この場から移動します。

リノが実は結婚していないなんてことになったら、グイスト様に鳥籠にでも入れられてしまいそうですわ。私自身、昔からリノにはアーシャさんという恋人がいるからという刷り込みで、恋愛対象にはならなかったのですから。



さて、視線を移せば、ボルティ国からはすでに即位されたホジェリオ様と、王妃となった聖女ポワリアさんがいらっしゃっています。


「おきれいです~! エリシャ様!」

「ありがとう、ポワリアさん。来てくださって嬉しいですわ。あっ、そのまま座っていらして。お腹の子は順調ですの?」

「ええ、あとふた月くらいで生まれるでしょうか。だんだんと重くなってきました」

「ご無理なさらないよう」

「ちゃんと見ているよ」

「ええ、ホジェリオ陛下。奥様、お大事になさってくださいませね」

「もちろん」

「楽しんでいらして」

「ああ、ありがとう」



ガーデンのベンチから移動すると、噴水のところで水遊びをしている可愛らしい男の子がいました。


「こんにちは」

「こんー、わぁ! お姫様だぁおひめしゃぁ!」

「あら、ありがとう~」

「ふふっ、すてきな式ね、エリシャさん」

「アントワネット様!」


モッラーロの王太子妃、アントワネット様との再会。知り合ってすぐ打ち解けて、その後もなんだかんだとお付き合いさせていただいています。

いろいろと騒動のあったモッラーロ王国ですが、ウジェーヌ王子が王太子になり、その妃であるアントワネット様は次期王妃です。アントワネット様は、妊娠から出産を機にモッラーロに骨を埋める覚悟ができたとおっしゃっていました。情けない王子を見限ってフィレンセ国に帰るという選択肢もあったのですが、やはり子供はその父と一緒に育てたい、という思いが強かったそうです。

アンナさんがいれば、きっとモッラーロはもっともっと発展を遂げることでしょう。すでに、領地拡大を主国フィレンセに申し入れているそうですから。これからが楽しみです。


「女神が女神に……」

「拝むなよベジック」

「ベジックさん、ラクレンバルさんも。来てくださってありがとうございます」

「ああ、さすがの装いだな妖精姫。今にも飛べそうだ」

「ふふっ、ラクレンバルさんは、正装より冒険者の服が似合いますわね」

「なっ、ま……まあ、それは自分でも思っているが」

「エリッ、エリシャッさん! 俺はどうだろうか」

「ベジックさんは、そうですねぇ、冒険者としては盾役をやるくらいお体が大きいので、もっと色が濃いほうがスッキリして見えるのではないでしょうか。サイズ感はピッタリでお仕立てもいいので、ほかは言うことありませんわ」

「そ、そうか。思っていた答えと少し違ったが、エリシャッ、さんは、黒が好きか?」

「黒ですか? そうですね、身に着けるのは淡い色のほうが好みですが、ベジックさんは黒もお似合いでしょうね。刺繡は金糸か銀糸で……あら、なんだかイメージが湧いてきましたわ。よろしければ、うちで持っている服飾部門で、仕立てさせていただいてもよろしいでしょうか」

「そそそそ、それはもちろん、光栄だ!」

「いいイメージが、あらーあれも似合いそうですし、んんーこんなのも似合いそう」

「なっ、と、とりあえず50着ほど頼もう!」

「まあ、ありがとうございます」

「ベジックよ……」


フィレンセの王子様がお得意様になってくだされば、我が家ももっと潤いますわね。ありがたいことですわ。ラクレンバルさんにもおすすめしたところ、一着だけならとのことでしたので、その一着で勝負をかけて、ルクレール公爵家にもお得意様になっていただきましょう。

あら? この場合の『我が家』は、エストルム家ということになりますわね。名義もエリシャ・ルシエンテスに変えておかなければなりません。女性はこういうとき、大変です。









(数日前)


「お嬢様、ドレスに合わせる宝飾品が届きました」

「ありがとう。今行きます」

「意外なお客様が、外においでですよ」

「意外な?」

「ええ。ご興味がおありでしたら、搬入口のほうをのぞいてみてください」

「? ええ」


まもなく結婚式が開かれるというところ、最終的な調整で慌ただしい中ヴァルデマールさんが言いました。

意外なお客様、というのが気になったので、搬入口が見える二階の部屋へ行ってみました。
窓から外を見ると、見慣れた金髪が、しかしずいぶんと顔つきの変わったあの方がいらっしゃいました。


「ギース、さま?」


嫌は嫌でしたが、5年近く婚約していた相手ですから、忘れられるはずもなく。
しかし、その姿は婚約が無くなったあの時からすると、ずいぶんと逞しくなられた様子。宝石の搬入でいらしたというのならば、今は宝石を取り扱う商人としてご活躍されているということなのでしょう。
いい思い出などほぼ、いえまったくないですが、昔馴染みが元気に働いている姿というのはなかなかいいものです。


「(エリシャ)」

「!」


窓越しに、ギース様が私に気づいたようです。

こちらを見るその目は、とても生き生きしているようで、思わず笑みが零れてしまいました。


「(お幸せに)」


そう、口が動いたような気がしました。




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