【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

文字の大きさ
3 / 60

第3話 我慢の時

私はレオニス・アルバート・クラウゼル。
この国の第三王子として生まれ、王族としての責務を全うしてきた。

王位継承権は低いが、それゆえに比較的自由な立場にある。

エレノア・ヴァルディスとは、幼い頃から顔を合わせてきた。王族と高位貴族という立場上、公式の場で何度も会う機会があったからだ。

そして――私は、彼女のことが好きだ。

いつからか、はっきりとは覚えていない。
気づいたら、彼女の姿を目で追っている自分がいた。
彼女の銀に近い淡い金髪と、青灰色の瞳。背筋を伸ばした気品ある佇まい。
そして何より――その聡明さと、強さ。


「殿下、次の講義の時間ですが」

カイが声をかけてくる。
彼は私の幼馴染であり、近衛騎士。武闘派伯爵家の次男で、幼い頃から剣に親しんできた男だ。

「......ああ、わかっている」

私は廊下を歩きながら、先ほどの光景を思い返す。
エレノアが、フローラと楽しそうに話していた姿。
彼女は――本当に、ディートリヒのことを気にしていないようだった。

「殿下」
「なんだ」
「エレノア様、本当に平気そうでしたね」
「......ああ」

私は苦笑する。

「彼女は――婚約破棄を、むしろ望んでいるようだった」
「はい。領地経営の勉強の方が大事、と」

カイも笑う。

「らしいな」
「ですが......」

カイが、意味深に言う。

「殿下にとっては、好機では?」
「......カイ」
「いえ、事実を申し上げただけです」

彼はしれっと答える。

講義室に入ると、エレノアの姿が目に入る。
彼女はいつも通り、背筋を伸ばして座っている。その隣には侍女マルティナ。
そして――少し離れた窓際には、ディートリヒとリリアナ。

「ねえ、ディートリヒ様。この問題、教えてくださいな」

リリアナの甘い声。

「ああ、いいよリリアナ。もっとこっちに寄って?」
「うふふっ」

ディートリヒの軽薄な声。甲高いリリアナの声が耳につく。

周囲の生徒たちは、呆れた表情を浮かべている。だが、誰も止めない。
貴族社会とは、そういうものだ。表立って非難することはせず、ただ静かに距離を置く。そして――評価を、下げていく。

エレノアは、そのすべてを見ている。だが、気にした様子もない。

むしろ――彼女は、財政学の教科書を読みふけっていた。


講義が終わり、休憩時間。
私は、何気なくエレノアの近くを通りかかる。

「エレノア」
「......レオニス殿下」

彼女は丁寧に一礼する。
私たちは幼い頃から顔見知りだが、公の場ではエレノアは臣下として振る舞う。

「最近、忙しそうだね」

私は、何気ない話題を振る。

「はい。領地の税制改革案を考えていまして」

彼女は目を輝かせて答える。

「北方交易の実例を参考に、新しい交易路を開拓できないかと」
「......そうか」

私は微笑む。
彼女のこういうところが、好きだ。

「無理はしないように」
「ありがとうございます。でも、これは無理じゃなくて――楽しいんです」

彼女はにっこり笑った。
その笑顔に、胸が高鳴る。

「そうか。なら、良かった」

それだけの会話。
だが――私には、それで十分だった。
私は、その場を離れる。

「......殿下」

カイが、小さく呟く。

「完全に、気づかれておりませんね」
「......わかっている」

私は苦笑した。

「彼女の頭の中は、領地経営のことでいっぱいだ」
「まだ言いますか」

カイは肩をすくめる。

「ですが、殿下。いつか――伝える時が来ますよ」
「......そうだといいが」

私は、エレノアの背中を見つめた。

彼女が、自由になる時。
その時――私は、想いを伝えられるだろうか。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。

青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。 その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。 あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。 一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。 婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。 婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。 アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。 「小説家になろう」でも連載中です。 修正が入っている箇所もあります。 タグはこの先ふえる場合があります。

真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件

さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。 婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。 でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける プレゼントを渡したいんだ。 それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ? 甘いものが好きらしいんだよ それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ
恋愛
リリム王国辺境伯エインズワース伯爵家の長女、ユーニス・エインズワース。伯爵令嬢であるはずなのに、生活は使用人以下で、まともに育てられたことはない。それでも心優しく強かに育った彼女は、ある日、隣国との国境である森で二人の怪我をした男性を見つけて……?※不定期更新です。2024/5/14、18話が抜けていたため追加しました。 【2024/9/25 追記】 次回34話以降は10/30より、他サイト様と同時の更新予定です。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)