【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

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第4話 礼儀を知らない少女

歴史の講義中。
教師が王家の系譜について説明している最中、突然声が上がった。

「先生、それって本当なんですか?」

リリアナの声だ。
教室がざわつく。講義中に教師の話を遮るなど、貴族社会では無礼の極み。

「......リリアナ嬢、質問があるなら手を挙げて、講義の後に」

教師が穏やかに注意する。
だが、リリアナは気にした様子もなく続ける。

「だって、おかしいじゃないですか。そんな古い話、今の政治に関係ないでしょう?」

空気が凍る。
私は教科書を見たまま、内心で呟く。

――ああ、あの子ってば......本当に貴族社会について勉強してこなかったのね。

「リリアナ嬢。講義の内容について異議があるのであれば、適切な場で、適切な方法で提起してください」

教師の声が、わずかに冷たくなる。

「はい......」

リリアナは渋々引き下がったが、不満そうな表情は隠さない。

隣に座るディートリヒが、小さく彼女の手に触れる。

「大丈夫だよ、リリアナ。君は正しいことを言っただけだ」

周囲の視線が、さらに冷たくなる。
私は、何も言わない。

「......お嬢様」

マルティナが小さく囁く。

「何も仰らないのですか」
「ええ」

私は静かに答える。

「もう、私が口を出すことじゃないわ」
「ですが......」
「それに――」

私は小さく笑う。

「これは、いい勉強になるわ」
「え?」
「貴族社会で、礼儀を知らない者がどうなるか。あれは、生きた教材よ」

マルティナは、呆れたように笑った。

「お嬢様......」
「ふふっ、事実でしょう?」

私は教科書に目を戻す。
貴族社会は、自浄作用を持っている。礼儀を知らない者は、自然と排除される。
私が手を下す必要など、ない。

自分でもなかなかイイ性格をしていると思う。

講義が終わり、廊下に出ると――。

「エレノア」

低い声。
振り返ると、レオニス殿下が立っていた。

「殿下」
「......少し、いいかな」
「はい」

私たちは、人気のない回廊へと移動する。

「さっきの講義のこと」

殿下が口を開く。

「君は、何も言わなかったね」
「ええ」
「......それは、正しい判断だと思う」

殿下の金色の瞳が、私を見つめる。

「君は、間違っていない」

その言葉に、少し嬉しくなる。

「ありがとうございます」
「いや――」

殿下は小さく首を振る。

「......君は、本当に強いな」
「強い、というか――」

私は首を傾げる。

「単に、効率的に動いているだけですよ」
「効率的?」
「はい。あの二人、勝手に自滅してくれるので、私が何かする必要がないんです」

殿下は、一瞬呆然として――それから、笑い出した。

「......そうか」
「はい」

私も笑う。

「それに、私は領地経営の勉強で忙しいので。あの二人に構っている暇はないんです」
「......そうだったね」

殿下は、優しく微笑む。

「無理はしないように」
「はい」

殿下が去った後。
マルティナが、ニヤニヤしながら近づいてくる。

「お嬢様」
「なに?」
「......殿下、お優しいですね」
「ええ。本当に」

私は素直に答えた。

「だからこそ――心配かけたくないわ」
「......お嬢様は、殿下のお気持ちに気づいておられませんね」
「なんの話?」

マルティナは、深くため息をついた。

「......いえ、何でもありません」
「?」

私は首を傾げたが、マルティナは何も言わなかった。



一方、レオニスは――。

「殿下、今のは......」

カイが、困ったように言う。

「完全に、気づかれていないということが発覚したわけですが」
「......ああ」

レオニスは苦笑した。

「彼女の頭の中は、領地経営のことでいっぱいだ」
「もうツッコミませんよ」

カイは、主を見る。

「......不憫ですね、殿下」
「......そんなことはない。話せるだけで、幸せだ」
「..................不憫」

口を覆って大袈裟にリアクションを取るカイを横目に、レオニスは小さくため息をついた。

いいんだ――気付かれていなかったとしても、領地のことで頭がいっぱいでも、彼女のそういうところが好きなんだ。
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