婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

文字の大きさ
6 / 7

第6話 壊れゆく均衡

しおりを挟む
季節は秋へと移り変わろうとしていた。
学園では、恒例の秋季舞踏会の準備が始まっている。

「エレノア様、ドレスの仮合わせの予定ですが」

マルティナが、スケジュール帳を確認する。

「ええ、明日の午後ね」

私は頷く。
秋季舞踏会は、学園最大の公式行事の一つ。王族、貴族が一堂に会する場であり、婚約者同士で出席するのが慣例だ。

「......ディートリヒ様からは、何か?」

マルティナが、慎重に尋ねる。

「いいえ、何も」

私は淡々と答える。
本来であれば、婚約者である彼から、エスコートの申し出があるはず。だが――今年は、何も言ってこない。

「......やはり」

マルティナの表情が、わずかに曇る。

「大丈夫よ、マルティナ。むしろ、これで婚約破棄が正式になるわ。『義務を怠った』という項目も追加ね」
「お嬢様......」
「嬉しいことじゃない」

私はにっこり笑う。

「これで、もっと勉強に集中できるわ」

マルティナは、深くため息をついた。

「......お嬢様は、本当に......」


その日の夕刻。予想していたことが、現実となった。

「エレノア」

ディートリヒが、私を呼び止める。

「何かしら」
「秋季舞踏会のことなんだが」

彼は、少しだけ言いづらそうに視線を逸らす。

「......俺、リリアナと出席しようと思うんだ」

――来た!
私は内心でガッツポーズをする。
もちろん、顔には出さないで応える。

「そう」
「リリアナが、どうしても一緒に出たいって言ってて」
「構わないわ」

私は、穏やかに微笑む。

「あなたの判断を尊重します」

ディートリヒは、ほっとした表情を浮かべる。

「そうか、ありがとう。やっぱりエレノアは理解があるな」

――理解? 違うわ。単に興味がないだけ。

「......お前も、来るよな?」
「ええもちろん。公式行事ですから」

こちらの顔色を窺っているディートリヒ。わざわざ確認するということは、そろそろ婚約破棄を言い出すのかしら?

「では、失礼します」

私はそう言って、その場を離れた。
マルティナが、呆れた声で囁く。

「......あの方は、一線を越えましたね。公式行事に浮気相手を連れて行くだなんて」
「ええ、そうね」

私は嬉しそうに答える。

「これで、正式に婚約破棄できるわ」
「お嬢様......嬉しそうですね」
「だって、嬉しいもの」

私は笑う。

「これで、もっと領地経営の勉強に集中できる」

マルティナは、苦笑した。

「......本当に、お嬢様らしいです」


その夜。私は父の書斎を訪ねた。

「お父様」
「エレノア。どうした」

父――アルベルト・ヴァルディス侯爵は、書類から顔を上げる。

「秋季舞踏会のことで、ご報告が」
「......ディートリヒのことか」

父は、すべてを察したように言う。

「はい」

私は、淡々と事実を報告する。
ディートリヒが、リリアナと舞踏会に出席すること。婚約者である私を、公の場で無視すること。

「......そうか」

父は、深くため息をついた。

「すまない、エレノア。私の再婚が、こんな事態を招いてしまった」
「いいえ、父上」

私は首を振る。

「むしろ、感謝しています」
「......え?」

父が、驚いた顔をする。

「だって、これでディートリヒとの婚約を解消でます」

私はにっこり笑う。

「正直、あの婚約は面倒でした。彼、領地経営の話をしても『難しい』って逃げるんです」

父は、一瞬呆然として――それから、笑い出した。

「......お前は、本当に......」
「侯爵家の長女ですから」

私は胸を張る。
父は、私を見つめる。

「......わかった。秋季舞踏会の後、正式に対処する」
「ありがとうございます」

私は一礼し、書斎を後にした。

廊下を歩きながら、ふと窓の外を見る。
月が、美しく輝いていた。

――もうすぐ、すべてが終わる。

そして、新しい何かが、始まるのだろう。
楽しみだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)伯爵令嬢に婚約破棄した男性は、お目当ての彼女が着ている服の価値も分からないようです

泉花ゆき
恋愛
ある日のこと。 マリアンヌは婚約者であるビートから「派手に着飾ってばかりで財をひけらかす女はまっぴらだ」と婚約破棄をされた。 ビートは、マリアンヌに、ロコという娘を紹介する。 シンプルなワンピースをさらりと着ただけの豪商の娘だ。 ビートはロコへと結婚を申し込むのだそうだ。 しかし伯爵令嬢でありながら商品の目利きにも精通しているマリアンヌは首を傾げる。 ロコの着ているワンピース、それは仕立てこそシンプルなものの、生地と縫製は間違いなく極上で……つまりは、恐ろしく値の張っている服装だったからだ。 そうとも知らないビートは…… ※ゆるゆる設定です

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした

朝陽千早
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。 子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。 だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。 ――私は静かに調べた。 夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。 嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

処理中です...