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第15話 王子の一歩
数日後。
私は、王宮の庭園でレオニス殿下と会うことになった。
「お嬢様、完璧です」
マルティナが、最後の確認をしてくれる。
「ありがとう」
私は、鏡に映る自分を見る。
淡い青のドレス。控えめな装飾品。
「......緊張する」
「え? お嬢様が?」
マルティナが、驚いた顔をする。
「だって、レオニス殿下と二人でお茶なんて......」
今までも、二人きりでーーということはなかった。
他の王子殿下がいらしたり王女殿下がいらしたり、王妃陛下がいらしたり、公爵家のベルクスお兄様がいらしたりなんてこともあった。
だけど今日はーー
「......いつものお嬢様らしくないですね」
「そう?」
「はい」
マルティナは、微笑む。
「もしかして――殿下のこと、意識してらっしゃいます?」
「意識? って、いやそんな......」
私は、慌てて否定する。
だが――。
確かに、少し意識しているのかもしれない。
殿下は、いつも優しい。
いつも、私を気にかけてくれる。
――それが、嬉しい。
「......行ってきます」
「はい」
私は、王宮の庭園へ向かった。
美しく整えられた庭園。
噴水の近くに、レオニス殿下が立っていた。
「殿下」
「エレノア」
彼は、穏やかに微笑む。
「来てくれて、ありがとう」
「いいえ」
私たちは、庭園のテーブルに座る。
侍従が、紅茶を運んでくる。
「......エレノア」
「はい」
「まず――婚約破棄のこと」
殿下が、真剣な表情で言う。
「君の対応、素晴らしかったと思う」
「ありがとうございます」
「いや――本当に」
殿下は、私を見つめる。
「あの場で、あれほど冷静に、そして優雅に振る舞えるなんて」
「......それは、侯爵家の長女として当然のことです」
「いや」
殿下は、首を振る。
「当然ではない。君だからこそ、できたことだ」
その言葉に、胸が温かくなる。
「......ありがとうございます」
「それから――」
殿下が、少し迷うように視線を逸らす。
「私は、君に伝えたいことがある」
「......はい」
私は、紅茶を置く。
殿下は、深く息を吸って――。
「私は――」
そして長く、沈黙が続いた。
言い辛いこと、なのだろう。
言いたくないのかもしれない。
一旦、空気を変えるのも手だと思い、私は用意した贈り物を手に取った。
「レオニス様」
「っ、ああ」
「こちら、よろしければ」
「ん、んん? これはーー」
殿下は包みを受け取ると、丁寧に開き始めた。
「ブックカバー、かな?」
「はい」
「まさか、『耐寒羊皮紙』の?」
「ふふっ、はい」
殿下は耐寒羊皮紙でできたブックカバーを、まじまじと見つめている。
北方交易で取り扱われている耐寒羊皮紙は、氷点下でも割れない・湿気に強い・長期保存向きという優れものだ。
何十年も使える実用品。ローデンのおすすめでもある。
「ありがとう、エレノア。大切にするよ」
「喜んでいただけて光栄です」
殿下は、とても愛おしそうに、そのブックカバーを抱きしめてくださった。
「私は、君に伝えたいことが、あるんだ」
「はい」
先ほどと、同じ言葉を紡ぐ殿下。
「だけど、それは今じゃない」
「え?」
「どうしても伝えたいけど、まだ言えないんだ」
「……は、い」
殿下は、とても辛そうにしている。
「しかるべき時に、必ず」
「ーーはい」
寂しそうな笑顔だった。
「殿下」
カイの声がレオニスに届く。
「しかるべき時、っていつですか」
「しかるべき時はしかるべき時だ」
「はあ?」
レオニスは、苦笑した。
「私は――臆病だな」
「まあ、ヘタレではありますね」
カイは、主を見つめる。
「.....殿下は、慎重なのです」
「慎重、か」
レオニスは、窓の外を見る。
「エレノアは、まだ婚約破棄したばかりだ。今、想いを伝えれば――」
「......同情と思われるかもしれない?」
「私は、彼女をずっと想っていた」
「一番お側で見てきました」
レオニスは、静かに言う。
「もう少しだけ、見守る立場でいよう」
カイは、微笑んだ。
「......では、ストーカー復活ですね」
「ああ」
「ああ、って……」
レオニスは、決意を新たにした。
次こそ――想いを伝える、と。
私は、王宮の庭園でレオニス殿下と会うことになった。
「お嬢様、完璧です」
マルティナが、最後の確認をしてくれる。
「ありがとう」
私は、鏡に映る自分を見る。
淡い青のドレス。控えめな装飾品。
「......緊張する」
「え? お嬢様が?」
マルティナが、驚いた顔をする。
「だって、レオニス殿下と二人でお茶なんて......」
今までも、二人きりでーーということはなかった。
他の王子殿下がいらしたり王女殿下がいらしたり、王妃陛下がいらしたり、公爵家のベルクスお兄様がいらしたりなんてこともあった。
だけど今日はーー
「......いつものお嬢様らしくないですね」
「そう?」
「はい」
マルティナは、微笑む。
「もしかして――殿下のこと、意識してらっしゃいます?」
「意識? って、いやそんな......」
私は、慌てて否定する。
だが――。
確かに、少し意識しているのかもしれない。
殿下は、いつも優しい。
いつも、私を気にかけてくれる。
――それが、嬉しい。
「......行ってきます」
「はい」
私は、王宮の庭園へ向かった。
美しく整えられた庭園。
噴水の近くに、レオニス殿下が立っていた。
「殿下」
「エレノア」
彼は、穏やかに微笑む。
「来てくれて、ありがとう」
「いいえ」
私たちは、庭園のテーブルに座る。
侍従が、紅茶を運んでくる。
「......エレノア」
「はい」
「まず――婚約破棄のこと」
殿下が、真剣な表情で言う。
「君の対応、素晴らしかったと思う」
「ありがとうございます」
「いや――本当に」
殿下は、私を見つめる。
「あの場で、あれほど冷静に、そして優雅に振る舞えるなんて」
「......それは、侯爵家の長女として当然のことです」
「いや」
殿下は、首を振る。
「当然ではない。君だからこそ、できたことだ」
その言葉に、胸が温かくなる。
「......ありがとうございます」
「それから――」
殿下が、少し迷うように視線を逸らす。
「私は、君に伝えたいことがある」
「......はい」
私は、紅茶を置く。
殿下は、深く息を吸って――。
「私は――」
そして長く、沈黙が続いた。
言い辛いこと、なのだろう。
言いたくないのかもしれない。
一旦、空気を変えるのも手だと思い、私は用意した贈り物を手に取った。
「レオニス様」
「っ、ああ」
「こちら、よろしければ」
「ん、んん? これはーー」
殿下は包みを受け取ると、丁寧に開き始めた。
「ブックカバー、かな?」
「はい」
「まさか、『耐寒羊皮紙』の?」
「ふふっ、はい」
殿下は耐寒羊皮紙でできたブックカバーを、まじまじと見つめている。
北方交易で取り扱われている耐寒羊皮紙は、氷点下でも割れない・湿気に強い・長期保存向きという優れものだ。
何十年も使える実用品。ローデンのおすすめでもある。
「ありがとう、エレノア。大切にするよ」
「喜んでいただけて光栄です」
殿下は、とても愛おしそうに、そのブックカバーを抱きしめてくださった。
「私は、君に伝えたいことが、あるんだ」
「はい」
先ほどと、同じ言葉を紡ぐ殿下。
「だけど、それは今じゃない」
「え?」
「どうしても伝えたいけど、まだ言えないんだ」
「……は、い」
殿下は、とても辛そうにしている。
「しかるべき時に、必ず」
「ーーはい」
寂しそうな笑顔だった。
「殿下」
カイの声がレオニスに届く。
「しかるべき時、っていつですか」
「しかるべき時はしかるべき時だ」
「はあ?」
レオニスは、苦笑した。
「私は――臆病だな」
「まあ、ヘタレではありますね」
カイは、主を見つめる。
「.....殿下は、慎重なのです」
「慎重、か」
レオニスは、窓の外を見る。
「エレノアは、まだ婚約破棄したばかりだ。今、想いを伝えれば――」
「......同情と思われるかもしれない?」
「私は、彼女をずっと想っていた」
「一番お側で見てきました」
レオニスは、静かに言う。
「もう少しだけ、見守る立場でいよう」
カイは、微笑んだ。
「......では、ストーカー復活ですね」
「ああ」
「ああ、って……」
レオニスは、決意を新たにした。
次こそ――想いを伝える、と。
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