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第16話 違和感という名の罰
婚約破棄から一週間。
学園の空気が、少しずつ変わり始めていた。
リリアナは、夜会翌日こそ欠席したものの、それ以降は前と変わらず笑顔を振りまいている。
だが――。
「......あれ?」
彼女は、首を傾げる。
社交クラブ薔薇の会の招待状が、届いていない。
「おかしいわね......」
以前は、毎月必ず届いていたのに。
「リリアナ様」
侍女が、申し訳なさそうに言う。
「......今月は、招待がなかったようです」
「え? なぜ?」
「......それは、わかりかねます」
リリアナは、不安を感じる。
だが――それだけではなかった。
廊下を歩いていても、令嬢たちが挨拶をしない。
以前は、愛想よく話しかけてきたのに。
今は――誰も、声をかけてこない。
「......なぜ?」
リリアナは、混乱する。
「私、何か悪いことした?」
そのつぶやきに、答えてくれる者はいない。
貴族社会における拒絶。
それは――無視ではない。
ただ、関わらないだけ。
注意もしない。
誘いもしない。
本音も言わない。
それが、貴族社会の冷たさだった。
一方、ディートリヒも同じような状況に陥っていた。
「......おかしいな」
彼は、困惑する。
貴族たちとの会合に、呼ばれなくなった。
以前は、様々な集まりに招待されていたのに。
今は――誰も、声をかけてこない。
「なぜだ......?」
ひそひそと聞こえてくる噂は耳に入っているが、彼は理解できないでいた。
(俺は、真実の愛のために婚約を破棄しただけなのに。
なぜ、こんなに冷たくされるんだ? 愛を貫いた勇敢なる男を讃えるべきではないか?)
――貴族たちは、知っている。
婚約者がいるのに、公然と別の女性と親密にする。
それが、どれほど無礼なことか。
そして――婚約破棄の理由が「真実の愛」など、言い訳にもならない。
政略結婚が当たり前の貴族社会で、「愛」を理由に婚約を破棄するなど――。
それは、ただただ信用を失う行為だった。
「ディートリヒ様」
リリアナが、不安そうに言う。
「みんなが、私たちを避けているようで......」
「......気のせいだよ」
ディートリヒは、強がる。
だが――彼も、気づき始めていた。
何かが、間違っていたのかもしれない、と。
私は、この状況を知っていた。
聞こえてくる噂もあるが、フローラが詳しく教えてくれたからだ。
「エレノア、あの二人――完全に浮いてるわよ」
「そう」
私は、淡々と答える。
「誰も、注意しないの。ただ――関わらないだけ」
「......貴族社会らしいわ」
「ええ」
フローラは、満足そうに笑う。
「自業自得、よね」
「ええ、そうね」
私は、本を開く。
今日は、領地の新しい税制について勉強している。
「......エレノア、本当に気にならないの?」
「んん?」
「あの二人のこと」
「ああ」
私は、あっさりと答える。
「もう、私には関係ないないことじゃない?」
「......そうよね」
フローラは、安心したように笑った。
「それより――レオニス殿下とのお茶、どうだった?」
「え? ああ、楽しかったわ」
「それだけ?」
「うん」
フローラは、深くため息をついた。
「......あなた、本当に鈍感ね」
「え?」
聞き返したつもりだったが、フローラは何も言わずに笑うだけだった。
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