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第21話 真実の愛の代償
俺はディートリヒ・フォン・ルーゼン。
ルーゼン侯爵家の三男として生まれ、何不自由なく育ってきた。
だが――今、俺は父の書斎で、膝を折って頭を下げている。
「......父上」
「顔を上げろ、ディートリヒ」
久しぶりに会うことができた父――ルーゼン侯爵フリードリヒの声は、冷たかった。
俺は、恐る恐る顔を上げる。
父の鋭い眼差しが、俺を貫く。
「ディートリヒ。お前のしでかしたこと、わかっているのか」
「......はい」
「本当に、わかっているのか?」
父の声が、一段と厳しくなる。
「ヴァルディス家との婚約を、一方的に破棄した」
「......」
「しかも、理由は『真実の愛』」
父は、書類を叩きつける。
「貴族社会において、婚約とは政略だ。個人の感情で破棄できるものではない」
「......申し訳ございません」
「それだけではない」
父は、立ち上がる。
「真実の愛だろうがなんだろうが、お前は婚約者がいるにもかかわらず、公然と別の女と親密にした」
「......」
「学園で、人目を憚らず。それがどれほど、我が家の名誉を傷つけたか」
父の言葉が、胸に刺さる。
「そして――」
父は、別の書類を取り出す。
「違約金のことはすでに伝えたと思うが、これがヴァルディス家からの請求額だ」
「......っ」
「婚約が無くなった理由は、お前の不貞。正当な請求だ」
父は、書類を俺の前に置く。
「金額は――相当なものだぞ」
俺は、その金額を見て――青ざめた。
「こ、これは......」
「ああ。これが、お前の『真実の愛』の代償だ」
父は、冷たく言う。
「この違約金は、ルーゼン家で支払った」
「......父上」
「お前に、そんな金はないからな」
父は、俺を見下ろす。
「違約金は肩代わりした。支払えなければ、さらに我が家の恥を上塗りしてしまうからな」
「......」
「その代償として、お前をーー廃嫡する」
その言葉に、俺は凍りついた。
「......廃嫡?」
「ああ」
父は、きっぱりと言う。
「お前は、もうルーゼン侯爵家の三男ではない」
「......そんな」
「お前の行動は、我が家の名誉を著しく傷つけた。もはや、家の一員として認めることはできない」
父の言葉は、容赦ない。
「これから、家に頼らず生きていけ」
「......父上、お願いです」
俺は、必死に頭を下げる。
「どうか、もう一度だけ――」
「黙れ」
父の声が、響く。
「お前は、自分の行動の重さを理解していない」
「......」
「一度結ばれた婚約を解消するということは、個人の感情で済む話ではない。政治的な問題だ」
父は、窓の外を見る。
「お前の兄――アルヴィンは、次期当主として立派に働いている」
「......」
「次男のカスパーも、外交官として国に貢献している」
父は、俺を振り返る。
「だが、お前は何をした? 幼い頃から勉強を怠り、家同士で結んだ大事な婚約者を蔑ろにし、あまつさえ真実の愛だなんだとのたまって婚約者を裏切り、家の名誉を傷つけただけだ」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「......申し訳ございません」
「謝罪など、今更聞きたくない」
父は、別の書類を取り出す。
「だが――父親としての温情だ」
「......え?」
「ルーゼン侯爵領内の町に、小さな家を用意した」
父は、書類を俺に渡す。
「そこで、お前の好きにしろ」
「......これは」
「家と、わずかな生活費だ」
父は、冷たく言う。
「それ以上は、期待するな」
「......」
「そこで、リリアナとやらと結婚して暮らせ」
父は、俺に背を向ける。
「真実の愛とやらは認めてやろう。ただし――二度と、ルーゼン家の名を語るな」
「......父上」
「出ていけ」
その言葉に、俺は何も言えなくなった。
書斎を出て、廊下を歩く。
頭が、真っ白だ。
――廃嫡。
俺は、もうルーゼン家の一員ではない。
侯爵家の三男という肩書きも、失った。
残されたのは――小さな家と、わずかな生活費だけ。
「......なぜ」
俺は、呟く。
「なぜ、こんなことに......」
俺は、ただ愛のために行動しただけなのに。
リリアナを愛して、何が悪い?
だが――現実は、容赦ない。
「ディートリヒ様!」
リリアナの声が響く。
彼女が、駆け寄ってくる。
「どうでしたか!? 侯爵様は、何とおっしゃって――」
俺は、彼女を見つめる。
その可憐な顔。大きな瞳。
――この女性のために、俺はすべてを失った。
「......リリアナ」
「はい」
「俺は――廃嫡された」
リリアナの顔が、凍りつく。
「......え?」
「もう、ルーゼン家の一員ではない」
俺は、静かに告げる。
「侯爵家の三男という肩書きも、失った」
「そ、そんな......」
リリアナは、顔を青くする。
「で、でも――」
「父上が、温情で家を用意してくれた」
俺は、書類を見せる。
「ルーゼン侯爵領内の町に、小さな家だ」
「......小さな家?」
「ああ。そこで、お前と結婚して暮らす」
俺は、彼女の手を取る。
「俺たちは、そこで新しい生活を始めるんだ」
リリアナは、書類を見つめる。
その顔が、どんどん青ざめていく。
「......これって」
「ああ。町の、普通の家だ」
「......使用人は?」
「いない」
俺は、首を振る。
「生活費もわずかだがいただいた。ただ、贅沢はできない」
「......そんな」
「俺も、おそらく町で働くことになる」
リリアナは、震える。
「私、侯爵夫人になるって――」
「リリアナ」
俺は、彼女を見つめる。
「俺は、もう侯爵家の人間じゃない」
「......」
「お前も、侯爵夫人にはなれない」
その言葉に、リリアナの目から涙が溢れる。
「......嫌」
「リリアナ――」
「嫌よ! そんなの嫌!」
彼女は、叫ぶ。
「私、ただの平民なんて嫌!」
「......平民?」
「だって、そうでしょう!? 使用人もいない、小さな家で、贅沢もできない――」
リリアナは、泣き叫ぶ。
「そんなの、ただの平民じゃない!」
「......リリアナ」
「私は、お姫様になりたかったの! 侯爵夫人になって、贅沢な暮らしをしたかったの!」
その言葉に、俺は――。
何も、言えなくなった。
ああ――そうか。
彼女が求めていたのは、俺ではなく。
『侯爵夫人』という肩書きだったのか。
「......そうか」
俺は、静かに呟いた。
リリアナは、泣き続けている。
「嫌よ、嫌よ! こんなの聞いてない!」
俺は――ただ、立ち尽くすことしかできなかった。
愛のために、すべてをなくした。
だが――。
この愛は、本物だったのだろうか。
そして――その出来事は、やがて貴族社会に広まっていく。
ルーゼン家の三男が、廃嫡されたこと。
愛のために婚約を破棄した結果、すべてを失ったこと。
それは――貴族社会における、最高の教材となった。
『愛だけでは、生きていけない』
そう、誰もが学ぶことになる。
ルーゼン侯爵家の三男として生まれ、何不自由なく育ってきた。
だが――今、俺は父の書斎で、膝を折って頭を下げている。
「......父上」
「顔を上げろ、ディートリヒ」
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俺は、恐る恐る顔を上げる。
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「ディートリヒ。お前のしでかしたこと、わかっているのか」
「......はい」
「本当に、わかっているのか?」
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「ヴァルディス家との婚約を、一方的に破棄した」
「......」
「しかも、理由は『真実の愛』」
父は、書類を叩きつける。
「貴族社会において、婚約とは政略だ。個人の感情で破棄できるものではない」
「......申し訳ございません」
「それだけではない」
父は、立ち上がる。
「真実の愛だろうがなんだろうが、お前は婚約者がいるにもかかわらず、公然と別の女と親密にした」
「......」
「学園で、人目を憚らず。それがどれほど、我が家の名誉を傷つけたか」
父の言葉が、胸に刺さる。
「そして――」
父は、別の書類を取り出す。
「違約金のことはすでに伝えたと思うが、これがヴァルディス家からの請求額だ」
「......っ」
「婚約が無くなった理由は、お前の不貞。正当な請求だ」
父は、書類を俺の前に置く。
「金額は――相当なものだぞ」
俺は、その金額を見て――青ざめた。
「こ、これは......」
「ああ。これが、お前の『真実の愛』の代償だ」
父は、冷たく言う。
「この違約金は、ルーゼン家で支払った」
「......父上」
「お前に、そんな金はないからな」
父は、俺を見下ろす。
「違約金は肩代わりした。支払えなければ、さらに我が家の恥を上塗りしてしまうからな」
「......」
「その代償として、お前をーー廃嫡する」
その言葉に、俺は凍りついた。
「......廃嫡?」
「ああ」
父は、きっぱりと言う。
「お前は、もうルーゼン侯爵家の三男ではない」
「......そんな」
「お前の行動は、我が家の名誉を著しく傷つけた。もはや、家の一員として認めることはできない」
父の言葉は、容赦ない。
「これから、家に頼らず生きていけ」
「......父上、お願いです」
俺は、必死に頭を下げる。
「どうか、もう一度だけ――」
「黙れ」
父の声が、響く。
「お前は、自分の行動の重さを理解していない」
「......」
「一度結ばれた婚約を解消するということは、個人の感情で済む話ではない。政治的な問題だ」
父は、窓の外を見る。
「お前の兄――アルヴィンは、次期当主として立派に働いている」
「......」
「次男のカスパーも、外交官として国に貢献している」
父は、俺を振り返る。
「だが、お前は何をした? 幼い頃から勉強を怠り、家同士で結んだ大事な婚約者を蔑ろにし、あまつさえ真実の愛だなんだとのたまって婚約者を裏切り、家の名誉を傷つけただけだ」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「......申し訳ございません」
「謝罪など、今更聞きたくない」
父は、別の書類を取り出す。
「だが――父親としての温情だ」
「......え?」
「ルーゼン侯爵領内の町に、小さな家を用意した」
父は、書類を俺に渡す。
「そこで、お前の好きにしろ」
「......これは」
「家と、わずかな生活費だ」
父は、冷たく言う。
「それ以上は、期待するな」
「......」
「そこで、リリアナとやらと結婚して暮らせ」
父は、俺に背を向ける。
「真実の愛とやらは認めてやろう。ただし――二度と、ルーゼン家の名を語るな」
「......父上」
「出ていけ」
その言葉に、俺は何も言えなくなった。
書斎を出て、廊下を歩く。
頭が、真っ白だ。
――廃嫡。
俺は、もうルーゼン家の一員ではない。
侯爵家の三男という肩書きも、失った。
残されたのは――小さな家と、わずかな生活費だけ。
「......なぜ」
俺は、呟く。
「なぜ、こんなことに......」
俺は、ただ愛のために行動しただけなのに。
リリアナを愛して、何が悪い?
だが――現実は、容赦ない。
「ディートリヒ様!」
リリアナの声が響く。
彼女が、駆け寄ってくる。
「どうでしたか!? 侯爵様は、何とおっしゃって――」
俺は、彼女を見つめる。
その可憐な顔。大きな瞳。
――この女性のために、俺はすべてを失った。
「......リリアナ」
「はい」
「俺は――廃嫡された」
リリアナの顔が、凍りつく。
「......え?」
「もう、ルーゼン家の一員ではない」
俺は、静かに告げる。
「侯爵家の三男という肩書きも、失った」
「そ、そんな......」
リリアナは、顔を青くする。
「で、でも――」
「父上が、温情で家を用意してくれた」
俺は、書類を見せる。
「ルーゼン侯爵領内の町に、小さな家だ」
「......小さな家?」
「ああ。そこで、お前と結婚して暮らす」
俺は、彼女の手を取る。
「俺たちは、そこで新しい生活を始めるんだ」
リリアナは、書類を見つめる。
その顔が、どんどん青ざめていく。
「......これって」
「ああ。町の、普通の家だ」
「......使用人は?」
「いない」
俺は、首を振る。
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「......そんな」
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俺は、彼女を見つめる。
「俺は、もう侯爵家の人間じゃない」
「......」
「お前も、侯爵夫人にはなれない」
その言葉に、リリアナの目から涙が溢れる。
「......嫌」
「リリアナ――」
「嫌よ! そんなの嫌!」
彼女は、叫ぶ。
「私、ただの平民なんて嫌!」
「......平民?」
「だって、そうでしょう!? 使用人もいない、小さな家で、贅沢もできない――」
リリアナは、泣き叫ぶ。
「そんなの、ただの平民じゃない!」
「......リリアナ」
「私は、お姫様になりたかったの! 侯爵夫人になって、贅沢な暮らしをしたかったの!」
その言葉に、俺は――。
何も、言えなくなった。
ああ――そうか。
彼女が求めていたのは、俺ではなく。
『侯爵夫人』という肩書きだったのか。
「......そうか」
俺は、静かに呟いた。
リリアナは、泣き続けている。
「嫌よ、嫌よ! こんなの聞いてない!」
俺は――ただ、立ち尽くすことしかできなかった。
愛のために、すべてをなくした。
だが――。
この愛は、本物だったのだろうか。
そして――その出来事は、やがて貴族社会に広まっていく。
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