【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

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第23話 気づかなかった想い

レオニス殿下からの告白。

『ずっと、君を想っていた』

その言葉が、胸に響いている。
――返事をしなければならない。


私は、思い出していた。
レオニス殿下との、過去のことを。



あれは、ある年の冬の舞踏会でのこと。
学園で開かれる冬季舞踏会、私は、ディートリヒの婚約者として彼と踊ることになっていた。

「エレノア」

ディートリヒが、私に手を差し出す。

「……はい」

私は、彼の手を取る。
音楽が始まり、私たちは踊り始める。
だが――。

「……痛っ」

ディートリヒが、私の足を踏む。

「あ、ごめん」

彼は、軽く謝る。
だが――また、踏む。

「……っ」

私は、顔をしかめる。

「ごめん、ごめん」

ディートリヒは、笑いながら謝る。

この頃にはもう、彼の不勉強さが生活に現れていた。
勉強はもちろんだけど、ダンスもろくにレッスンを受けない。

失敗して足を踏んだりステップを間違えたり、謝る彼だが……真剣さがまるでない。
私は、ただただ我慢する。婚約者だから。

曲が終わる頃には、足が痛くて仕方がなかった。

「じゃあな、エレノア」

ディートリヒは、さっさと友人たちの元へ行ってしまう。

私は――一人、椅子に座る。
足が、ズキズキと痛む。

「……大丈夫?」

声に振り返ると――レオニス殿下が立っていた。

「殿下……」
「足を踏まれたようだね」

レオニス殿下は、優しく微笑む。

「少し、外の空気を……歩ける?」
「……はい」

私は、殿下に手を引かれて、テラスへ出る。
夜の冷たい空気が、心地よい。

「……エレノア」
「はい」
「足、見せて」
「え?」
「怪我をしているかも」

レオニス殿下は、真剣な表情で言う。

私は――少し躊躇したが、足を見せる。
殿下は、優しく私の足を確認する。

「……少し腫れているな」
「……大丈夫です」
「いや」

殿下は、ハンカチを取り出す。
そして――冷たい水で濡らして、私の足に当ててくれる。

「……っ」

冷たいが、痛みが和らぐ。

「これで、少しは楽になるはずだ」
「……ありがとうございます」

私は、心から感謝する。
レオニス殿下は――微笑む。

「エレノア」
「はい」
「……いつでも、頼って」
「……え?」
「君には婚約者がいる。だから、必要以上には近づかない」

殿下は、静かに言う。

「だけど、友人として、いつでも助けになりたいと思っている」

その言葉に、胸が温かくなった。

「……ありがとうございます」

私はその時、「レオニス殿下は、優しい人だな」と思った。



その翌年の春、ヴァルディス領で、洪水の危険があった。
私は、急いで対策を考えていた。

「お父様、排水路の整備を――」
「わかっている。だが、今からではとても……」

父も、困っている。

「昨年、ルーゼンで行った治水工事を、今年はヴァルディスで行う予定だったのだが……」
「今年は雨季が、とても早くきたから」
「ああ」

その時――。

「失礼します。第3王子殿下がいらっしゃいました」

レオニス殿下が、ヴァルディス邸を訪ねてきた。


「殿下……? こんなところまで、あっ、ようこそお越しいただきました」
「挨拶はいい。エレノア、洪水のこと聞いたよ」

殿下は、資料を取り出す。

「これは、王家が過去に行った洪水対策の記録」
「……っ」

私は、資料を受け取る。
そこには――具体的な方法、予算、効果――すべてが記されていた。

「参考になればと思って」
「殿下、なぜ……」
「君が、ヴァルディス家が洪水対策に追われていると」

殿下は、優しく微笑む。

「友人として、助けになればと……先ぶれもなくすまない」

私は――涙が出そうになった。

「いいえ、いいえ……ありがとうございます」
「いや」

殿下は、静かに言う。

「……ルーゼン領は」
「あちらは去年、治水工事が行われたので問題ないかと」
「そう、か」
「ご嫡子のアルヴィン様が、手を貸してくださっています」
「君の、……婚約者は」
「ディートリヒですか? 彼は、領地には帰ってきていないと聞いていますが」

そういうと、殿下は難しい顔をした。

婚約相手の領地の大事に、何をしているんだとお思いになるでしょうが、彼は、いても役に立たないのでいなくていいんです。忙しいところに不機嫌な婚約者の機嫌取りなんて、やっていられませんから。

と、そんな本音を王子に聞かせるわけにはいかないので、殿下の様子を窺うだけにする。
するとーー

「私が直接手伝うことはできないから……ほかに、できることがあればなんでも」
「ありがとう、ございます」
「しばらく、滞在させてもらうね」

そういうと、殿下は「侯爵閣下に目通りを」と言って部屋を出て行く。
私は――その背中を見つめていた。

(……レオニス殿下は、いつも私を助けてくれる)

(……なぜ?)


その年は、殿下からいただいた資料を参考に洪水対策がなされ、ヴァルディス領は水害を免れた。そして雨季が終わるとすぐさま治水工事がなされ、川の氾濫に怯えることもなくなった。


そしてまた雨季が来て、増水した河川が氾濫を起こすこともなく、夏が来て秋。
学園で、授業中に具合が悪くなり倒れそうになったことがある。
ここのところ、ローデンの商会で新しく発表する化粧品類のチェックをしていてあまり寝れていなかったからだろう。たんなる寝不足だ。


「エレノア様!」

周囲が、慌てる。申し訳ない気持ちで「大丈夫……」と制すも皆心配そうにしてくれている。

その中に、ディートリヒはいなかった。彼は別の教室で、友人と話していたらしい。

「大丈夫?」

レオニス殿下が、駆けつけてくれた。

「……殿下」
「保健室へ」

殿下は、私を支えてくれる。
保健室まで、ずっと――優しく。

「……ありがとうございます」
「いいえ」

殿下は、私をベッドに寝かせてくれる。

「少し、休むといい」
「……はい」

私は、目を閉じる。
だが――殿下の手の温もりが、忘れられなかった。

(……なぜ、こんなに優しいんだろう)

(……なぜ、いつも助けてくれるんだろう)





『ずっと、君を想っていた』


――そうだったんだ。


殿下は、ずっと私を想っていてくれた。

だから――いつも、助けてくれた。
だから――いつも、そばにいてくれた。

でも――婚約者がいるからと、節度を持って接してくれた。

私は――気づかなかった。
殿下の想いに。
殿下の優しさに。

「……レオニス殿下」

私は、殿下の名を呼ぶ。

「私――ずっと、気づかなかった」

「あなたが、いつも助けてくれていたこと」

涙が溢れる。

「あなたが、いつも私を想っていてくれたこと」

「私――本当に、バカだった」

「でも――今、わかったの」

「私も、あなたを想っている」

「私も――あなたが好き」


私は、心から言う。


「ずっと、気づかなかったけど――」

「今、やっと気づいたの」


空に消える言葉に、温もりを感じた。

幸せを、感じた。


――これが、愛なんだ。

ディートリヒに対する想いとは、明らかに違う。
レオニス殿下への想いは――


本物の、愛だ。


私は――微笑んだ。
未来が、明るく見えた。


レオニス殿下と共に歩む、未来が。
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