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第31話 資質
今回の騒動は、なんの先触れもなく突然乗り込んできた隣国の王女による身勝手な縁談が発端だ。
しかし、相手が王族でこちらも王子が関わることだったため、しっかりと協議して結果を出す、という建前が必要だった。
そのため、レオニスの結婚相手を決めるという名目の最終協議が行われる。
ここは、王宮で最も格式の高い謁見の間。
高い天井には、豪華なシャンデリアが吊るされ、壁には代々の国王の肖像画が飾られている。
玉座には、国王が座り、その隣には王妃。
左右には、王太子バレンド、第二王子ジェオール、そして第三王子レオニス。
重臣たちも、列席している。
エレノアは、父侯爵と共に臣下の席についていた。
そして当然、シュタインベルク王国の外交官グレゴールと、アマーリエ王女も列席している。
アマーリエは、椅子に座り、不安そうに周囲を見回している。
「では――」
国王が、口を開く。
「第三王子レオニスの婚約について、最終協議を始める」
その言葉に、謁見の間が静まり返る。
「まず――シュタインベルク王国からの縁談について」
国王は、グレゴールを見る。
「アマーリエ王女殿下からの申し出は、確かに承った」
「……はい」
グレゴールは、緊張した様子で頷く。
「だが――」
国王は、書類を手に取る。
「我が国の調査により、いくつかの事実が明らかになった」
「……」
アマーリエの顔が、青ざめる。
「アマーリエ王女は、シュタインベルク王国において――」
国王は、冷静に読み上げる。
「選民意識が強く国民より自分を優先し、金遣いが荒く、公式の場でも礼儀を欠く行動が多いとの報告がある」
「……っ」
アマーリエは、顔を真っ赤にする。
「また、降嫁先が見つからず、隣国に縁談を求めに来たという経緯も確認した」
「そ、それは……」
アマーリエが、何か言おうとするが――。
国王は、手を上げて制する。
「さらに――」
国王は、厳しい表情で続ける。
「王女は、レオニスを『公爵位を得るための手段』と考えていたようだ」
「……」
「結婚とは、国益と情の両立が理想だ。だが、王女の動機は――自己の欲望のみ」
その言葉に、重臣たちが頷く。
アマーリエは――何も言えなくなった。
「よって――」
国王は、はっきりと宣言する。
「シュタインベルク王国からの縁談は、受け入れられない」
「……っ」
アマーリエは、唇を噛む。
グレゴールは、深く頭を下げた。
「……承知いたしました」
国王は、次にレオニスを見る。
「レオニス」
「はい」
レオニスが、一歩前に出る。
「お前は、エレノア・ヴァルディスとの結婚を望んでいるな」
「はい」
レオニスは、迷いなく答える。
「では――」
国王は、別の書類を手に取る。
「エレノア・ヴァルディスについて、改めて検討した結果を述べる」
重臣たちが、真剣な表情で聞き入る。
「エレノア・ヴァルディスは――」
国王は、静かに語り始める。
「元婚約者に婚約破棄された過去がある」
「……」
「だが――それは、彼女の瑕疵ではない」
国王は、資料を見る。
「周知の事実ではあるが、婚約破棄の理由は元婚約者の不貞。エレノア嬢は被害者だった」
重臣たちが、頷く。
「尚、この件はすでに、ルーゼン家からヴァルディス家に対して慰謝料が支払われ、対象であるディートリヒは廃嫡され責任を果たしていることから、蒸し返す必要はない」
「さらに――」
国王は、続ける。
「不利な立場でも、感情を乱さず、家を守った」
「公の場で相手を貶めず、沈黙を選んだ」
「婚約破棄後も、自らの価値を示し続けた」
財務卿リオルドが、声を上げる。
「エレノア様の領地運営の実績は、素晴らしいものです」
「税収は前年比一割増。領民の生活水準も向上しています」
外務卿エドガーも、続ける。
「エレノア様は、商人の才能を見抜き、育てました」
「ローデン・ベルクの商会は、今や国に多大な税を納める存在です」
ジェオール王子も、静かに言う。
「エレノア・ヴァルディスは、財政会議でも的確な意見を述べました」
「北方交易のリスク分散についての提案は、実に合理的でした」
国王は、頷く。
「エレノア・ヴァルディスは――」
彼は、立ち上がる。
「すでに『侯爵家当主たる振る舞い』をしていた」
その言葉に、謁見の間が静まり返る。
「彼女は、高位貴族家の当主という資質を十分に持っている」
国王陛下は、はっきりと宣言する。
「よって、王家はエレノア・ヴァルディスを、第三王子レオニスの婚約者として据え置くこととする」
レオニスはエレノアと顔を見合わせた。
「そして――」
国王は、厳しい表情で続ける。
「以降、この婚約から結婚に口を出す者は、国賊と心得よ」
その宣言に――。
謁見の間が、静まり返った。
重臣たちは、深く頷く。
レオニスは――安堵の表情を浮かべた。
そして――。
アマーリエは、その場にいて、すべてを聞いていた。
「……」
彼女は――何も、言えなかった。
完全に、負けたのだ。
エレノアは、すべてにおいて上だった。
実績、品格、知識、そして――愛。
「……」
アマーリエは、唇を噛む。
涙が、溢れそうになった。
「……アマーリエ王女」
国王が、優しく声をかける。
「……はい」
「王女は、まだ若い。これからの人生で、多くのことを学ぶだろう」
「……」
「今回のことを、教訓としてほしい」
国王は、静かに言う。
「結婚とは、自己の欲望を満たすためのものではない」
「……」
「相手を尊重し、共に歩む覚悟を持つこと。それが、結婚、人生の伴侶を持つということだ」
その言葉に、アマーリエは――。
何も言えなかった。
ただ――頭を下げるだけだった。
謁見が終わり、私は廊下に出た。
「レオニス」
バレンド兄上が、声をかけてくる。
「兄上」
「おめでとう」
バレンド兄上は、満足そうに微笑む。
「正式に断れてよかったな」
「……はい」
私は、心から安堵する。
「これで障害なく、エレノアと結婚できます」
「ああ」
バレンド兄上は、私の肩を叩く。
「お前は、ほんとうに良い女を選んだ」
「……ありがとうございます」
ジェオール兄上も、近づいてくる。
「レオニス」
「兄上」
「エレノア嬢は、本当に優秀な方だ」
ジェオール兄上は、眼鏡の奥で微笑む。
「大切にしてあげてくれ」
「……はい、もちろんです」
私は、心から頷いた。
エレノアと、共に歩める。
それが――私の、幸せだ。
私は、皆が退場するほうの出口へ急いだ。
もちろん、エレノアの笑顔を見るためにーー。
しかし、相手が王族でこちらも王子が関わることだったため、しっかりと協議して結果を出す、という建前が必要だった。
そのため、レオニスの結婚相手を決めるという名目の最終協議が行われる。
ここは、王宮で最も格式の高い謁見の間。
高い天井には、豪華なシャンデリアが吊るされ、壁には代々の国王の肖像画が飾られている。
玉座には、国王が座り、その隣には王妃。
左右には、王太子バレンド、第二王子ジェオール、そして第三王子レオニス。
重臣たちも、列席している。
エレノアは、父侯爵と共に臣下の席についていた。
そして当然、シュタインベルク王国の外交官グレゴールと、アマーリエ王女も列席している。
アマーリエは、椅子に座り、不安そうに周囲を見回している。
「では――」
国王が、口を開く。
「第三王子レオニスの婚約について、最終協議を始める」
その言葉に、謁見の間が静まり返る。
「まず――シュタインベルク王国からの縁談について」
国王は、グレゴールを見る。
「アマーリエ王女殿下からの申し出は、確かに承った」
「……はい」
グレゴールは、緊張した様子で頷く。
「だが――」
国王は、書類を手に取る。
「我が国の調査により、いくつかの事実が明らかになった」
「……」
アマーリエの顔が、青ざめる。
「アマーリエ王女は、シュタインベルク王国において――」
国王は、冷静に読み上げる。
「選民意識が強く国民より自分を優先し、金遣いが荒く、公式の場でも礼儀を欠く行動が多いとの報告がある」
「……っ」
アマーリエは、顔を真っ赤にする。
「また、降嫁先が見つからず、隣国に縁談を求めに来たという経緯も確認した」
「そ、それは……」
アマーリエが、何か言おうとするが――。
国王は、手を上げて制する。
「さらに――」
国王は、厳しい表情で続ける。
「王女は、レオニスを『公爵位を得るための手段』と考えていたようだ」
「……」
「結婚とは、国益と情の両立が理想だ。だが、王女の動機は――自己の欲望のみ」
その言葉に、重臣たちが頷く。
アマーリエは――何も言えなくなった。
「よって――」
国王は、はっきりと宣言する。
「シュタインベルク王国からの縁談は、受け入れられない」
「……っ」
アマーリエは、唇を噛む。
グレゴールは、深く頭を下げた。
「……承知いたしました」
国王は、次にレオニスを見る。
「レオニス」
「はい」
レオニスが、一歩前に出る。
「お前は、エレノア・ヴァルディスとの結婚を望んでいるな」
「はい」
レオニスは、迷いなく答える。
「では――」
国王は、別の書類を手に取る。
「エレノア・ヴァルディスについて、改めて検討した結果を述べる」
重臣たちが、真剣な表情で聞き入る。
「エレノア・ヴァルディスは――」
国王は、静かに語り始める。
「元婚約者に婚約破棄された過去がある」
「……」
「だが――それは、彼女の瑕疵ではない」
国王は、資料を見る。
「周知の事実ではあるが、婚約破棄の理由は元婚約者の不貞。エレノア嬢は被害者だった」
重臣たちが、頷く。
「尚、この件はすでに、ルーゼン家からヴァルディス家に対して慰謝料が支払われ、対象であるディートリヒは廃嫡され責任を果たしていることから、蒸し返す必要はない」
「さらに――」
国王は、続ける。
「不利な立場でも、感情を乱さず、家を守った」
「公の場で相手を貶めず、沈黙を選んだ」
「婚約破棄後も、自らの価値を示し続けた」
財務卿リオルドが、声を上げる。
「エレノア様の領地運営の実績は、素晴らしいものです」
「税収は前年比一割増。領民の生活水準も向上しています」
外務卿エドガーも、続ける。
「エレノア様は、商人の才能を見抜き、育てました」
「ローデン・ベルクの商会は、今や国に多大な税を納める存在です」
ジェオール王子も、静かに言う。
「エレノア・ヴァルディスは、財政会議でも的確な意見を述べました」
「北方交易のリスク分散についての提案は、実に合理的でした」
国王は、頷く。
「エレノア・ヴァルディスは――」
彼は、立ち上がる。
「すでに『侯爵家当主たる振る舞い』をしていた」
その言葉に、謁見の間が静まり返る。
「彼女は、高位貴族家の当主という資質を十分に持っている」
国王陛下は、はっきりと宣言する。
「よって、王家はエレノア・ヴァルディスを、第三王子レオニスの婚約者として据え置くこととする」
レオニスはエレノアと顔を見合わせた。
「そして――」
国王は、厳しい表情で続ける。
「以降、この婚約から結婚に口を出す者は、国賊と心得よ」
その宣言に――。
謁見の間が、静まり返った。
重臣たちは、深く頷く。
レオニスは――安堵の表情を浮かべた。
そして――。
アマーリエは、その場にいて、すべてを聞いていた。
「……」
彼女は――何も、言えなかった。
完全に、負けたのだ。
エレノアは、すべてにおいて上だった。
実績、品格、知識、そして――愛。
「……」
アマーリエは、唇を噛む。
涙が、溢れそうになった。
「……アマーリエ王女」
国王が、優しく声をかける。
「……はい」
「王女は、まだ若い。これからの人生で、多くのことを学ぶだろう」
「……」
「今回のことを、教訓としてほしい」
国王は、静かに言う。
「結婚とは、自己の欲望を満たすためのものではない」
「……」
「相手を尊重し、共に歩む覚悟を持つこと。それが、結婚、人生の伴侶を持つということだ」
その言葉に、アマーリエは――。
何も言えなかった。
ただ――頭を下げるだけだった。
謁見が終わり、私は廊下に出た。
「レオニス」
バレンド兄上が、声をかけてくる。
「兄上」
「おめでとう」
バレンド兄上は、満足そうに微笑む。
「正式に断れてよかったな」
「……はい」
私は、心から安堵する。
「これで障害なく、エレノアと結婚できます」
「ああ」
バレンド兄上は、私の肩を叩く。
「お前は、ほんとうに良い女を選んだ」
「……ありがとうございます」
ジェオール兄上も、近づいてくる。
「レオニス」
「兄上」
「エレノア嬢は、本当に優秀な方だ」
ジェオール兄上は、眼鏡の奥で微笑む。
「大切にしてあげてくれ」
「……はい、もちろんです」
私は、心から頷いた。
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