【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

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第34話 婚礼前夜

夜の王宮。
深い静寂が、廊下を支配している。
窓の外では、月が静かに輝いている。明日は――結婚式だ。エレノアと、正式に結ばれる日。
部屋に一人で立ち、窓の外を見つめていた。遠くに、エレノアが滞在している棟の灯りが見える。彼女も、今頃――……何を、考えているのだろう。

「やっと、君の隣に立てる」

小さく、呟く。声は、誰にも届かない。ただ――夜の闇に、溶けていくだけ。

王子としての責任。男としての覚悟。すべてを背負って、ここまで来た。幼い頃から、彼女を想い続けて――ようやく、手が届いた。エレノアは、ずっと遠い存在だった。婚約者がいて、触れることも許されなかった。ただ――遠くから見守ることしか、できなかった。

でも――明日からは、違う。彼女の隣に、堂々と立てる。彼女を支えられる。彼女と、共に歩める。

「殿下」

静かな声が、背後からかかった。
振り返ると――カイが立っていた。いつものように、穏やかな表情で。

「……ああ」
「明日は、結婚式ですね」
「結婚式だな」

カイを見つめる。彼は――幼い頃から、どんな時も私のそばにいた。エレノアを想う気持ちも、すべて知っている。

「……長かったな」
「はい」

カイは、微笑む。

「本当に、長かったですね」

その言葉に、胸が熱くなる。本当に――長かった。エレノアが、ディートリヒと婚約していた頃。遠くから見守ることしか、できなかった頃。彼女が困っている時、助けたくても――節度を保たなければならなかった頃。

「……カイ」
「はい」
「あの頃――」

声が、少し震える。

「あの頃、君は――よく微妙な顔で笑っていたな」
「……え?」

カイが、少し驚いた顔をする。

「エレノアのことを――遠くから見つめている時」
「……」
「君は、いつも――苦笑していた」

その言葉に、カイは――少し照れたように笑う。

「……申し訳ございません」
「いや」

首を振る。

「今思えば――滑稽だったんだろうな」
「……いえ」

カイは、真剣な表情で言う。

「殿下は――とても、一途でした」
「……一途、か」
「はい」

カイは、静かに続ける。

「エレノア様が、学園で勉強をしていると聞けば――殿下も、同じ科目を勉強なさいました」
「……ああ」
「エレノア様が、川の氾濫について悩んでいると聞けば――殿下は、徹夜で資料をまとめられました」
「……あれは」

少し、照れくさくなる。

「エレノアが、喜んでくれると思って」
「はい」

カイは、微笑む。

「殿下は、いつも――エレノア様のことを、第一に考えておられました」
「……でも」

窓の外を見つめる。

「婚約者がいたから――表立って、手助けできなかった」
「……はい」
「だから――」

声が、少し苦しくなる。

「遠くから、見守ることしか――できなかった」

カイは、何も言わない。ただ――静かに、そばにいてくれる。

「……カイ」
「はい」
「君にはよく、ストーカーか、と注意されたね」

その言葉に、カイは――少し笑った。

「……失礼ながら、そうですね」
「そうか」
「今でも、時々思いますけどね……ふっ」
「……笑うな」
「申し訳ございません」

カイは、笑いを堪えている。

「でも――殿下が、庭園の茂みに隠れて、エレノア様を見ていた時は――」
「……やめろ」

顔が、熱くなる。

「本当に、驚きました」
「……あれは、たまたまだ」
「はい、はい」

カイは、明らかに信じていない様子で頷く。

「それから――エレノア様が通る廊下を、何度も行ったり来たりしていた時も――」
「……カイ」
「はい」
「もう、やめてくれ」

顔が、真っ赤になる。
カイは――優しく笑った。

「……でも、殿下」
「何だ」
「一途に思い続けたからこその、今ですよ」

その言葉に、胸が温かくなる。

「……そう、だな」
「はい」

カイは、頷く。
「エレノア様は――殿下の想いを、受け入れてくださいました」
「……ああ」
「そして――殿下と、明日結婚します」

その言葉に、涙が溢れそうになる。

「……カイ」
「はい」
「私は――幸せだ」

声が、震える。

「本当に――幸せだ」

カイは――優しく頷く。

「……はい」

安堵と、幸福。ここまで、本当に長かった。エレノアを想い続けた日々。遠くから見守るしかできなかった日々。でも――ようやく、彼女と共に歩める。

「……ありがとう、カイ」
「いいえ」

カイは、静かに言う。

「殿下の幸せを、心から願っております」
「……ありがとう」

心からの言葉を受け取って、涙が滲む。

「……明日」
「はい」
「エレノアと、結婚する」

カイは――満足そうに、微笑んだ。

「……はい。殿下」

二人は、しばらく沈黙する。窓の外では、月が静かに輝いている。明日は――きっと、良い日になる。エレノアと、共に歩み始める日になる。

「……カイ」
「はい」
「これからも――よろしく頼む」
「はい」

カイは、深く一礼する。

「殿下と、エレノア様に――これからも、お仕えいたします」

胸が、温かくなる。カイがいてくれて――本当に、良かった。

「……ありがとう」
「いいえ」

カイは、微笑む。

「では――殿下。お休みなさいませ」
「ああ。お休み」
「ちゃんと寝てくださいよ?」
「わかっている」

カイは、楽しそうに部屋を出ていった。

一人になった部屋で――また、窓の外を見つめる。
エレノアの棟の灯りは――まだ、消えていない。

「……エレノア」

小さく、呟く。

「明日――君と、結ばれる」

胸が、高鳴る。

「ずっと、待っていた」

涙が、また溢れそうになる。

「ようやく――君の隣に、立てる」

月が、優しく輝いている。
明日は――きっと、幸せな日になる。
エレノアと、共に歩み始める日になる。
ベッドに横たわる。目を閉じると――エレノアの笑顔が、浮かぶ。

「……おやすみ、エレノア」

小さく呟いて――眠りについた。

明日が――待ち遠しかった。
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