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第35話 結婚式
結婚式の朝。
窓から差し込む光が、部屋全体を照らしている。柔らかな春の陽光。鳥のさえずりが、遠くから聞こえてくる。
鏡の前に立つと、そこには――白いドレスを纏った自分がいた。
繊細なレースが施された袖。胸元には、小さな真珠が散りばめられている。裾は長く、優雅に広がっている。ヴァルディス家に代々伝わる、花嫁のドレスだ。
「お嬢様……」
マルティナが、後ろから声をかけてくる。彼女の声は――震えていた。
「……とても、お綺麗です」
振り返ると、マルティナは涙ぐんでいる。
「ありがとう、マルティナ」
微笑むと、彼女はハンカチで目元を拭った。
「……お嬢様が、こんなに幸せそうなお顔をされるなんて」
「……」
「本当に――良かったです」
胸が、温かくなる。マルティナは、ずっとそばにいてくれた。辛い時も、悲しい時も。そして――今、この幸せな瞬間も。
「マルティナ」
「はい」
「……あなたがいてくれて、本当に良かった」
その言葉に、マルティナは――また、涙を流した。
「……お嬢様」
ドアがノックされる。
「入って」
父が、部屋に入ってくる。侯爵の正装に身を包んだ姿は、威厳に満ちている。
「……エレノア」
父は――少し、目を細めた。
「……美しいな」
「ありがとうございます、お父様」
「そなたの母も、喜んでいることだろう」
笑顔でそれに応えた。
父は、私の隣に立つ。
「……行こうか」
「はい」
王宮の大聖堂は、荘厳な建物だ。
高い天井には、色とりどりのステンドグラスが嵌め込まれている。陽光が差し込むと、床に美しい光の模様が浮かび上がる。祭壇には、白い花々が飾られている。薔薇、百合、すずらん――すべてが、純白に統一されている。
貴族たち、王族たちが、列席している。バレンド王太子殿下、ジェオール第二王子殿下、そして国王陛下と王妃陛下。重臣たちも、正装で並んでいる。
フローラも、前のほうの列に座っている。彼女は――ハンカチを握りしめて、すでに涙ぐんでいる。
扉が開く。
オルガンの音色が、響き渡る。
腕を組んで、父と共にバージンロードを歩き始めるエレノア。一歩、また一歩。ドレスの裾が、床を滑るように進んでいく。
列席者たちが、立ち上がる。
視線が、集まる。
エレノアは、緊張はしていないようだった。
ただ――前を見つめる。
祭壇の前に立つ、レオニスを。
深い紺色の髪。金色の瞳。優美で柔らかな雰囲気。今日は、王子の正装に身を包んでいる。
彼は――じっと、エレノアを見つめている。
その瞳には――深い愛情が宿っている。
歩みを進める。父侯爵の腕が、少し震えている。
「……お父様」
小さく、声をかけるエレノア。
「……ん」
「大丈夫ですか」
「……ああ」
父は、少し笑う。
「ただ――少し、寂しくてな」
「……」
「お前が伴侶を得ることは、とても嬉しいことなのだけれどな」
その言葉に、エレノアは胸が締め付けら、滲み出る涙を堪える。
「……お父様」
「……いや」
父は、首を振る。
「お前は、幸せか」
「はい」
心から答えるエレノア。
「とても、幸せです」
父は――優しく笑った。
「……そうか。なら、それでいい」
祭壇の前に、たどり着く。
レオニスが、一歩前に出る。
父が――手を差し出す。
「……頼んだぞ、レオニス殿下」
「はい」
レオニスは、深く頷く。
「エレノアを、必ず幸せにします」
父は――手を離す。
代わりに、レオニスがエレノアの手を取る。
温かい。力強い。そして――優しい。
父は、満足そうに頷いて――席に戻っていく。
並んで、祭壇に立つ。
司祭が、前に進み出る。白い法衣を纏った、老齢の男性だ。
「本日、ここに集いし皆様」
司祭の声が、大聖堂に響く。
「我々は、レオニス・アルバート・クラウゼル殿下と、エレノア・ヴァルディス様の、聖なる婚姻を祝福するため、ここに集いました」
列席者たちが、静かに聞き入っている。
エレノアが強く、レオニスの手を握ると、レオニスも、それを握り返す。
温かい。この温もりが――ずっと、支えになってくれたいた、とエレノアは綺麗な微笑みを見せた。
「レオニス・アルバート・クラウゼル」
司祭が、レオニスに問う。
「あなたは、エレノア・ヴァルディスを妻とし、喜びの時も悲しみの時も、共に歩むことを誓いますか」
「誓います」
レオニスは――迷いなく、答える。
その声には、揺るぎない決意が込められている。
「エレノア・ヴァルディス」
司祭が、エレノアに向き直る。
「あなたは、レオニス・アルバート・クラウゼルを夫とし、喜びの時も悲しみの時も、共に歩むことを誓いますか」
「誓います」
心からの言葉で答えるエレノア。
喜びの時も、悲しみの時も――レオニスと、共に歩みたい。それが――今の彼女の何よりの願いだ。
「では――」
司祭は、微笑む。
「二人の結婚を、神の御名において、ここに宣言いたします」
拍手が――大聖堂全体に響き渡る。
レオニスが、エレノア顔を向ける。
その瞳は――優しく、温かい。
「……エレノア」
「はい」
「愛している」
その言葉に、涙が溢れる。
「……私も、愛しています」
レオニスは――優しく、唇を重ねた。
温かい。柔らかい。そして――愛に満ちている。
拍手が、さらに大きくなる。
祝福の声が、響く。
レオニスとエレノアは、手を繋いでバージンロードを戻る。
列席者たちが、笑顔で見送っている。
フローラは――泣きながら、手を振っている。
マルティナとカイも――涙ぐんでいる。
エレノアの父も――満足そうに、微笑んでいる。
王家の面々も、綻んだ顔を見せている。
扉を抜けると――外には、青い空がどこまでも広がっていた。
窓から差し込む光が、部屋全体を照らしている。柔らかな春の陽光。鳥のさえずりが、遠くから聞こえてくる。
鏡の前に立つと、そこには――白いドレスを纏った自分がいた。
繊細なレースが施された袖。胸元には、小さな真珠が散りばめられている。裾は長く、優雅に広がっている。ヴァルディス家に代々伝わる、花嫁のドレスだ。
「お嬢様……」
マルティナが、後ろから声をかけてくる。彼女の声は――震えていた。
「……とても、お綺麗です」
振り返ると、マルティナは涙ぐんでいる。
「ありがとう、マルティナ」
微笑むと、彼女はハンカチで目元を拭った。
「……お嬢様が、こんなに幸せそうなお顔をされるなんて」
「……」
「本当に――良かったです」
胸が、温かくなる。マルティナは、ずっとそばにいてくれた。辛い時も、悲しい時も。そして――今、この幸せな瞬間も。
「マルティナ」
「はい」
「……あなたがいてくれて、本当に良かった」
その言葉に、マルティナは――また、涙を流した。
「……お嬢様」
ドアがノックされる。
「入って」
父が、部屋に入ってくる。侯爵の正装に身を包んだ姿は、威厳に満ちている。
「……エレノア」
父は――少し、目を細めた。
「……美しいな」
「ありがとうございます、お父様」
「そなたの母も、喜んでいることだろう」
笑顔でそれに応えた。
父は、私の隣に立つ。
「……行こうか」
「はい」
王宮の大聖堂は、荘厳な建物だ。
高い天井には、色とりどりのステンドグラスが嵌め込まれている。陽光が差し込むと、床に美しい光の模様が浮かび上がる。祭壇には、白い花々が飾られている。薔薇、百合、すずらん――すべてが、純白に統一されている。
貴族たち、王族たちが、列席している。バレンド王太子殿下、ジェオール第二王子殿下、そして国王陛下と王妃陛下。重臣たちも、正装で並んでいる。
フローラも、前のほうの列に座っている。彼女は――ハンカチを握りしめて、すでに涙ぐんでいる。
扉が開く。
オルガンの音色が、響き渡る。
腕を組んで、父と共にバージンロードを歩き始めるエレノア。一歩、また一歩。ドレスの裾が、床を滑るように進んでいく。
列席者たちが、立ち上がる。
視線が、集まる。
エレノアは、緊張はしていないようだった。
ただ――前を見つめる。
祭壇の前に立つ、レオニスを。
深い紺色の髪。金色の瞳。優美で柔らかな雰囲気。今日は、王子の正装に身を包んでいる。
彼は――じっと、エレノアを見つめている。
その瞳には――深い愛情が宿っている。
歩みを進める。父侯爵の腕が、少し震えている。
「……お父様」
小さく、声をかけるエレノア。
「……ん」
「大丈夫ですか」
「……ああ」
父は、少し笑う。
「ただ――少し、寂しくてな」
「……」
「お前が伴侶を得ることは、とても嬉しいことなのだけれどな」
その言葉に、エレノアは胸が締め付けら、滲み出る涙を堪える。
「……お父様」
「……いや」
父は、首を振る。
「お前は、幸せか」
「はい」
心から答えるエレノア。
「とても、幸せです」
父は――優しく笑った。
「……そうか。なら、それでいい」
祭壇の前に、たどり着く。
レオニスが、一歩前に出る。
父が――手を差し出す。
「……頼んだぞ、レオニス殿下」
「はい」
レオニスは、深く頷く。
「エレノアを、必ず幸せにします」
父は――手を離す。
代わりに、レオニスがエレノアの手を取る。
温かい。力強い。そして――優しい。
父は、満足そうに頷いて――席に戻っていく。
並んで、祭壇に立つ。
司祭が、前に進み出る。白い法衣を纏った、老齢の男性だ。
「本日、ここに集いし皆様」
司祭の声が、大聖堂に響く。
「我々は、レオニス・アルバート・クラウゼル殿下と、エレノア・ヴァルディス様の、聖なる婚姻を祝福するため、ここに集いました」
列席者たちが、静かに聞き入っている。
エレノアが強く、レオニスの手を握ると、レオニスも、それを握り返す。
温かい。この温もりが――ずっと、支えになってくれたいた、とエレノアは綺麗な微笑みを見せた。
「レオニス・アルバート・クラウゼル」
司祭が、レオニスに問う。
「あなたは、エレノア・ヴァルディスを妻とし、喜びの時も悲しみの時も、共に歩むことを誓いますか」
「誓います」
レオニスは――迷いなく、答える。
その声には、揺るぎない決意が込められている。
「エレノア・ヴァルディス」
司祭が、エレノアに向き直る。
「あなたは、レオニス・アルバート・クラウゼルを夫とし、喜びの時も悲しみの時も、共に歩むことを誓いますか」
「誓います」
心からの言葉で答えるエレノア。
喜びの時も、悲しみの時も――レオニスと、共に歩みたい。それが――今の彼女の何よりの願いだ。
「では――」
司祭は、微笑む。
「二人の結婚を、神の御名において、ここに宣言いたします」
拍手が――大聖堂全体に響き渡る。
レオニスが、エレノア顔を向ける。
その瞳は――優しく、温かい。
「……エレノア」
「はい」
「愛している」
その言葉に、涙が溢れる。
「……私も、愛しています」
レオニスは――優しく、唇を重ねた。
温かい。柔らかい。そして――愛に満ちている。
拍手が、さらに大きくなる。
祝福の声が、響く。
レオニスとエレノアは、手を繋いでバージンロードを戻る。
列席者たちが、笑顔で見送っている。
フローラは――泣きながら、手を振っている。
マルティナとカイも――涙ぐんでいる。
エレノアの父も――満足そうに、微笑んでいる。
王家の面々も、綻んだ顔を見せている。
扉を抜けると――外には、青い空がどこまでも広がっていた。
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