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第36話 そして幸福へーー
王宮の大広間。
天井には、巨大なシャンデリアが五つ、煌々と輝いている。無数のクリスタルが光を反射し、まるで星が降り注いでいるかのようだ。
長いテーブルが並び、その上には豪華な料理が所狭しと並んでいる。ローストした肉料理、色とりどりの野菜、繊細な装飾が施されたデザート。銀の食器が、光を受けて輝いている。
音楽隊が、広間の一角で優雅な旋律を奏でている。ヴァイオリン、チェロ、フルート――それぞれの音色が重なり合い、華やかな雰囲気を作り出している。
貴族たちが、次々と近づいてくる。それぞれが、この善き日に相応しい華やかな衣装や宝飾品を身につけている。
「おめでとうございます、エレノア様」
年配の公爵夫人が、優しく微笑む。
「お幸せに」
若い伯爵が、深く一礼する。
一つ一つに、笑顔で応える。こんなに多くの人が、祝福してくれている。胸が、温かくなる。
「エレノア!」
遠くから、声が響く。
振り返ると――フローラが、ドレスの裾を気にしながら駆け寄ってくる。薄いピンク色のドレスが、彼女の明るい性格によく似合っている。
そして、止まることなくそのままの勢いで、抱きついてきた。
「本当に、おめでとう!」
「ありがとう、フローラ」
彼女の温もりが、伝わってくる。
「……良かった」
フローラの声が、震えている。
顔を見ると、彼女は涙ぐんでいる。大きな瞳から、涙が溢れそうになっている。
「本当に、良かった……」
抱きしめ返す。フローラも――ずっと、そばにいてくれた。学園で辛い時も、婚約破棄の時も。いつも、明るく励ましてくれた。
「フローラ」
「うん」
「……あなたにも、いつか素敵な人が現れるわ」
「……えー」
「お先に失礼?」
「もうっ! ふふっ」
フローラは、笑顔を見せながらハンカチで目元を拭う。
その時――マルティナとカイが、静かに近づいてきた。
マルティナは、いつもの侍女服ではなく、上品なダークブルーのドレスを着ている。カイも、騎士の正装に身を包んでいる。
「お嬢様」
マルティナが、静かに言う。
その声は――いつもより、柔らかい。
「……幸せになってくださいね」
「ありがとう、マルティナ」
心から、微笑む。
マルティナの目も、少し潤んでいる。いつも冷静な彼女が、こんなに感情を見せるなんて――珍しい。
「あなたのおかげよ」
「いいえ」
マルティナは、首を振る。
その仕草は、いつもと同じように優雅だ。
「お嬢様ご自身の、強さです」
カイも、深く一礼する。
その動きは、騎士らしく凛としている。
「殿下と、末永くお幸せに」
「ありがとう、カイ。これからもよろしくね?」
「もちろんです」
カイは、穏やかに微笑む。
レオニスも、カイに歩み寄る。
「感謝しているよ、カイ」
「いえ」
カイは、静かに答える。
その瞳には――主への深い忠誠と、友情が宿っている。
「殿下の幸せが、何よりです」
二人の従者は――満足そうに、微笑み合った。
披露宴が終わり、部屋に戻る。
ヴァルディス家と王家とで、王宮内に用意した夫婦の部屋。広い寝室には、天蓋付きのベッドが置かれている。壁には、淡い色の絵画が飾られ、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
静かな部屋。月明かりが、大きな窓から差し込んでいる。カーテンが風に揺れ、外から夜の静寂が伝わってくる。
マルティナが、ドレスを脱ぐのを手伝ってくれた。重いドレスから解放されると、体が軽くなる。シンプルなナイトドレスに着替える。白い絹の生地が、肌に優しく触れる。
窓の外を見ると、満月が輝いている。大きく、明るい月。まるで――この日を祝福しているかのように。
「エレノア」
背後から、レオニスが声をかけてくる。
振り返ると、彼も普段着に着替えていた。王子の正装ではなく、シンプルな白いシャツと黒いズボン。その姿を見て、彼が素でいられる場所になれていることに喜びを感じた。
「……疲れたね」
「少し」
微笑む。
「でも――幸せ」
長い一日だった。朝から準備をして、式があって、披露宴があって。でも――すべてが、幸せな時間だった。
レオニスは、近づいてくる。
月明かりが、彼の横顔を照らしている。深い紺色の髪が、光を受けて柔らかく輝いている。
そして――優しく、抱きしめてくれる。
温かい。力強い。そして――愛に満ちている。
「……エレノア」
「何?」
「……君は、自ら立ち、評価され、そして――愛された女だ」
その言葉が、胸に染み入る。
――そうだ。
ディートリヒに婚約破棄されても、負けなかった。自分の価値を示し続けた。
リリアナに見下されても、動じなかった。冷静に、適切な距離を保った。
アマーリエ王女に対抗されても、冷静に対応した。感情を乱さず、実績を示した。
レオニスに支えられて、自分の力で、乗り越えてきた。
「……ええ」
微笑む。
「私は、私の人生を選んだ」
「そして――」
レオニスを見つめる。
金色の瞳が、月明かりの中で優しく輝いている。
「あなたを、選んだ」
「うん」
「あなたも、私を選んでくれた」
「……うん」
レオニスは――優しく、額に口づけてくれる。
柔らかい。温かい。愛に満ちている。
「……ありがとう、エレノア」
「こちらこそ」
抱き合う。温もりが、伝わってくる。レオニスの心臓の音が、聞こえる。規則正しく、力強く。
窓の外では、月が優しく輝いている。
風が、カーテンを揺らしている。
遠くから、夜鳥の鳴き声が聞こえる。
すべてが――穏やかで、優しい。
未来は――明るい。
レオニスと、共に歩む未来が。
ヴァルディス侯爵家の当主として、領地を治め、領民を守る。
愛し合う夫婦として、共に笑い、共に泣き、共に歩む。
これから――どんな困難があっても、二人で乗り越えていける。
抱き合ったまま、窓の外を見つめる。
月が――静かに、輝き続けていた。
第一章 完
天井には、巨大なシャンデリアが五つ、煌々と輝いている。無数のクリスタルが光を反射し、まるで星が降り注いでいるかのようだ。
長いテーブルが並び、その上には豪華な料理が所狭しと並んでいる。ローストした肉料理、色とりどりの野菜、繊細な装飾が施されたデザート。銀の食器が、光を受けて輝いている。
音楽隊が、広間の一角で優雅な旋律を奏でている。ヴァイオリン、チェロ、フルート――それぞれの音色が重なり合い、華やかな雰囲気を作り出している。
貴族たちが、次々と近づいてくる。それぞれが、この善き日に相応しい華やかな衣装や宝飾品を身につけている。
「おめでとうございます、エレノア様」
年配の公爵夫人が、優しく微笑む。
「お幸せに」
若い伯爵が、深く一礼する。
一つ一つに、笑顔で応える。こんなに多くの人が、祝福してくれている。胸が、温かくなる。
「エレノア!」
遠くから、声が響く。
振り返ると――フローラが、ドレスの裾を気にしながら駆け寄ってくる。薄いピンク色のドレスが、彼女の明るい性格によく似合っている。
そして、止まることなくそのままの勢いで、抱きついてきた。
「本当に、おめでとう!」
「ありがとう、フローラ」
彼女の温もりが、伝わってくる。
「……良かった」
フローラの声が、震えている。
顔を見ると、彼女は涙ぐんでいる。大きな瞳から、涙が溢れそうになっている。
「本当に、良かった……」
抱きしめ返す。フローラも――ずっと、そばにいてくれた。学園で辛い時も、婚約破棄の時も。いつも、明るく励ましてくれた。
「フローラ」
「うん」
「……あなたにも、いつか素敵な人が現れるわ」
「……えー」
「お先に失礼?」
「もうっ! ふふっ」
フローラは、笑顔を見せながらハンカチで目元を拭う。
その時――マルティナとカイが、静かに近づいてきた。
マルティナは、いつもの侍女服ではなく、上品なダークブルーのドレスを着ている。カイも、騎士の正装に身を包んでいる。
「お嬢様」
マルティナが、静かに言う。
その声は――いつもより、柔らかい。
「……幸せになってくださいね」
「ありがとう、マルティナ」
心から、微笑む。
マルティナの目も、少し潤んでいる。いつも冷静な彼女が、こんなに感情を見せるなんて――珍しい。
「あなたのおかげよ」
「いいえ」
マルティナは、首を振る。
その仕草は、いつもと同じように優雅だ。
「お嬢様ご自身の、強さです」
カイも、深く一礼する。
その動きは、騎士らしく凛としている。
「殿下と、末永くお幸せに」
「ありがとう、カイ。これからもよろしくね?」
「もちろんです」
カイは、穏やかに微笑む。
レオニスも、カイに歩み寄る。
「感謝しているよ、カイ」
「いえ」
カイは、静かに答える。
その瞳には――主への深い忠誠と、友情が宿っている。
「殿下の幸せが、何よりです」
二人の従者は――満足そうに、微笑み合った。
披露宴が終わり、部屋に戻る。
ヴァルディス家と王家とで、王宮内に用意した夫婦の部屋。広い寝室には、天蓋付きのベッドが置かれている。壁には、淡い色の絵画が飾られ、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
静かな部屋。月明かりが、大きな窓から差し込んでいる。カーテンが風に揺れ、外から夜の静寂が伝わってくる。
マルティナが、ドレスを脱ぐのを手伝ってくれた。重いドレスから解放されると、体が軽くなる。シンプルなナイトドレスに着替える。白い絹の生地が、肌に優しく触れる。
窓の外を見ると、満月が輝いている。大きく、明るい月。まるで――この日を祝福しているかのように。
「エレノア」
背後から、レオニスが声をかけてくる。
振り返ると、彼も普段着に着替えていた。王子の正装ではなく、シンプルな白いシャツと黒いズボン。その姿を見て、彼が素でいられる場所になれていることに喜びを感じた。
「……疲れたね」
「少し」
微笑む。
「でも――幸せ」
長い一日だった。朝から準備をして、式があって、披露宴があって。でも――すべてが、幸せな時間だった。
レオニスは、近づいてくる。
月明かりが、彼の横顔を照らしている。深い紺色の髪が、光を受けて柔らかく輝いている。
そして――優しく、抱きしめてくれる。
温かい。力強い。そして――愛に満ちている。
「……エレノア」
「何?」
「……君は、自ら立ち、評価され、そして――愛された女だ」
その言葉が、胸に染み入る。
――そうだ。
ディートリヒに婚約破棄されても、負けなかった。自分の価値を示し続けた。
リリアナに見下されても、動じなかった。冷静に、適切な距離を保った。
アマーリエ王女に対抗されても、冷静に対応した。感情を乱さず、実績を示した。
レオニスに支えられて、自分の力で、乗り越えてきた。
「……ええ」
微笑む。
「私は、私の人生を選んだ」
「そして――」
レオニスを見つめる。
金色の瞳が、月明かりの中で優しく輝いている。
「あなたを、選んだ」
「うん」
「あなたも、私を選んでくれた」
「……うん」
レオニスは――優しく、額に口づけてくれる。
柔らかい。温かい。愛に満ちている。
「……ありがとう、エレノア」
「こちらこそ」
抱き合う。温もりが、伝わってくる。レオニスの心臓の音が、聞こえる。規則正しく、力強く。
窓の外では、月が優しく輝いている。
風が、カーテンを揺らしている。
遠くから、夜鳥の鳴き声が聞こえる。
すべてが――穏やかで、優しい。
未来は――明るい。
レオニスと、共に歩む未来が。
ヴァルディス侯爵家の当主として、領地を治め、領民を守る。
愛し合う夫婦として、共に笑い、共に泣き、共に歩む。
これから――どんな困難があっても、二人で乗り越えていける。
抱き合ったまま、窓の外を見つめる。
月が――静かに、輝き続けていた。
第一章 完
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