【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

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第二章

第41話 面倒な第二夫人

サナサリリアが押しかけてきてから、三日が経った。
この三日間――屋敷は、少し異様な雰囲気に包まれている。

朝、執務室で書類を整理していると――。

「きゃあ! レオニス様ったら、お上手ですわ!」

廊下から、サナサリリアの甲高い声が響いてくる。
私は――ペンを置き、深く息を吸う。

冷静に。冷静に、エレノア。あれは子供がはしゃいでいるだけ。そう、子供よ。



「……お嬢様」

マルティナが、険しい表情で入ってくる。

「どうしたの?」

「バザササールご令嬢が、また――」

マルティナは、少し言いにくそうに続ける。

「レオニス様を庭園に誘っていました。もちろん、相手にはされていませんでしたが」
「……そう」
「しかしーー」

私は、マルティナが目を向けた窓のほうを見る。

庭園で――おそらく移動中のレオニスを追いかけてきたサナサリリアが、彼の腕を掴もうとしていた。
レオニスは、さりげなく避けている。だが、サナサリリアは――諦めない。

「レオニス様! この薔薇、とっても綺麗ですわ! 一緒に見ましょう?」
「……サナサリリア嬢、私は忙しいので」
「まあ、冷たいですわ! 少しくらい、いいじゃありませんの!」

彼女は、レオニスの袖を掴む。
レオニスは――明らかに、迷惑そうだ。監視を頼んでいる侍女も、呆れ顔だ。

「……」

私は、静かに窓から目を離す。
胸の奥で――何かが、静かに燃えている。
怒り、というよりは――冷たい、静かな感情。

「お嬢様」

マルティナが、心配そうに言う。

「……大丈夫よ」

私は、微笑む。
だが――その笑顔は、少し冷たかったかもしれない。

「レオニスに、任せるわ」
「……本当に、よろしいのですか」
「ええ」

私は、頷く。

「レオニスは、私の夫よ。彼なら、ちゃんと対処してくれるわ」

マルティナは――少し不安そうだが、頷く。

「……かしこまりました」



昼食時。
食堂では、サナサリリアが――またレオニスの隣に座ろうとしている。

「レオニス様! こちらにどうぞ!」

彼女は、椅子を引く。
だが――レオニスは、私の隣に座る。

「……っ」

サナサリリアの顔が、一瞬こわばる。
だが、すぐに笑顔に戻る。

「まあ、レオニス様ったら! エレノアさんの隣ばかり!」

彼女は、私を睨む。

「たまには、私の隣に座ってくださってもいいじゃありませんの。第二夫人も大切になさいませ?」
「サナサリリア嬢」

レオニスは、冷たく言う。

「私は、エレノアの夫です」
「……」
「妻の隣に座るのは、当然です」

その言葉に――。
サナサリリアは、唇を噛む。
だが――すぐに、別の話題に移る。

「ところで、この料理――」

彼女は、スープを一口飲んで――顔をしかめる。

「味が薄いですわね。バザササール家の料理の方が、ずっと美味しいですわよ」
「……」

料理長が、厨房で聞いているかもしれない。
私は――冷静に、答える。

「お口に合わなくて、申し訳ございません」
「まあ、謝らなくてもいいですわよ」

サナサリリアは、鼻で笑う。

「ヴァルディス家ですもの。バザササール家ほど、洗練されていないのは仕方ありませんわ」

その言葉に――。
使用人たちの表情が、険しくなる。

マルティナも、冷たい視線を向けている。

私は――静かに、スープを飲む。
怒りを、表には出さない。
だが――胸の奥で、何かが燃えている。



午後。
応接室で、来客と話をしていると――。

「エレノアさん!」

サナサリリアが、扉を開けて入ってくる。
ノックもせずに。

「……サナサリリア様、今は――」
「ちょっと、聞いてくださいな!」

彼女は、私の話を遮る。

「レオニス様が、私を避けるんですのよ! どうしてかしら?」
「……」

来客――近隣の商人が、困ったような顔をしている。

「申し訳ございません、少々お待ちください」

私は、商人に頭を下げて――サナサリリアを廊下に連れ出す。

「サナサリリア様」
「何ですの?」
「今、来客中です」
「……来客?」

サナサリリアは、不満そうに言う。

「そんなの、後回しにすればいいじゃありませんの。私の方が、大事でしょう?」
「……」

私は、深く息を吸う。
冷静に。冷静に。

「サナサリリア様、私は今、仕事中です」
「仕事、仕事って――」

サナサリリアは、扇をパタパタと動かす。

「女性が仕事なんて、はしたないですわ。バザササール家の令嬢は、そんなことしませんわよ」
「……」
「それに、レオニス様の妻なんですから、もっと優雅に振る舞うべきですわ」

その言葉に――。
私は、静かに――冷たく、答える。

「私は、ヴァルディス侯爵家の当主です」
「……」
「領地を治め、領民を守る責任があります」

私は、サナサリリアを見つめる。

「それは、『はしたない』ことではありません」

サナサリリアは――少し、怯む。
だが、すぐに反論する。

「で、でも! レオニス様の妻なんですから――」
「レオニスは、私が当主であることを理解して、婿に入ってくれました」

私は、冷静に続ける。

「彼は、私の仕事を尊重してくれています」
「……っ」

サナサリリアは、何も言えない。
私は――応接室に戻る。

「お待たせしました」

商人に、丁寧に頭を下げる。
サナサリリアは――廊下で、悔しそうに立ち尽くしていた。
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