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第七話:計画
しおりを挟むチェーヴァ家の屋敷内は、いつものように薄暗く、重苦しい空気が漂っていた。ベニアミーナとルイージャは黙り込み、フィデンツィオからの暴力に耐える日々を過ごしている。
それは風呂場でのことだった。裸になった女たちがずらりと並び、フィデンツィオに仕えている。その中には、娘であるベニアミーナと後妻ルイージャもいた。
「足の間がむず痒いんだ。丁寧に洗えよ」
「はい、お父様……」
「お前は背中をこすってくれ。その体に石鹸を塗り込んでな」
「はい、旦那様」
「お前たちのような女には、それくらいしか使い道がないんだ。精一杯、気持ちよくしろよ?」
ベニアミーナはその瞳に光を失い、フィデンツィオの足を洗う手元を無言で見つめている。ルイージャもまた、その疲れた目に感情の色はなく、ただ冷え切った姿勢でフィデンツィオの命令を受け入れ体を動かしていた。
「ははっ、はははっ! お前らは俺の言うことを聞くしかない能無しどもだ! おい、ワインが空だぞ! 早くつげ無能が!!」
フィデンツィオが、使用人の体にワイングラスを押しつけぐいぐい押すと、もろいガラスはそれに耐えられず割れてしまう。
「ひぃッ……」
「お前がさっさとつがないから割れてしまったではないか! それとも何か? その薄汚い血がワインの代りだとでも言うのか?」
「あ、あああ……」
「それならそれでもいいぞ! 飲みはしないがな! 新しいワイングラスにその血をためておけ。ははっ!」
割れたグラスを、そのまま使用人の体にぐいぐい刺していくフィデンツィオ。誰も止めることはできない。そんなことをしたら、次にやられるのは、自分なのだから……。
悪逆非道な振る舞いを続けるフィデンツィオ。
その裏で――
彼を殺す計画は着実に進行していた。
夜、屋敷のある一室で、ベニアミーナ、ルイージャ、ジャンパオロ、そして執事のオッターヴィオが顔を合わせた。重苦しい沈黙の中で、ジャンパオロが口を開いた。
「父を殺すには、毒が一番だ。すぐにかたがつくし、後腐れもない」
ジャンパオロは淡々と話したが、ベニアミーナはその案には反対だった。
「毒は無理よ。あの男は、いつも私たちに毒見をさせている。そんなことをしたら、すぐにばれてしまうわ」
ルイージャも頷き、ため息をついた。
「そうね。毒では私たちも疑われるだけ……」
ジャンパオロは顔をしかめた。
「じゃあ、どうする? このままでは時間がかかりすぎる。早くあの男を……」
ジャンパオロは、家族とここで一緒に住んでいた時は暴力に悩まされていたが、家を出てからそれはなくなった。しかし、今ある膨大な借金の返済に父親の遺産をあてたいと思っているため、計画を急いでいた。それに、当時の恨み、妹や義母に対する仕打ちにももちろん憤りを感じている。
そのとき、ベニアミーナは静かに口を開いた。
「父を酔わせて、阿片をワインに混ぜるの。それで深い眠りについたら……テラスから突き落とすのよ」
全員がその言葉に驚いたように息を呑んだ。オッターヴィオは、じっとベニアミーナの顔を見つめた。
「酒に酔って誤って落ちた……そう噂を流すわけだな」
「そうよ。それなら、誰も私たちを疑わないわ」
ベニアミーナの瞳には、冷静さと決意が宿っていた。
ジャンパオロはしばらく考え込んだあと、ゆっくりと頷いた。
「その計画でいこう」
こうして、フィデンツィオを殺す方法は決定した。
作戦会議が終わり皆がその場を後にしたが、オッターヴィオはベニアミーナのそばに立っていた。
「もうすぐ、ですね……」
ベニアミーナは彼に向かって静かに微笑んだ。
「そうね。ようやく……自由になれる」
ベニアミーナはオッターヴィオの手を取り、二人はゆっくりと彼女の部屋に向かって歩き出した。
部屋の扉を閉めると、互いに言葉を交わすことなく、自然と二人の距離は縮まっていった。オッターヴィオの手が彼女の頬に触れると、ベニアミーナの体には熱が宿った。
彼女はベッドの上に座り、オッターヴィオもその隣に腰掛けた。もう逃げられないわね、とベニアミーナは微笑む。その瞳には、鋭い光が宿っていた。
「逃げる必要なんてありません。私はずっと、貴女のそばに……」
オッターヴィオは、ベニアミーナの表情に身震いし、恍惚とした表情で彼女を見つめた。そして、この女神に触れていいものかと戸惑いながらも優しく抱きしめると、ベニアミーナもオッターヴィオの腕に身を委ねた。
「私の女神、ベニアミーナ様……」
「オッターヴィオ……」
決行の日が近づく中、二人はその夜、炎のような熱を共有しながら、互いの存在に確信を深めていった。
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