わるいむし

おととななな

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 実家に帰るのは久しぶりだったが、家の中はまるで時が止まっているかのように全く何も変わっていなかった。
 玄関にある陶器の置物も、傘立ても、壁に貼ってある母親の趣味の刺繍の作品たちも、父親のゴルフクラブのケースの置き場所も何も変わっていない。
 慣れない乗り物に乗ったせいか、それとも道中一緒にいる邪魔者のせいかわからないが、実家に着いた途端新汰の電池は切れてしまい、リビング横にある和室でゴロゴロとしていた。
 「まあまあ、遠いところわざわざ来てくださってありがとうございます」
 リビングにあるテーブルには奏汰と升谷が並んで座り、向かいには父と母が座っている。
 「いえ、奏汰さんと新汰くんが一緒だったんであっという間でした」
 升谷のお手本のような受け答えに新汰は小さく舌打ちをする。
 「ご覧のとおりこのへんは田舎で何もないでしょう?最近は若い子たちもめっきりいなくなっちゃって。この子達もなかなか帰ってきやしないんだから」
 母親はここぞとばかりに新汰へ非難の眼差しを向けてくる。
 新汰は慌てて伸びをするフリをした。
 「まあまあ母さん。こうして帰ってきたんだからいいじゃないか。升谷さんでしたっけ。奏汰とはどれくらいの付き合いなんですか」
 父親の言葉に新汰は思わずドキッとした。
 もしやこの二人、すでに両親にカミングアウト済みなのだろうか。
 事前に二人には話しておいて顔見せに実家に連れてきた…という可能性もある。
 いや、しかし…
 新汰は両親の顔を盗み見た。
 二人は昔から人一倍奏汰を可愛がり、そして奏汰の完璧さを誇りに思っている。
 もし、奏汰が一般的な道から外れたことをしていたらこんな風に穏やかには話せないはずだ。
 「俺が経営してるバーに、たまたま奏汰さんが来店してくれたんです。そこで話すうちにお互い気が合って。この歳になるとなかなか新しい友人ってできにくいと思ってたんですけど、彼の知性や感性、物腰の柔らかさには本当に感銘を受けて。さぞやいいご両親と環境で育ったんだろうって話してたら、今度帰省するから一緒に行かないかって奏汰さんから誘ってくれたんです」
 「まあまあ、そうだったの?」
 升谷の言葉に母親の顔がぱあっと明るくなる。
 「お会いしてみてまだ少しですが、何となくわかりました。奏汰さんが完璧な理由はやはりご両親のおかげなんじゃないかと思います」
 母親の横で父親も嬉しそうに笑っている。
 父の日に肩たたき券をあげた時よりもずいぶん嬉しそうだ。
 「お父さん、やっぱり今日はお寿司か鰻にしましょうか。せっかく来ていただいたんだもの、ね?」
 「そうしようか」
 「そうと決まれば買い物ね。あ、二人はお父さんとゆっくりしててちょうだいね。お父さんお酒だしてあげてね」
 母親はそう言うと椅子から立ち上がる。
 そして足早に新汰に近づくとペン、と尻を叩いてきた。
 「新汰、あんたゴロゴロしてるなら買い物に付き合いなさい」
 
 
 
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