推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

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1章

条件

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「俺の体液が解毒したってことか?」

「そう。その後、唾液毒が弱体化の可能性も考慮して片喰さんの体液に涙、汗、血液、尿、精液、組織液、胃液とあらゆる毒を試したけど全て毒素だけが消滅した。ツキノシズクと同じくらいの解毒作用がある」

ルイは書類をめくって実験結果を見せる。
表にまとめられたものは全て丸になっておりオールクリアしている。
真剣な面持ちで説明を聞いていた片喰は実験項目のひとつを三度見した。

「せい…えき?」

「僕の体内は毒ばかりだ。精液も対象だよ。でも解毒された」

「え、ど、ど、どうやって…実験した…んだ…?」

自分の体液にルイの精液を混ぜて実験したことに動揺して脊髄反射で質問をする。
すぐに察したアスクは下卑たものを見る目で片喰を見た。ルイは何を聞かれているのか分からず怪訝な顔をして近くに置いていた適当な容器を手に取った。

「どうって…他のと同じで、こういうのに採取して小分けにして体液を足して撹拌して…」

「採取…」

片喰が腰あたりを眺めていることに気付いたルイはより一層不思議そうな顔をして容器を元に戻した。

「かたばみ、ドクターは性的な目で見られるって発想がないから…でも気持ち悪いよ」

「すまん…」

アスクに耳打ちで注意されて片喰はこれ以上見ないように目を閉じた。
聞きたいことや妄想はめくるめく脳裏を走り回るがルイにアスクと同じような目で見られたら耐えられないため首を振って振り払う。

「…えっと。つまり、問題なんだ。片喰さんが僕の毒だけ無効化するということがね」

片喰の様子を無視してルイは仕切り直す。

「なるほどな。ルイの毒だけ解毒できる突然変異の人間ってことだな。むしろ暮らしやすくて喜ばしいことに思えるが…何が問題なんだ?」

一緒に暮らしていく上で願ってもないことだ。
ルイが食事や風呂など生活する際に気を遣う必要はなくなり片喰もこれから先の関係に進展が見込める。
毒まで全てを愛するという目標は随分とあっさりになってしまったがこれもひとつの形には違いない。
しかし、ルイは白銀の睫毛を震わせながら伏せて小さく首を振った。

「ムータチオンにはムータチオンである条件がある…どんな条件かは対象によってそれぞれ違う」

「条件?」

「アスク」

ルイの目線でアスクは奥の控え室ような小さな部屋から資料を持ってくる。
付箋まみれのファイルは書類をたっぷり咥え込んで分厚く重たそうだ。ルイは受け取ると何枚か紙をめくった。

「例えば、この火属性の男性に対してこの女性は木属性でありながらムータチオン・トレラントだ。彼の苛烈な炎をものともしない」

資料ファイルの表紙にはムータチオンとタイトルがつけてある。
分厚さから見て思ったよりも突然変異している人は多そうだ。

「条件は、毎日自分の体を水で洗うこと…寒い日は辛そうだね」

「じょ、条件ってそういう…?風呂に入り損ねたら戻るのか?」

思った以上にくだらない条件で片喰はより一層安心した。行動を守りさえすればルイの毒を無効化できるなら安いものだ。

「うん。変異種じゃなくなるから彼の火で普通に焼けるようになるよ。丸焦げになるかもね。変異者の対象者は特に属性が苛烈な人に多いんだ」

ルイの毒の強さを片喰は知らない。
ただ、これほど気を遣う生活をしているのだから当然異常なのだろう。

「ルイも毒強いんだもんな。むしろ今まではいなかったのか?」

安心し切った片喰が妬けるなと冗談めかして笑うも、ルイに笑顔は戻らない。
むしろ泥沼に潜っているかというほどに暗く沈み揺れる睫毛に片喰は戸惑ってアスクを見上げた。
アスクは怒ってるような悲しんでいるような複雑な表情で俯いて片喰と目を合わせないようにした。

「……僕の、ムータチオンの条件は以前に検査した。……僕の条件は、…対象を…つまり、僕を…愛するということ、だ」

「え?」

片喰の笑顔は固まり、検査室には耳が痛いほどの静寂の帷がおりた。
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