推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

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3章

再会

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片喰に抱きつかれ、声を上げて泣かれたルイは状況が把握できず困惑した表情でただ片喰の背を撫でる。
何を問いかけても答えられる様子でない奇妙な片喰にひとまず体を起こして対面しようと試みたが、あまりの力の入らなさに断念し、そこでようやく自分が長い間眠っていたであろうことを察した。
昏睡する寸前の記憶が絶え絶えになる片喰の呼吸と共に次々と蘇る。
これはまずいことになった。
只事ではない様子の片喰に、今までとんでもない心身負担をかけたことを瞬時に理解したルイは栄養不足ではなく青ざめた。

「か、片喰さん…あの……」

掠れる声で精一杯声をかけても片喰は抱きしめる力すら緩めない。
少なくとも、一緒に生活をしていた範囲でこんな片喰は見たことがない。
ルイが冷や汗をダラダラとかき始めたところで片喰の声につられてアスクが部屋に入ってきた。

「かたばみ…!?どうし……え?」

「あ……アスク…ご、ごめん、その……まず、ちょ、ちょっと、助け…」

床に倒れるレイとベッドに泣きつく片喰、片喰の腕の中で困ったように扉の方に首を向けるルイ。
様々な情報が一気に飛び込んできたが、アスクの目線はルイに一直線になった。

「ど…ドクター……!?ドクターッ!!」

「あ…ちょ、ちょ、アスク…あぁ……」

巨体の蛇とは思えない速度で移動したアスクは片喰とベッドごとルイに巻き付いて、わんわんと泣きながら額の鱗を擦り付ける。
力があっても身動きはできないであろう状況に陥ったルイは諦めて脱力し、片喰の背中とアスクの額を優しく撫で続けた。





「………落ち着いた…?」

「うん…」

小一時間は経ったであろう、ふたりの呼吸が落ち着いて来たころにルイは小さく問いかける。
アスクは涙と興奮でキラキラに輝く瞳でルイを見上げて頷いた。

「…片喰さん?」

「…………………あぁ……」

片喰はルイにしがみついて顔を伏せたまま、こもった低く小さい声で返事をする。
冷静になって恥ずかしくなったのか泣き疲れて呆然としているのか判別のつかない片喰に心を痛めながらルイは起きる手伝いをして欲しいと頼み、手を借りる。
起き上がっている間にアスクが持ってきた水をゆっくりと飲んで、ようやくベッドに座ることができたルイは小さくため息をついた。

「…僕は、あの後からずっと眠っていたんだね。どれくらい経った?」

「……もう、数ヶ月だ」

柔らかな低音は掠れてしまって見る影もない。よく見ると、片喰は最後に見たときよりも随分と痩せてやつれてしまっていた。
あまりに痛ましい姿と眠っていた衝撃の期間にルイは言葉もなくただ頭を垂れた。

「……ごめんね。本当に…何て言っていいか。心配も迷惑もかけたし…その…」

「ルイが謝ることじゃない。無事目覚めてくれてよかった」

弱々しい声と動作で首を振り顔を上げて優しく微笑んだ片喰は本当に心から安堵した様子だ。
心労をかけてはしまったものの、片喰が無事だった様子を見ることができてルイも安心した。

「…ドクター、話があるんだ。起きてすぐにごめん。…この……」

再会を喜ぶふたりに申し訳なさそうにアスクは申し出る。
アスクが見ているベッドの下を覗き込むと、そこにはレイが倒れていた。

「え?レイ…!?………わかった。リビングに行こうか」

ルイはゆっくりと脚を下ろしてベッドの縁に掴まって立ち上がる。
膝が思うように立たず、体勢が崩れたところを片喰がすかさず抱き止めた。

「わ…あ、ごめんね…」

「大丈夫だ。掴まれ」

「う、うん…」

片喰はルイを軽々と持ち上げると部屋のドアを開けてリビングまで連れて行く。
結局、先に体を清めて重湯を胃に入れるということから始めた方がいいということでルイのことを先に行ってから三人はリビングに集結してようやく腰を下ろした。
最初こそ筋肉が衰えて弱っていたルイも、魔力はサチルにたっぷりと回復されているため自分で自分に修復と回復を少しずつ施してある程度は動けるようになった。
レイは片喰がルイの世話を焼いている間に、アスクがルイのベッドに寝かしてくれたらしい。
湯浴みをして回復も施し、重湯もしっかり口に入れて幾分か顔色も良くなったルイはアスクと片喰の顔を交互に見て自分が眠ってからのことを話すように促した。

「……なるほどね。はぁ、全く」

話はそう長くもない。ルイが目覚めなくなってから、今日まで特筆することは何も起きていないのだ。
今日あった出来事をただ掻い摘んで話すだけでいい。
ルイは深くため息をつくと隣に座る片喰に体をもたれかけた。

「……ルイ、俺は…判断を、誤った…だろうか…?」

無口だった片喰が小さな声でぽつりと呟く。
頭ではルイが目覚めたということの実感がなく、これは何度も繰り返し見た夢の続きなのではないかとどこかで思っていた片喰も、湯上がりにいきなり研究室の扉を開けて眠りにつく前に実験していたものたちの結果を見に行ったルイを見てようやく実感が湧いてきた。
片喰の夢の中のルイはこんなリアルな動きはしない。
その実感とともに、レイへの罪悪感が胸にのしかかる。
ルイは俯いてしまった片喰を見上げて優しく髪を撫でた。

「…片喰さん、大丈夫。元はと言えばレイが悪いからね。…あんまり僕とレイのこと、話してなかったな。今後のことも含めて…その……将来的なね。僕とレイのことも話しておこうか」

どこか含みのある言葉と視線でルイはレイとの話を始めた。
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