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4章
推しを愛するということ
しおりを挟む片喰の顔が見られない。
顔を上げたら何だか泣いてしまいそうでルイはそのまま顔を伏せていた。
「いや、悪い…すまねえと思ってるんだ、本当だ…。でもそれ以上に、か、可愛くて…」
「え?」
「ルイがそんなことを思ってたなんて夢にも思わなくて…俺は、俺ばっかりがルイのこと好きで…でも、推しってそれが普通、それで当然だってどこかで、思ってて…」
ルイは恐る恐る顔を上げて片喰の顔を見る。しょうもないことだと馬鹿にしているのかと思っていた表情は、口元はにやけたように笑いながらも困惑が混じり耳が充血して赤くなっていた。自分でもどうしたらいいかわからないと言った顔でどんな感情なのか想像もつかない。
思い描いていたどんな反応にも当てはまらない片喰の顔にルイにも困惑が移る。
「こ、恋人なんだから当然僕だって片喰さんのことが好きだよ」
「わかってる、わかってるんだが何というか…推し歴が長かったせいでそういう感覚で、だから、ルイが嫉妬…って…俺のせいなんだが、その…嬉しくて…」
片喰の声は尻すぼみに消えていく。
「ルイは悩んでるのに、悪い…こんな…喜んだりして…」
小さく震える声で情けなく呟き、顔を覆う片喰にルイの鼓動が早鐘を打つ。
どんな言葉を尽くされるよりもこの人は自分のことが好きなのだという実感が血よりも早く身体中を駆け巡った。
いつでも穏やかな片喰、いつでも慈しみの笑顔を向けてくる片喰、皆に優しい片喰。
相手を嫉妬させて喜ばせようなんてそんな発想すらないだろう。それなのに、実際は嫉妬をされるほど愛されていたことに喜んでいる。
自分が愛したことで、困惑するほど喜んでいる。
ルイはうるさいほど高鳴る心臓を必死に抑えながら何度か深呼吸し、ふにゃふにゃの笑顔を浮かべた。
「もー、ずるいよ片喰さん…そんなの、怒れないよ」
「悪い…その、麻耶とは本当に何もないんだ。弟みたいに思ってて…麻耶も、俺のことは兄のように思ってると思う。ルイが心配になるようなことはないんだ。俺は本当にルイのことが好きだ…。でも、気をつけるよ」
「うん、ありがとう。…片喰さん」
ルイはまだ何か迷ったような様子だったが、幾分かすっきりとした表情でニコニコと笑顔を浮かべ、鍋を干した。
ルイが大食漢であるということはわかっていたつもりだったが、目の前で鍋をふたつ平らげた上でしめまで食べるのを目の当たりにして片喰は夕飯の量を倍にすることを検討した。
ルイはとんでもない量を食べてもけろっとした様子で足取り軽く支払いを済ませ、次の目的地に向けて地図を開いた。
「もうこんな時間か。思ったより遅くなっちゃったね。魔導具のショップは近場でいつでも行けるから、夜景でも見に行こうか」
「そうだな」
この辺りの地域で最大の観覧車は今の地点から少し中央街に寄ったところにある。帰り道に立ち寄るにはちょうどいい場面だ。
時間的にも、日暮から夜にかけての景色が楽しめるだろう。
「片喰さんは高いところ大丈夫なの?乗ったことある?観覧車」
「乗ったことはあるが、こっちのは知らないな。俺が思ってるのと同じなら大丈夫だ」
「木属性のが回ってくると片喰さんにも操縦できると思うけど…属性指定だと混むから、僕が操縦するね」
「そ、操縦?どうも違いそうだな」
知っている観覧車とは違いそうな未知の乗り物に少しの恐怖を覚えつつ、観覧という名前である以上それほど激しいものではないと言い聞かせて平静を保つ。
未知の乗り物に乗るのに移動手段がまた酔いの酷い両生馬車だったらどうしたものかと片喰は内心怯えていたが、ルイに連れられたのは普通の馬車だった。
「大観覧車まで」
「はい」
ルイはまた金時計をポケットから引き出して見せると、座り心地こそいいが少々狭い車内に乗り込んだ。
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