この関係に名前をつけるとするならば

花輝夜(はなかぐや)

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「あなたの香り、好きだな」
そう言われてから、わたしはわたしの香りが特別になった。


それはじんわりと心の奥から染み出してくるような好意だった。夏の強い照り返しで炙られた肌から滲む汗と同じ様子でいつの間にか心に染みをつくっていた。気付いたころにはびしょ濡れで、取り返しがつかなかったのである。
「暑いなぁ」
そういって笑うその真っ白な制服も所々汗で濡れて張り付いていた。
若干透けて薄く見える肌色が、笑顔に模様作る木の影に晒されて随分輝いて見えた。
周りには人がいない。暮れ時にはまだ早い、日の一番高い時刻である。買い物に行く主婦や散歩中の暇なお年寄りと出会ってもおかしくないが、やはりこの暑さでは誰も出歩かないようだった。隣を歩くローファーがアスファルトを蹴る優しい音と、遠くに聞こえる蝉の声だけが耳に心地よく響いた。
「これで、足りる?」
「多分」
白くて細い、腕時計すらはめた跡もない手がわたしの持つ袋を指差している。中には変哲のない数リットルの飲み物が入っている。文化祭の準備をしているみんなへの差し入れだ。わたしたちはつまり、体のいい使い走りである。
「アイスでもこっそり食べに行っちゃう?抜け出してさ」
「ジュースぬるくなっちゃうでしょうが。早く帰るよ」
悪戯っ子のようにころころと笑う姿に染みは広がるのを感じた。
一緒にいたからたまたまセットで選ばれた使い走り二人、それ以上でもそれ以下でもないのである。
「ねぇ、虫、ついてる」
「え?!どこ!」
「髪。取ってあげるからじっとして」
突然のことに驚き、言われるがままに動きを止める。その白魚を誇る指がわたしの汗で湿った髪を優しく撫で梳いた。
「なんか、いい匂いがする」
「なに?木とか?ところで虫は取れた?」
焦るわたしと裏腹に、わたしの髪をもてあそぶ白魚は余裕なものだ。うーん、と小さく声を上げ首を傾げたりなんかしている。
「違う。あなたの髪じゃないかな」
「…はぁ」
鼻をひくつかせてみるも酸っぱいようなしょっぱいような汗のにおいしかしなかった。
「どんな匂い?」
「うーん、うまく言えないけど」
そこで白魚はわたしの手からジュースの入った袋をひったくり、朗らかに笑ってみせた。
カンカン照りの太陽が霞んで一瞬時が止まったように見えた、そんな明るい笑顔だった。
「あなたの香り、好きだな」
わたしの心がじわっと吐いた想いが、滲み切れずに溢れた瞬間だった。
そして同じく、「仲のいい女友達」が「好きな人」になった瞬間でもあった。
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