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第一章 ゾンビ女とレンタル彼氏
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みさをがゾンビ女なんて不本意なあだ名をつけられたのは、以前、深夜に巡回していた警備員が、残業中のみさをの姿を見て「ゾンビ!」と叫んで腰を抜かすという騒ぎがあったせいだ。
社内全員が知っていることとはいえ、それを本人に直接言うなんて、弓削ぐらいなものだ。
「もう少し言い方ってもんがあるでしょう。私だって一応女なんだから」
みさをはブツブツ言いながら、化粧ポーチを手にトイレに向かった。
だが、鏡を覗いて「うわっ! ホントにひどい」と思わずのけぞった。
そこに映っていたのは生気の全く感じられない人間、そう、まさにゾンビだったからだ。
「このクマ、コンシーラーで隠せるかしら」
どうにか人間に戻ろうと頑張っていると、「みさをさん」と背後から声をかけられた。
「あ、奈美江ちゃん。久しぶりー」
寺内奈美江はだいぶ年下だが、みさをの数少ない社内の女友達の一人だ。
そういえば奈美江と初めてあったのもこのトイレだった。急に生理が始まってしまい困っていた時に、たまたま居合わせた奈美江がナプキンをくれたのだ。
「また会社に泊ったんですか?」
「まあね。それで、弓削さんから身だしなみを注意されちゃって」
「えっ、弓削さん? そっかぁ、みさをさん仕事で絡みあるんですね。いいなぁ」
弓削の名前が出ると、奈美江の声のトーンが一オクターブ上がった。
「奈美江ちゃん、ああいうのがタイプなの?」
「だって、あの若さで社長の右腕ってすごくないですか? 将来有望、イケメンだし、服のセンスも抜群。あれは絶対に買いですよ」
奈美江はまるで株の銘柄でも選ぶような口ぶりだ。
「ふーん」
弓削をそんな風に見たことがないみさをは、適当に相槌をうちながら、慎重にアイラインをひいていく。
「あっ!!」
目尻まできたところで手が滑って思いっきり線がはみ出てしまった。みさをは手先が不器用で、こういった細かい作業はからきしダメなのだ。
「あーあ、貸してください。私がやってあげますから」
奈美江はみさをから化粧ポーチを取り上げると、中身を全部洗面台に広げ、下地からやり直しにかかった。
社内全員が知っていることとはいえ、それを本人に直接言うなんて、弓削ぐらいなものだ。
「もう少し言い方ってもんがあるでしょう。私だって一応女なんだから」
みさをはブツブツ言いながら、化粧ポーチを手にトイレに向かった。
だが、鏡を覗いて「うわっ! ホントにひどい」と思わずのけぞった。
そこに映っていたのは生気の全く感じられない人間、そう、まさにゾンビだったからだ。
「このクマ、コンシーラーで隠せるかしら」
どうにか人間に戻ろうと頑張っていると、「みさをさん」と背後から声をかけられた。
「あ、奈美江ちゃん。久しぶりー」
寺内奈美江はだいぶ年下だが、みさをの数少ない社内の女友達の一人だ。
そういえば奈美江と初めてあったのもこのトイレだった。急に生理が始まってしまい困っていた時に、たまたま居合わせた奈美江がナプキンをくれたのだ。
「また会社に泊ったんですか?」
「まあね。それで、弓削さんから身だしなみを注意されちゃって」
「えっ、弓削さん? そっかぁ、みさをさん仕事で絡みあるんですね。いいなぁ」
弓削の名前が出ると、奈美江の声のトーンが一オクターブ上がった。
「奈美江ちゃん、ああいうのがタイプなの?」
「だって、あの若さで社長の右腕ってすごくないですか? 将来有望、イケメンだし、服のセンスも抜群。あれは絶対に買いですよ」
奈美江はまるで株の銘柄でも選ぶような口ぶりだ。
「ふーん」
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「あっ!!」
目尻まできたところで手が滑って思いっきり線がはみ出てしまった。みさをは手先が不器用で、こういった細かい作業はからきしダメなのだ。
「あーあ、貸してください。私がやってあげますから」
奈美江はみさをから化粧ポーチを取り上げると、中身を全部洗面台に広げ、下地からやり直しにかかった。
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