借りてきたカレ

しじましろ

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第四章 おかしな同居

(6)

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  ◇  ◇  ◇

「はーい、特別開発チームのみなさーん。長野のテンダーシステムさんから林檎が送られてきましたよー」

 総務の女性が小さな台車に段ボール箱を乗せて運んできた。テンダーシステムはみさをのチームがよく仕事を発注している小さなシステム開発会社だ。お歳暮には少し早いが、地元の名産を旬の時期に贈ってくれたようだ。

「ありがとうございます」

 チームの一人である瀧が、サッと立ち上がってうやうやしくその箱を受け取ると、他のメンバーもわらわらと集まってきた。みんな普段はナマケモノのようにじっと動かないくせに、こういう時だけは早いんだから。みさをは苦笑した。

 蓋を開くと、艶やかな大玉の真っ赤な林檎が整然と並んでいる。

「わあ、美味しそう」

 みさをも一つ手に取り、皮から染み出る甘い香りを嗅いだ。

「あれ? チーフも持って帰るんですか?」と瀧が意外そうに言った。

「何、悪い?」

「いや、だって、いつもはこういうのもらわないじゃないですか。特に生ものは」

 食いしん坊の瀧はみさをの分まで持って帰るつもりだったのだろう。露骨に残念そうな顔をした。

 瀧は体重百キロ近くある巨漢。エンジニアとしては極めて優秀だが、一般常識というものをまるで持ち合わせていない。先日も事務所内でドローンを飛ばして照明器具を壊し、総務部長から大目玉をくらっていた。

「最近は友達がよくうちに来るから、あっても困らないのよね」

 みさをは正しくはないが嘘でもないような言い訳をした。

「そういえば帰るのも早くなりましたもんね」

「それは近頃仕事を頼んでくる人が減ったからよ」

「ああ、それは弓削さんのせいですよ」

 瀧が当然のように言ったので驚いた。数か月前からだろうか、以前はひっきりなしに来ていた他部署からの依頼が徐々に減り始め、今ではほとんどなくなっていた。みさをがずっと不思議に思っていたその理由を、なぜ無関係の瀧が知っているのだろう。

「弓削さんが何かしたの?」

「チーフに余計な仕事頼むなって、あちこちの部署に注意して回ったらしいですよ。最初はみんな聞く耳を持たなかったんだけど、査定に響くなんて脅されて無視できなくなったみたいで」

「何よ、それ」

 まさか弓削が裏でそんなことをしていたなんて思いもしなかった。

 大体みさをの社内ボランティアが問題だと思っているなら、そう直接言えばいいのに。みさをは下唇を噛んだ。

「でも、いいじゃないすか。おかげでチーフも自分の仕事に集中できるし」

 瀧は何が不満なのか分からないという顔をした。

「チーフはなんでも自分でやらないと気が済まないなんですよ」

 瀧にダメ出しされると、本当にダメ人間になった気になる。

 確かにそろそろ取り掛かっているプロジェクトに本腰をいれなきゃいけない時期だし、新しい技術を勉強する時間も欲しいと思っていた。

 弓削がみさをのためにしてくれたと捉えることも出来るが、それでも感謝する気には到底なれなかった。
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