借りてきたカレ

しじましろ

文字の大きさ
30 / 109
第四章 おかしな同居

(7)

しおりを挟む
「ただいまー」

 玄関から声をかけるが返事はない。部屋の中は真っ暗だ。

「あ、おかえり」

 みさをが灯りを点けると、ダイニングで寝落ちしていたらしいキキがようやく反応した。

 テーブルの上には本やコピー用紙がたくさん散らばっている。空になった栄養ドリンクの瓶も数本見える。

「まだレポート終わらないの?」

「ほとんどの教科は終わった。でもあと一教科残ってるんだよー」

 キキは大欠伸をした。課題のレポートの提出期限が迫っていて、ここ数日は徹夜続きなのだ。目の下にはクマが出来ている。大学生もなかなか大変らしい。

「そういえば、林檎もらってきたよ」

 みさをは大事に紙でくるんで持ってきた土産を鞄から取り出す。

「お、うまそー」

 キキが弱弱しいながらも笑顔を見せた。

「後で切ってあげる」

 林檎は医者いらずと言われるほど栄養価が高いと聞く。疲労で胃腸が弱っているキキにはちょうどいいだろう。

「今日荷物受け取っておいてくれた?」

 みさをは上着をハンガーにかけながら聞いた。

「うん、寝室に置いといたよ」

「ありがと」

 まるで夫婦か同棲カップルのような自然な会話。

 そう、瀧に言った友達というのはキキのことだ。だが遊びに来ているわけではなく、一つ屋根の下で一緒に暮らしているのだ。


 みさをが完全にブチ切れて、キキを追い出した日。

 一晩中どこかを歩き回っていたのだろう、キキは早朝になって青白い顔で帰ってきて、玄関に入ってくるなり土下座をした。

「ごめんなさい。俺が悪かったです。もう二度と勝手なことはしないし、生意気なことも言いません。だからもう少しだけここに置いてください。お願いします」

 何度も床に頭をこすりつけ、許しを請うキキを、みさをは無下に叩き出すことは出来なかった。歩み寄って抱き起こしたキキの体は驚くほど冷たかった。その冷気が、時間がたちすでに小さくなりかけていたみさをの怒りの炎を完全に消し去ってしまった。

「もういいから、こっちに来て座りなさい」

 みさをはキキをソファへ連れて行った。

 このままでは風邪をひいてしまうと思い、ブランケットをかけてやり、温かい紅茶をいれた。

「ここに居てもいい?」

 マグカップを渡すと、キキは捨てられた子犬のような目でみさをを見上げた。

「なんでそんなにここに住みたいのよ。自分の家だってあるでしょう?」

 いくら豪華な部屋だって、他人の家のソファで寝る生活が快適とは思えない。

「あるにはあるんだけど……」

 聞けばキキは同じ大学の友人とルームシェアをしているのだが、最近その友人に人生初の恋人ができたらしい。舞い上がった友人は片時も彼女と離れたくないようで、すっかり二人の愛の巣になってしまったアパートに、キキは居づらくなってしまったのだという。

「そんなの同居のルール違反なのだから、お友達にそう言えばいいじゃない」

 キキはそれを言えないほど小心ではないだろう。

「そうなんだけど、部屋代を向こうに多く出してもらっている手前、あんまり強くは言えないんだよね。今はアイツも周りが見えなくなっているけど、そのうち冷静になると思うから。ね、ちょっとの間だけ……」

 キキは両手を合わせ懇願した。

「分かった。インターンが終わったら、ちゃんとお友達と話し合いなさいよ」

 事情は分かったし、今までのことは十分反省しているようだったので、みさをは温情をかけることにした。

 かくして二人の同居は継続されることとなったのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

トキメキの押し売りは困ります!~イケメン外商とアラフォーOLの年末年始~

松丹子
恋愛
榎木梢(38)の癒しは、友人みっちーの子どもたちと、彼女の弟、勝弘(32)。 愛想のいい好青年は、知らない間に立派な男になっていてーー 期間限定ルームシェアをすることになった二人のゆるくて甘い年末年始。 拙作『マルヤマ百貨店へようこそ。』『素直になれない眠り姫』と舞台を同じくしていますが、それぞれ独立してお読みいただけます。 時系列的には、こちらの話の方が後です。 (本編完結済。後日談をぼちぼち公開中)

【完】お兄ちゃんは私を甘く戴く

Bu-cha
恋愛
親同士の再婚予定により、社宅の隣の部屋でほぼ一緒に暮らしていた。 血が繋がっていないから、結婚出来る。 私はお兄ちゃんと妹で結婚がしたい。 お兄ちゃん、私を戴いて・・・? ※妹が暴走しておりますので、ラブシーン多めになりそうです。 苦手な方はご注意くださいませ。 関連物語 『可愛くて美味しい真理姉』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高13位 『拳に愛を込めて』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位 『秋の夜長に見る恋の夢』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位 『交際0日で結婚!指輪ゲットを目指しラスボスを攻略してゲームをクリア』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『幼馴染みの小太郎君が、今日も私の眼鏡を外す』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高8位 『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位 『女神達が愛した弟』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位 『ムラムラムラムラモヤモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...