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第五章 マシュマロの破壊力
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次に目を開けた時、みさをは病院のベッドに寝かされていた。
起き上がろうとするとキィとベッドがきしんで、次の瞬間、体中に痛みが走る。
思わず「うっ」と声が出た。
指で触れて確認すると、頬には大きな絆創膏がテープで留められ。頭も包帯でぐるぐる巻きにされている。
「気がついた?」
ずっと横に居たのか、キキが顔を覗き込んできた。
「顔面打撲、後頭部は二針縫った。CT検査もしたけど、今のところ脳に異常なし。でも念のため数日は入院だってさ」
キキは淡々と医者に言われたことを伝えてくれる。
頭から血が出た時はもうダメだと思ったが、案外軽傷で済んだようだ。
「由愛ちゃんは?」
病室を見回したがキキの他に人はいなかった。
「さっきまで居たんだけど、俺がついてるからって言って、家に帰したよ」
「ストーカーは? 大丈夫なの?」
「ああ、あれはストーカーじゃなかったんだ。あの男は澤井の彼氏だってさ」
「彼氏?」
あれ? 由愛はキキのことが好きって言ってたよね? 話がおかしくないか?
「うん。浮気性の彼女を持つと大変だよね。あの男、みさをさんの血を見て卒倒しそうになっていたし、暴力的な奴ではないと思うよ。澤井も警察沙汰にはしないで欲しいってさ」
「そう」
なんだ。みさをの早とちりだったってことか。一人で大騒ぎして、怪我までするなんて間抜け過ぎる。まぁ由愛が無事だったならそれでいいか。
「ごめん」
キキは急にかしこまって頭を下げた。
「なんでキキが謝るの? キキは何も悪いことしてないじゃない」
キキは最初から由愛に関わることに反対していたのに、それを振り切って部屋に泊めたのはみさをだ。
「でも俺が居候してなければこんなことにはならなかったし。女の顔に傷をつけるなんて……」
キキは相当に責任を感じているのか、顔をこわばらせたままだ。
「大丈夫よ。これくらいすぐに治るわ」
キキを安心させようと、みさをは笑顔を作り、腕を曲げ伸ばししてみせた。
その時、テーブルの上に花が置かれているのに気がついた。白とピンクを基調とした上品なアレンジメント。なかなかセンスがいい。
「お花買ってきてくれたの? すごく綺麗だね」
「あれは……社長室の弓削さんが持ってきたんだ」
キキを褒めたつもりが、予想外の名前が飛び出して驚いた。一体どこで聞きつけて来たのだろう。弓削の早耳には畏れ入る。
「弓削さんがここに来たの? 何か言ってた?」
「うん、みさをさんのことすごい心配してたよ」
「あー、うん」みさをは苦笑した。
弓削が心配しているのはみさをでなく、プロジェクトに影響が出ることだろう。きっと次に会ったら、こんな大事な時期に怪我をするなんてと嫌味を言われるに違いない。
「じゃ、俺帰るね」
キキが荷物を持って立ち上がった。疲れているのか、こちらが心配になるくらい顔色が悪く、声も弱弱しかった。
「うん。気をつけてね」
「みさをさん、ごめん……」
病室を出る寸前、キキはこちらに背を向けたまま再び謝った。
「だからそんなに謝らなくていいって」
「違う……。あんな風にキスしたこと」
キキは少しはにかみながら、でもはっきりそう言ってドアを閉めた。
キス、そうだった。その後の出来事が強烈すぎて完全に忘れていたが、今朝、キキとキスしたんだった。
みさをは唇に手をやった。生々しい感覚が蘇ってきて、今更ながら心臓が騒ぎ出した。
いくら由愛を牽制するための演技といっても、あんなに激しくする必要はあった?
「あー、もう変なこと思い出させないでよー」
静まり返った部屋の中、みさをは一人悶々として眠れない夜を過ごすことになった。
起き上がろうとするとキィとベッドがきしんで、次の瞬間、体中に痛みが走る。
思わず「うっ」と声が出た。
指で触れて確認すると、頬には大きな絆創膏がテープで留められ。頭も包帯でぐるぐる巻きにされている。
「気がついた?」
ずっと横に居たのか、キキが顔を覗き込んできた。
「顔面打撲、後頭部は二針縫った。CT検査もしたけど、今のところ脳に異常なし。でも念のため数日は入院だってさ」
キキは淡々と医者に言われたことを伝えてくれる。
頭から血が出た時はもうダメだと思ったが、案外軽傷で済んだようだ。
「由愛ちゃんは?」
病室を見回したがキキの他に人はいなかった。
「さっきまで居たんだけど、俺がついてるからって言って、家に帰したよ」
「ストーカーは? 大丈夫なの?」
「ああ、あれはストーカーじゃなかったんだ。あの男は澤井の彼氏だってさ」
「彼氏?」
あれ? 由愛はキキのことが好きって言ってたよね? 話がおかしくないか?
「うん。浮気性の彼女を持つと大変だよね。あの男、みさをさんの血を見て卒倒しそうになっていたし、暴力的な奴ではないと思うよ。澤井も警察沙汰にはしないで欲しいってさ」
「そう」
なんだ。みさをの早とちりだったってことか。一人で大騒ぎして、怪我までするなんて間抜け過ぎる。まぁ由愛が無事だったならそれでいいか。
「ごめん」
キキは急にかしこまって頭を下げた。
「なんでキキが謝るの? キキは何も悪いことしてないじゃない」
キキは最初から由愛に関わることに反対していたのに、それを振り切って部屋に泊めたのはみさをだ。
「でも俺が居候してなければこんなことにはならなかったし。女の顔に傷をつけるなんて……」
キキは相当に責任を感じているのか、顔をこわばらせたままだ。
「大丈夫よ。これくらいすぐに治るわ」
キキを安心させようと、みさをは笑顔を作り、腕を曲げ伸ばししてみせた。
その時、テーブルの上に花が置かれているのに気がついた。白とピンクを基調とした上品なアレンジメント。なかなかセンスがいい。
「お花買ってきてくれたの? すごく綺麗だね」
「あれは……社長室の弓削さんが持ってきたんだ」
キキを褒めたつもりが、予想外の名前が飛び出して驚いた。一体どこで聞きつけて来たのだろう。弓削の早耳には畏れ入る。
「弓削さんがここに来たの? 何か言ってた?」
「うん、みさをさんのことすごい心配してたよ」
「あー、うん」みさをは苦笑した。
弓削が心配しているのはみさをでなく、プロジェクトに影響が出ることだろう。きっと次に会ったら、こんな大事な時期に怪我をするなんてと嫌味を言われるに違いない。
「じゃ、俺帰るね」
キキが荷物を持って立ち上がった。疲れているのか、こちらが心配になるくらい顔色が悪く、声も弱弱しかった。
「うん。気をつけてね」
「みさをさん、ごめん……」
病室を出る寸前、キキはこちらに背を向けたまま再び謝った。
「だからそんなに謝らなくていいって」
「違う……。あんな風にキスしたこと」
キキは少しはにかみながら、でもはっきりそう言ってドアを閉めた。
キス、そうだった。その後の出来事が強烈すぎて完全に忘れていたが、今朝、キキとキスしたんだった。
みさをは唇に手をやった。生々しい感覚が蘇ってきて、今更ながら心臓が騒ぎ出した。
いくら由愛を牽制するための演技といっても、あんなに激しくする必要はあった?
「あー、もう変なこと思い出させないでよー」
静まり返った部屋の中、みさをは一人悶々として眠れない夜を過ごすことになった。
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