借りてきたカレ

しじましろ

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第七章 きょうだいごっこ

(8)

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 最初は驚いていたものの、基本的に人の良いみさをの家族はキキを歓迎してくれた。
 みんなでこたつに入り、正月料理を囲むとすっかり和やかなムードになった。

 父はキキに日本酒が飲めるか確認し、キキが「はい」と答えると、一旦席を外した。

 そして、「じゃあ、とっておきのやつを開けよう」と大事そうに一升瓶を抱えて戻ってきた。
一緒に酒を飲む相手が出来て嬉しいのだろう。母も祖母は下戸だし、みさをも日本酒は飲まない。

「お母さんのおせち、とっても美味しいです。俺、こんなにちゃんとしたおせち食べるの初めてだから感動しちゃいました」

 キキは煮しめをぱくぱく食べながら言った。

「まあ、そんな。たくさん食べてね」

 料理好きな母は、おせちを毎年全品手作りしている。それが当たり前だと思っている家族は、黙々と食べるだけで感想を言うことなどない。キキに大袈裟に褒められたうえに、爽やかな笑顔を向けられ、母は頬を赤らめた。

 さすがレンタル彼氏をやっていただけあって、キキは人を気分良くさせるのが上手い。

 そして誰よりもキキを気に入っていたのは祖母で、ずっと横に座って離れようとしなかった。

 みさをの知る限り、今まで祖母が雅史にこんな態度を取ったことはない。祖母はキキが雅史ではないと、とっくに分かっているんじゃないかと思った。

 陽のあるうちに帰るつもりだったのに、席を立とうとすると、母が果物やら菓子やら新しい皿を運んできて、結局終電近くになってしまった。

「ごめんね。一日中うちの家族の接待させちゃって。疲れたでしょ?」

 都心へ向かう空いた電車に揺られながら、みさをはキキに謝った。

「ううん、すごく楽しかった。みさをさんの家族はみんな優しくていい人だね。みさをさんが人を疑わない性格になったのも分かるな」

 キキはとても穏やかな顔をしている。

「またいつか、おばあちゃんにも会いたいな」

 独り言のように呟くキキを見て、みさをは気がついた。
 そうかキキは温かい家庭というものを知らないのだ。だからこんな疑似体験でも楽しかったのだろう。

「キキ、うちにいる間は私のことを本当の姉だと思ってね」

 みさをはこれから一年、自分が出来る限りキキに家族がいる安心感を味わわせてあげようと心に決めた。
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