借りてきたカレ

しじましろ

文字の大きさ
66 / 109
第八章 婚活と就活

(7)

しおりを挟む
 記憶を巻き戻し、あの日の出来事を脳内で再生してみる。

 店を出た時、キキは何か悩んでいる様子だった。あれは、みさをの好意を受け入れるか否か考えていたのだろうか?

 ということは、その後手を繋いできたのは、付き合うことを了承したという意味で、今朝のキスも……そういうことなの?

 もしも、みさをが誤解を解かなかったら、二人はこのまま恋人同士になるのだろうか。

 毎朝おはようのキスをして、暇さえあればいちゃいちゃして、たまには外でデートなんかもしたりして……甘い甘い同棲生活。当然、夜は一緒のベッドで……。

「わー!ストップ、ストップ。今の無し」

 みさをはイケナイ妄想を膨らませたことを恥じ、煩悩を振り払うように頭を激しく振った。

 十歳も年下の学生に手を出すなんて、犯罪に近い行為だ。

 自分が学生の頃を思い返せば、右も左も分からない子供だったじゃないか。将来ある若者の身を汚してはいけない。

 それに、そんなことになったら、この家の空気は一変してしまう。みさをも今までみたいに余裕のある大人のふりなんてしていられなくなるだろう。

 あえて見ないようにしてきたキキの女性関係だって、きっと看過できなくなる。嫉妬にかられ束縛なんかし始めるかもしれない。

 そもそも、キキは誰とも付き合わない主義ではなかったか?

 もしかしてキキにはここ以外に行く所がなく、借金もしているから、仕方なくみさをに合わせようとしているのか?

 だとしたら、キキが安らげる場所を作ってあげるという、当初の目標とは真逆になってしまう。

 そうだ。ほのぼのしたホームドラマにキスシーンなど必要ないのだ。みさをはそう結論づけ、一人で大きく頷いた。


「これからはみさをさんじゃなく、お姉さんと呼びなさい!」

 二人の間にちゃんと線を引くためにとりあえず形から入ろうと、みさをはキキが帰ってくるなりそう命令した。

 理屈ではあれこれ考えていても、実際にキキが本気でみさをのことを求めてきたら、きっぱり拒絶できる自信がなかったからだ。

「えー、言いづらいよ」

 キキは口を尖らせる。

「なら、ねーちゃんでも姉貴でもなんでもいいから」

「なんだよ、急に」

 ぶつぶつと不満を漏らすキキに、「それと、あのスーツだけど、就活に必要だと思ったから買っただけで、特に深い意味はないからね」とさりげなく伝えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

トキメキの押し売りは困ります!~イケメン外商とアラフォーOLの年末年始~

松丹子
恋愛
榎木梢(38)の癒しは、友人みっちーの子どもたちと、彼女の弟、勝弘(32)。 愛想のいい好青年は、知らない間に立派な男になっていてーー 期間限定ルームシェアをすることになった二人のゆるくて甘い年末年始。 拙作『マルヤマ百貨店へようこそ。』『素直になれない眠り姫』と舞台を同じくしていますが、それぞれ独立してお読みいただけます。 時系列的には、こちらの話の方が後です。 (本編完結済。後日談をぼちぼち公開中)

【完】お兄ちゃんは私を甘く戴く

Bu-cha
恋愛
親同士の再婚予定により、社宅の隣の部屋でほぼ一緒に暮らしていた。 血が繋がっていないから、結婚出来る。 私はお兄ちゃんと妹で結婚がしたい。 お兄ちゃん、私を戴いて・・・? ※妹が暴走しておりますので、ラブシーン多めになりそうです。 苦手な方はご注意くださいませ。 関連物語 『可愛くて美味しい真理姉』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高13位 『拳に愛を込めて』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位 『秋の夜長に見る恋の夢』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位 『交際0日で結婚!指輪ゲットを目指しラスボスを攻略してゲームをクリア』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『幼馴染みの小太郎君が、今日も私の眼鏡を外す』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高8位 『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位 『女神達が愛した弟』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位 『ムラムラムラムラモヤモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

処理中です...