79 / 109
第九章 降って湧いた婚約者
(10)
しおりを挟む
それから平森とは海へ行ったり、美術館に行ったり、何度かデートを重ね、着実に親しくなっていった。互いの呼び方は萩野さんからみさを、平森さんから透さんに変わった。
まだ互いに猫を被っているせいかもしれないが、平森には欠点らしきところが見つからなかった。一緒にいる時は恋人というよりも、どちらかといえば信頼できる先生と話しているような安心感があった。
だから油断していたのだ。まさか平森が、いきなりあんなことをするなんて……。
その日、平森とのデートの後、家に戻ったみさをはしばらく放心状態でソファに座ったままボーっとしていた。
「どうしたの? 電気もつけないで」
大学から帰ってきたキキが部屋の明かりをつけた。いつの間にか夜になっていたらしい。
急な光の変化に目が眩み手で顔を覆った。それでキキはみさをが泣いていたと勘違いしたのか、飛びかかるような勢いで前に来て両肩を強く掴んだ。
「まさか、あいつに何かされたの?」
「うん」
キキの剣幕に押され、反射的に頷いてしまった。
「クソッ。あいつ優しそうな顔して、とんだ変態野郎だったのか」
「いや、そうじゃなくって」
みさをは慌ててあらぬことを想像していそうなキキをなだめた。
「プロポーズ、されたの」
「は?」
キキは何馬鹿なことを言ってるんだという顔をしている。無理もない。みさをは証拠を見せるため、小さな箱を取り出した、綺麗に革が張られたその箱を開けると、中には七色に輝く石が散りばめられたリングが入っている。そうダイヤモンドの婚約指輪だ。
「ええーっ!!」
それを見たキキは目玉が飛び出そうなほど驚いた。
「だって、まだ……」
数時間前にみさをも同じことを考えたから、キキの言いたいことは分かる。
いくら最初から結婚を視野に入れた付き合いだといっても、展開が早すぎる。平森と公園で会ってからまだ二か月もたっていない。
しかもこれはキキには言っていないが、平森とはまだキスすらしていないのだ。
今日のデートは平森の自宅に招かれていたので、もしかしたら、なんらかのスキンシップはあるかもしれないとそれなりに緊張はしていた。だがプロポーズされるなんて頭の片隅にもなかった。
資産家だと聞いてはいたが、平森の家は想像以上に大きく、有形文化財に登録されていそうな歴史を感じさせる洋館だった。
家の中は複数のメイドさんが行き来していて、店にいるのとなんら変わらぬ状況だったので、みさをは気楽に過ごすことが出来た。
そして帰り際のこと、平森は突然みさをの前で膝をついた。始めは何をしているのか分からず、具合でも悪いのかと思った。
まだ互いに猫を被っているせいかもしれないが、平森には欠点らしきところが見つからなかった。一緒にいる時は恋人というよりも、どちらかといえば信頼できる先生と話しているような安心感があった。
だから油断していたのだ。まさか平森が、いきなりあんなことをするなんて……。
その日、平森とのデートの後、家に戻ったみさをはしばらく放心状態でソファに座ったままボーっとしていた。
「どうしたの? 電気もつけないで」
大学から帰ってきたキキが部屋の明かりをつけた。いつの間にか夜になっていたらしい。
急な光の変化に目が眩み手で顔を覆った。それでキキはみさをが泣いていたと勘違いしたのか、飛びかかるような勢いで前に来て両肩を強く掴んだ。
「まさか、あいつに何かされたの?」
「うん」
キキの剣幕に押され、反射的に頷いてしまった。
「クソッ。あいつ優しそうな顔して、とんだ変態野郎だったのか」
「いや、そうじゃなくって」
みさをは慌ててあらぬことを想像していそうなキキをなだめた。
「プロポーズ、されたの」
「は?」
キキは何馬鹿なことを言ってるんだという顔をしている。無理もない。みさをは証拠を見せるため、小さな箱を取り出した、綺麗に革が張られたその箱を開けると、中には七色に輝く石が散りばめられたリングが入っている。そうダイヤモンドの婚約指輪だ。
「ええーっ!!」
それを見たキキは目玉が飛び出そうなほど驚いた。
「だって、まだ……」
数時間前にみさをも同じことを考えたから、キキの言いたいことは分かる。
いくら最初から結婚を視野に入れた付き合いだといっても、展開が早すぎる。平森と公園で会ってからまだ二か月もたっていない。
しかもこれはキキには言っていないが、平森とはまだキスすらしていないのだ。
今日のデートは平森の自宅に招かれていたので、もしかしたら、なんらかのスキンシップはあるかもしれないとそれなりに緊張はしていた。だがプロポーズされるなんて頭の片隅にもなかった。
資産家だと聞いてはいたが、平森の家は想像以上に大きく、有形文化財に登録されていそうな歴史を感じさせる洋館だった。
家の中は複数のメイドさんが行き来していて、店にいるのとなんら変わらぬ状況だったので、みさをは気楽に過ごすことが出来た。
そして帰り際のこと、平森は突然みさをの前で膝をついた。始めは何をしているのか分からず、具合でも悪いのかと思った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる