借りてきたカレ

しじましろ

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第九章 降って湧いた婚約者

(10)

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 それから平森とは海へ行ったり、美術館に行ったり、何度かデートを重ね、着実に親しくなっていった。互いの呼び方は萩野さんからみさを、平森さんから透さんに変わった。

 まだ互いに猫を被っているせいかもしれないが、平森には欠点らしきところが見つからなかった。一緒にいる時は恋人というよりも、どちらかといえば信頼できる先生と話しているような安心感があった。

 だから油断していたのだ。まさか平森が、いきなりあんなことをするなんて……。

 その日、平森とのデートの後、家に戻ったみさをはしばらく放心状態でソファに座ったままボーっとしていた。

「どうしたの? 電気もつけないで」

 大学から帰ってきたキキが部屋の明かりをつけた。いつの間にか夜になっていたらしい。
 急な光の変化に目が眩み手で顔を覆った。それでキキはみさをが泣いていたと勘違いしたのか、飛びかかるような勢いで前に来て両肩を強く掴んだ。

「まさか、あいつに何かされたの?」

「うん」

 キキの剣幕に押され、反射的に頷いてしまった。

「クソッ。あいつ優しそうな顔して、とんだ変態野郎だったのか」

「いや、そうじゃなくって」

 みさをは慌ててあらぬことを想像していそうなキキをなだめた。

「プロポーズ、されたの」

「は?」

 キキは何馬鹿なことを言ってるんだという顔をしている。無理もない。みさをは証拠を見せるため、小さな箱を取り出した、綺麗に革が張られたその箱を開けると、中には七色に輝く石が散りばめられたリングが入っている。そうダイヤモンドの婚約指輪だ。

「ええーっ!!」

 それを見たキキは目玉が飛び出そうなほど驚いた。

「だって、まだ……」

 数時間前にみさをも同じことを考えたから、キキの言いたいことは分かる。
 いくら最初から結婚を視野に入れた付き合いだといっても、展開が早すぎる。平森と公園で会ってからまだ二か月もたっていない。

 しかもこれはキキには言っていないが、平森とはまだキスすらしていないのだ。

 今日のデートは平森の自宅に招かれていたので、もしかしたら、なんらかのスキンシップはあるかもしれないとそれなりに緊張はしていた。だがプロポーズされるなんて頭の片隅にもなかった。

 資産家だと聞いてはいたが、平森の家は想像以上に大きく、有形文化財に登録されていそうな歴史を感じさせる洋館だった。
 家の中は複数のメイドさんが行き来していて、店にいるのとなんら変わらぬ状況だったので、みさをは気楽に過ごすことが出来た。

 そして帰り際のこと、平森は突然みさをの前で膝をついた。始めは何をしているのか分からず、具合でも悪いのかと思った。

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