堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》

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「大嗣、久しぶりじゃん!」

 前髪をかきあげた長い茶髪と、大きなサングラスが目をひく長身の男性。
 派手な柄シャツも違和感なく着こなす、一般人とは思えないオーラに圧倒されて、黙って大嗣さんと男性を交互に見るしかなかった。

「……どうも」

 嬉々とした空気を漂わせる男性とは反して、どこか余所余所しい態度の大嗣さん。

「おぃぃー! なんでそんなテンション低いの?」

 男性は大嗣さんの背中をバシッと叩く。
 その様子から二人が親密な間柄だということがわかった。
 立ち尽くす私に気づいたのか、大嗣さんは「高校の時の同級生です」と囁く。

「過去の男みたいに言うなし! 先月も飲んだじゃん!」

 先月も飲んでいたとは。
 久しぶりじゃん! というほど久しぶりじゃなかったというツッコミはさておき、大嗣さんの交友関係が少しだけ知れてちょっぴり嬉しい。
 照れているのかほんのりピンクの頬になる大嗣さんを見てニヤけていると、圧のある視線を感じハッとした。
 いつの間にかサングラスを外していて、彫りの深い美しい顔立ちを露わにさせる男性。
 キリッとした濃い眉毛が印象的で、何より圧がすごい。

「……どーも。会社の人? だめじゃん。確かこないだ彼女できたばっかだろ? 女の子と二人で歩いてちゃ誤解されるぞ」

 端から私のことを、大嗣さんの恋人であるはずがないと信じて疑わないような、眼中にないですよ、と言わんばかりの言葉と態度だった。
 品定めしているような瞳と、見下したような笑い方。
 はっきり言って感じが悪い。
 傷つくよりも先にムッとして、「ちょっとアナタ!」とオカンが出そうになるも、先に口を開いたのは大嗣さんだ。

「結婚も視野に入れた交際をしていただいてる、俺の大切な恋人です」

 はっきりと、堂々と宣言し、私の肩を抱いてくれる大嗣さんに胸が締めつけられて、涙腺が緩みそうになるのを我慢した。

「まじで!? こんなどん……」

 鈍臭い、という言葉を言おうとしているのがすぐにわかった。
 睨みつける大嗣さんにたじたじになりながら、男性は慌てて「ドントフォーゲットなレディだな!」と誤魔化した。

「かなめさん、行こうか」

 そう言って肩を抱きながら私を駅の方へ促す大嗣さんを、男性は尚も引き止める。

「待てって。彼女なら挨拶させてよ。俺ら親友じゃん」

「………………」

 親友というワードに、大嗣さんは悩んでいるようだった。
 男性は、にっこりと微笑み私に名刺を差し出す。

「ハジメでっす。デザイナーやってます。大嗣とは高校からの腐れ縁なんだ。よく飲みに行ってる」

 名刺にプリントされたブランド名を見てギョッとする。
 お洒落に疎い私でも聞いたことがあるような有名なアパレルブランドだ。

「も、望月です。宜しくお願いします」

 ぺこりと頭を下げて再び顔を上げると、ニヤついた笑みで私を見下ろすハジメさん。
 やっぱり感じが悪い。

「なぁ、飲みに行かない? 俺、こっち帰ってきたばっかなのよ」

 よく見ると傍らにはスーツケースがあり、それだけでも世界を股にかけていることが容易に想像できた。
 ハジメさんの提案を、大嗣さんは「今日は無理」と即断する。

「なんだよー! せっかく偶然会ったのに!」

 この一連の流れで、ハジメさんは大嗣さんが大好きなのだということがわかった。
 同性からも愛される人徳者の大嗣さんが尊い。
 この一ヶ月は、週末ずっと私が大嗣さんを独占してしまったし、大嗣さんを愛する同志として、今回だけは譲ってもいいかという余裕も芽生えた。

「あの、よかったらお二人で飲んでください。私はまた都合の良い日で大丈夫ですよ」

 気にさせないように穏やかに微笑むと、大嗣さんは真顔で「嫌です。ビーフストロガノフはかなめさんの為に作ったので」とロボットのように即答した。

「だったらさ、俺も混ぜてよ」

 一切の空気を読まずにカラッと笑うハジメさん。

「彼女さんと仲良くなりたいしさ!」

 さっきとはまるで違う、友好的な態度に困惑するも、大嗣さんの親友に認められるチャンスでは、と思い直すのだった。

    
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