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閑話
目指す道(高城視点)(2)
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その日、裕哉は資料を纏めるために医局で残業をしていた。タブレットを開いて英論文とにらめっことしているうちに、時間は刻々とすぎ、すでに二十時になっていた。
集中できない……。
こういう日は早く上がってしまうに限るのかもしれないが、なんとなくその思い切りもつかず、タブレットの上を視線が滑るままだった。
そこに控えめにノックする音がした。
「はあい」
惰性で応答する。
「失礼します。お世話になります、メルト製薬です」
控えめにドアを開け、挨拶をしたのは、件のオメガのMR新堂朔耶だった。
「あ、新堂くん、こんばんは」
「高城先生、こんばんは。遅くまで、お疲れさまです」
彼は和泉付きのMRだが、アルファ・オメガ科の医師全員に気配りをすることを忘れない。
「論文ですか?」
「いや……。放置してしまった資料をまとめておきたくてね」
「大変ですね。頑張ってくださいね」
奥のデスクにいた、自分の指導医である和泉が動いた気配がした。
「新堂くん、お疲れさま。わざわざ済まないね」
途端に医局が甘い空気に包まれたと思ったのは自分だけだろうか……。裕哉は内心、うはぁと、うんざりした気分になる。パートナーならば、ここでやらずに一緒に帰って思う存分いちゃつけばよいのだ。ここは神聖な職場だと言いたい。
「いいえ、和泉先生。ご連絡があればうかがうのが仕事ですから!」
新堂は相変わらず熱心だ。彼は自分と同じ年と聞いている。
まあデートではないのかと一安心。
自分がここにいて、本当にいいのかと疑問に思ったが、べつに自分のデスクなので遠慮をすることはない。
「高城、お前まだいるの?」
和泉の問いかけに、頷く。早く出て行けといいたいのだろうかと少し皮肉げに思う。
「はい、資料をまとめておきたいので」
すると、和泉は少し考える仕草を見せた。
「まあいい。お前は少し耳を澄ませておけよ」
「はあ」
和泉によく分からないことをアドバイスされ、裕哉は意図を察しきれずに頷くしかなかった。
すると再びノックがした。
「どうぞ」
今度は和泉が応答する。
「失礼します」
入ってきた人物に、裕哉は度肝を抜かれた。
「お、来た来た」
和泉が気軽な挨拶をする。
久しぶりに見る顔だった。ダークブラウンのスーツに品の良い臙脂色のネクタイを締めている美丈夫……。
その相手は、誠心医科大学横浜病院のアルファ・オメガ科の医師、森生颯真だった。
裕哉にとって、森生は元後輩であり現在は先輩であるという複雑な関係だ。
三学年下だった彼は、裕哉が誠心医大の四年生のときに入学してきたが、瞬く間に後輩から同級生を一瞬で通り抜け、先輩になった。この国では、アルファに限定して飛び級が認められており、その制度を最大限に活用し、最短で医学部を、しかも首席で卒業し、二十三歳で、アルファ・オメガ科の専門医となった。
一方、ベータの自分は二十九にもなるのに、未だ専攻医研修課程だ。これが通常であり、森生が駆け抜けすぎたのであるが、一気に追い抜かれたのはそれなりにショックである。
いわば彼は、はっきり言えばベータである自分のコンプレックスを最大に刺激してくる存在ということだ。
本音を言えば、なんでアルファがアルファ・オメガの医師などやってるのだと、声を大にして問い詰めたいところである。
医師は卒業年度と医師国家試験の合格年度でキャリアを判断される。いくら年が上でも、先に医学部に入学していても、自分はずっと彼の後輩なのだ。
「久しぶりですね。森生先生」
「和泉先生、ご無沙汰しています。高城先生もいらっしゃるんですね、お久しぶりです」
彼はアルファにも関わらず、ベータで後輩の立場の自分に対しても礼儀を忘れない。それがまた、自分を惨めにさせるなんて、彼は考えもしてないのだろうが。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
新登場の森生颯真は、別の投稿サイトで連載中の「FORBIDDEN」という同じ世界観のオメガバース作品のキャラクターです。さらっと違和感ないような感じで書きましたが、ご不快だったらすみません。
集中できない……。
こういう日は早く上がってしまうに限るのかもしれないが、なんとなくその思い切りもつかず、タブレットの上を視線が滑るままだった。
そこに控えめにノックする音がした。
「はあい」
惰性で応答する。
「失礼します。お世話になります、メルト製薬です」
控えめにドアを開け、挨拶をしたのは、件のオメガのMR新堂朔耶だった。
「あ、新堂くん、こんばんは」
「高城先生、こんばんは。遅くまで、お疲れさまです」
彼は和泉付きのMRだが、アルファ・オメガ科の医師全員に気配りをすることを忘れない。
「論文ですか?」
「いや……。放置してしまった資料をまとめておきたくてね」
「大変ですね。頑張ってくださいね」
奥のデスクにいた、自分の指導医である和泉が動いた気配がした。
「新堂くん、お疲れさま。わざわざ済まないね」
途端に医局が甘い空気に包まれたと思ったのは自分だけだろうか……。裕哉は内心、うはぁと、うんざりした気分になる。パートナーならば、ここでやらずに一緒に帰って思う存分いちゃつけばよいのだ。ここは神聖な職場だと言いたい。
「いいえ、和泉先生。ご連絡があればうかがうのが仕事ですから!」
新堂は相変わらず熱心だ。彼は自分と同じ年と聞いている。
まあデートではないのかと一安心。
自分がここにいて、本当にいいのかと疑問に思ったが、べつに自分のデスクなので遠慮をすることはない。
「高城、お前まだいるの?」
和泉の問いかけに、頷く。早く出て行けといいたいのだろうかと少し皮肉げに思う。
「はい、資料をまとめておきたいので」
すると、和泉は少し考える仕草を見せた。
「まあいい。お前は少し耳を澄ませておけよ」
「はあ」
和泉によく分からないことをアドバイスされ、裕哉は意図を察しきれずに頷くしかなかった。
すると再びノックがした。
「どうぞ」
今度は和泉が応答する。
「失礼します」
入ってきた人物に、裕哉は度肝を抜かれた。
「お、来た来た」
和泉が気軽な挨拶をする。
久しぶりに見る顔だった。ダークブラウンのスーツに品の良い臙脂色のネクタイを締めている美丈夫……。
その相手は、誠心医科大学横浜病院のアルファ・オメガ科の医師、森生颯真だった。
裕哉にとって、森生は元後輩であり現在は先輩であるという複雑な関係だ。
三学年下だった彼は、裕哉が誠心医大の四年生のときに入学してきたが、瞬く間に後輩から同級生を一瞬で通り抜け、先輩になった。この国では、アルファに限定して飛び級が認められており、その制度を最大限に活用し、最短で医学部を、しかも首席で卒業し、二十三歳で、アルファ・オメガ科の専門医となった。
一方、ベータの自分は二十九にもなるのに、未だ専攻医研修課程だ。これが通常であり、森生が駆け抜けすぎたのであるが、一気に追い抜かれたのはそれなりにショックである。
いわば彼は、はっきり言えばベータである自分のコンプレックスを最大に刺激してくる存在ということだ。
本音を言えば、なんでアルファがアルファ・オメガの医師などやってるのだと、声を大にして問い詰めたいところである。
医師は卒業年度と医師国家試験の合格年度でキャリアを判断される。いくら年が上でも、先に医学部に入学していても、自分はずっと彼の後輩なのだ。
「久しぶりですね。森生先生」
「和泉先生、ご無沙汰しています。高城先生もいらっしゃるんですね、お久しぶりです」
彼はアルファにも関わらず、ベータで後輩の立場の自分に対しても礼儀を忘れない。それがまた、自分を惨めにさせるなんて、彼は考えもしてないのだろうが。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
新登場の森生颯真は、別の投稿サイトで連載中の「FORBIDDEN」という同じ世界観のオメガバース作品のキャラクターです。さらっと違和感ないような感じで書きましたが、ご不快だったらすみません。
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