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OKAYU*

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 視界がひらけた。あたりいちめんの雪景色。夕闇にはえる二色のコントラスト。いつしか日は沈み、町も、遠くの山も、あたしらもまっ黒な影になって、夜のとばりの裾と区別がつけられない。

 銀白色の田園風景をわたりながら、かれの話す「後輩の子」が、かれにとってどれだけ親しみのある、信頼のおける、大切な直向ひたむきな、唯一無二のかかわりを結んでるのだろうと想像をふくらましちゃって、あたしはずっと心中穏やかじゃなかった。

 そんなこと知る由もないかれは、「冬休みになったらバイトするんだ」とか「あしたは一限目から体育で憂鬱」とか、いつものように取り留めもない雑談をくり広げている。

 なんて不平等なんだろう。あたしだけ気苦労して、情けなくてみじめで、ばかみたい。

 ひとり占めしたかった、ふたりだけの空間。あたしだけが調和できる――そう信じていた――かれのとなり。無知なまま、その幸福に満たされていたかった。たった一本の傘を大事そうにしているというエピソードだけで揺らいでしまう、あやうい秩序できずかれたものと知らないまま。

「それで、明日の放課後なんだけど――あれ、ごめん……歩くの早かった?」

 気づくと、あたしは傘から出てしまっていた。暗い雪天のかなた、夢の保証をしてくれる星々のかがやきに絆され、威勢をふるつ風雪。そんなものお構いなしに、ふり返るかれの視線があたしをとらえる。

 あたしは受けとめられなかった。そっと下唇を噛み、憮然としてため息を吐く。ちぐはぐなリズム。即さない距離感。

 かれの優しさを煩わしく感じてしまう瞬間が用意されていたなんて。あたしは黙る。もっと困ればいい、そんな性格のわるいことを思う、思うのに、雪に降られつづけるあたしを心配そうにみつめるかれの顔が、心をきゅっと締めつけてくる。


 そのとき、二色だけの世界にあらたな色が加わる。警報ランプの赤色と、遮断棒の黄色。市街地と田園地帯の境界。「バイバイ」の分岐点。

 ねえ、どうしよう。ついに……ああ嫌だ、この踏切を渡りたくない。渡ったら、きっと、耐えられない。あしたの入口を越えたら、ふたりだけの関係性も、少しずつ重ねた時間も、すべて揮発しちゃうような、脆さ、侘しさ、頼りなさ、未熟な「信じてる」の強度に、あたしは負けてしまう。

 ランプが点滅し、警報音が響きわたる。「やっば、急ごう!」

 かれは返事も待たずあたしの手をにぎり、疾風はやてのごとく駿足で駆けていく。そうだ、かれは今秋の体育祭でアンカーを任されていたっけ――

「ちょ、待って……!」

 冷静に思い返してる場合じゃない。最早あたしは滑空飛行するモモンガの尻尾みたいにさらわれ、息も絶えだえに制止のことばをふり絞るが、

「なんで田舎の踏切ってこんなに長いんだろーな! あーくそ、傘が邪魔すぎるっ」

 かれの天井知らずのハイテンションに呆気なく弾き返されて。かれらしく自由にはずんだ白い吐息が、あたしをぐんぐん連れ去っていく。

 なんか、あたしら――こんなのばっかり。ふと、肩越しにふり返ってくるかれと目が合う。思わず苦笑すると、かれは満天の星空みたいな笑顔であたしの名まえを呼ぶから。

 それだけのことで思い知らされてしまう。あたしが、かれに抱いている、この圧倒的な感情の正体。ふたりぼっちの踏切、警報音が鳴りひびき、遮断器が下りるまでの時間でも確かめるのにじゅうぶんすぎるくらい。

 あたしは、かれのこと……

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