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小話①
ー原因は、とある魔術書
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「ただいま~、今日は、素晴らしい掘り出し物に出会ったよ」
上機嫌に扉を開けたユリウスが、街で買ってきたばかりの魔術書を掲げた。
「また変なの買ってきたのか……?」
シグが呆れた声で言うと、ユリウスはすかさず言い返す。
「“変な”ではなく“珍しい”だ。“封印呪文と身体変化の因果論”という、古代語原文つきの貴重品ですよ。きっとルナも興味を――」
「ユリウス、その本……!」
フィンの鋭い声とともに、魔術章の表紙から赤い光が弾けた。
ぱあっ――!
まばゆい光が収まったとき、場に静寂が落ちた。
そして、皆が息を呑む中――
そこに現れたのは、あどけない顔でぶかぶかのワンピースを着た、小さな女の子だった。
「…………」
白銀の髪、赤い瞳。けれど、見上げてくる視線は明らかに幼い。
「……ヴィくとる……?」
呟くようにそう言った小さな彼女――いや、間違いなくルナフィエラだった。
「っ……!?」
ヴィクトルは目を見開いたまま固まる。
そして次の瞬間、ちいさなルナがふらふらと近づき、
両手を伸ばしてぽつりとひと言。
「だっこ……」
「…………っっ!!」
完全に思考が止まった。
「ルナ様……?」
その姿は、いつもの気高さや理性とはまるで別物。
甘えるような目、つたない発音、小さな手――
「……可愛い……」
絞り出すように呟いたその声は、聞く者すべての心に刻まれた。
ヴィクトルは迷いなく屈み、小さなルナを軽々と抱き上げる。
「……はい、どうぞ」
抱きかかえた瞬間、ルナは満足げににこーっと笑い、
彼の胸元にすりすりと顔を埋めた。
「ん~、あったかいの……」
その無垢すぎる行動に、ヴィクトルの表情筋が限界を迎える。
「……ルナ様……反則です……」
背後では、ユリウスが本を開いたまま真っ青になっていた。
「……だ、だっこ……?」
シグが目を瞬かせながら、ヴィクトルの腕の中におさまったルナを見つめる。
そのルナはといえば、ヴィクトルの胸元に顔をうずめ、
「ん~……ヴィくとる、だいすきー……」と、とろけるような声で囁いていた。
「っ……!」
ヴィクトルの肩がびくりと震える。
(この小ささ……この体温……この柔らかさ……可愛いが過ぎる……!)
理性がぐらつくヴィクトルをよそに、後方で動きがあった。
「はいはい!ちょっと待ったああああ!」
勢いよく手を挙げたのはフィンだった。
「今の、明らかに反則!ルナに甘えられて動揺しない人がいると思ってるの!?ねえ!?ねえ!?」
「静かに。ヴィクトルが尊死しかけてる」
ユリウスが魔術書をパタンと閉じながら小声で言った。
「いやいやいや、私情はさておき――!」
フィンはルナの前にしゃがみ込むと、にこっと笑って手を差し出す。
「ルナ、次はフィンのだっこもどうかな? お膝、あったかいよ?」
「ふぃん?」
ルナがぱちぱちと瞬きをして、ヴィクトルの胸元から顔を上げた。
「……ふぃんも、すきー!」
「うわっ、好きって言った!今、“好き”って言った!聞いた!?聞いた!?!?(尊)」
「……っぐ……ルナ様……!」
ヴィクトルは静かに息を吐くと、名残惜しそうにルナをフィンに託す。
「気をつけてください。転ばせたら、命はありませんから」
「わかってるよぉ~。さぁルナ、おいで」
フィンの腕に移ったルナは、満足そうにフィンの肩に顎をちょこんと乗せて「うふふ」と笑う。
その笑顔を見た瞬間、シグが拳を震わせて立ち上がった。
「……おい。なんで俺だけ順番が来ねぇんだよ」
「いや、順番じゃなくて“好感度”じゃない?」
「うるせぇユリウス、後で覚えとけ」
「ルナ、次は僕のターンでいいかな?」
「おまえもか!!」
「ふぃんの、ふわふわ~……」
ルナはぬくもりに身を委ねながら、満ち足りたように目を細める。
騎士たちの“だっこ争奪戦”は、まだ始まったばかりだった。
中庭での抱っこ合戦をひと段落させたあと、
フィンがふと思いついたように提案した。
「ルナ、お外におさんぽ行ってみない? おひさま、ぽかぽかだよ」
「……おそと!」
ぱあっと顔を輝かせたルナが、両手をぶんっと上げる。
「いくのー!ヴィくとる、だっこー!」
「はいはい、どうぞ」
ヴィクトルはいつものようにルナを軽々と抱き上げる。
そして、彼女にそっと自分の外套のフードを被せてやった。
「風が冷たいから、あったかくしておきましょう」
「ん~……ヴィくとる、やさしい~」
「っ……」
隣でフィンが見守りながら小声で呟いた。
「……今日だけでヴィクトルの限界値、超えてない?」
森の小道は朝露が残り、風に揺れる木々がきらきらと光を反射している。
ルナはヴィクトルの腕の中で「わぁ~……!」と感嘆の声を上げながら、
通りすがりの花や葉に次々と手を伸ばしていた。
「ヴィくとるー、あれなにー?」
「鳥です。朝になるとこの森によく来るんですよ」
「じゃあ、あれは?」
「リスですね。……ほら、木の枝の上にもう一匹」
「すごーい!しぐー、あれリスだってー!」
「お、おう……俺に言うなよ、見えてるってば」
シグはルナに名前を呼ばれたことに顔を赤らめながら、
「なんか……癒されるな」と呟いて、フィンに「完全にデレたね」と笑われる始末。
ユリウスは森の道の先で落ち葉を拾い上げ、
「この模様、ルナ好きそうだね」とニコニコしながら見せに来た。
「みて~!おはなもあった!」
ルナが満面の笑みで差し出したのは、なぜかユリウスの袖の飾りボタンだった。
「……これは僕の……いや、ありがとうルナ……」
30分ほど歩くと、開けた場所に出た。
芝の上にルナを下ろしてみると、彼女は小さな足でとてとてと走り出し、
しゃがんで草花を摘んだり、転びそうになってはヴィクトルがすぐに支えたり。
その姿に、全員の表情がやわらかく緩む。
「こういうの……ずっと続けばいいのにな」
ぽつりと呟いたシグに、ユリウスもフィンも頷いた。
「まったくだ」
「……可愛いって、罪ですね」
「んー? なに、はなしてるのー?」
「ルナ様のことを話してました。とても可愛いですと」
「えへへ~!」
胸を張るルナに、ヴィクトルは小さく呟いた。
「……本当に、可愛いですよ」
「ふわぁぁ……」
森の小道をとことこ歩いていたルナが、大きなあくびをひとつ。
「ん~……ちょっと、つかれたの……」
そう呟いたと思ったら、次の瞬間――
ぽてん。
ヴィクトルの足に、頭からふにゃりと倒れ込んできた。
「……ルナ様?」
「……だっこで、ねる……」
「……っ」
その破壊力に一瞬静止するヴィクトルだったが、すぐに優しく彼女を抱き上げ、
胸元に小さくすっぽりと収めるように抱っこする。
「……お疲れ様でした。ゆっくりお休みください、ルナ様」
「ん~……ヴィくとる、あったかい……すきー……」
そのままルナは、すぅ、と寝息を立て始めた。
フィンはそっと毛布を肩にかけ、
シグは「……ちっちゃくなっても、変わらねぇな」とぼそっと呟き、
ユリウスは「この姿を絵画にして保存しておきたい」と真顔で言っていた。
―午後・中庭にて―
「ん~……いいにおいする~」
お昼寝から目を覚ましたルナは、
ふにゃっとした寝起き顔のまま、中庭に敷かれた布の上へ。
「おやつ、たべるー!」
並べられたのは、フィンお手製のふんわりクッキー、ミルクティー、焼き芋、
そしてユリウスが気合いを入れて仕立てた“花びらのサンド”。
「さあ、お姫様。お好きなものからどうぞ」
「えへへ、じゃあ……これ!」
ルナが選んだのは――シグの焼き芋。
「よっしゃあああああ!!」
「うるさいよ、シグ」
「でもルナが先に選んだんだからな!」
次いでクッキー、ミルクティー、そしてユリウスのおしゃれサンドに挑むも――
「……ん~……なんか……ふぃんのがすきー」
「勝った……!」
ユリウスは静かに肩を落とした。
「ルナ、こっちのおいもも、甘いぞ」
「しぐ、すき~」
「お前も勝ったのか……!」
「ヴィくとるは~……あとで、ぎゅーってする~」
「……私は最後にすべてを得るのですね」
中庭に響く、笑い声。
魔法が解けるまでのあいだ、
ちいさな姫様と4人の騎士たちの春は、まだまだ続きそうだった。
翌朝。
淡い光が差し込む寝室の中――
ルナはふと目を開けた。
「……?」
視界が高い。
服がぴったりしている。
小さな手じゃない。自分の声も、いつもの声。
(……戻ってる……?)
そっと布団をめくり、起き上がろうとした瞬間――
どばあっと、脳裏にあの記憶たちが押し寄せた。
「ヴィくとる、だっこ~」
「しぐ、すき~」
「ふぃんの、ふわふわ~」
「ゆりぅすの、ちょっとへんなあじ~」
「~~~~っっ!!」
両手で顔を覆い、そのままベッドに突っ伏す。
「な、な、なんであれ……!? ぜんぶ夢じゃなかったの!?!?」
ごろごろごろごろごろ。
顔を真っ赤にしたルナが、ベッドの上で転がりながら悶えていると――
扉の向こうから、聞き覚えのある声が。
「ルナ、起きてる?朝食の準備できてるよ」
ユリウスだ。
次いで、
「ルナ、お散歩いく?」
フィン。
「焼き芋、今日もあるぞ~」
シグ。
そして――
「……ルナ様。おはようございます」
ヴィクトルの、あの優しくて静かな声。
(だ、だめ、顔合わせられない……!絶対ムリ!!)
ばたん、と再び布団をかぶる。
「ルナ様?」
「いません!ルナはいません!!朝から存在しませんから!!」
外の3人「……あ、これは重症だな」
ヴィクトル「……可愛かった、と伝えたら余計に拗れそうですね」
そう呟きながら、
彼らは今日も、扉の向こうで変わらぬ優しさを持ってルナフィエラを見守っていた。
上機嫌に扉を開けたユリウスが、街で買ってきたばかりの魔術書を掲げた。
「また変なの買ってきたのか……?」
シグが呆れた声で言うと、ユリウスはすかさず言い返す。
「“変な”ではなく“珍しい”だ。“封印呪文と身体変化の因果論”という、古代語原文つきの貴重品ですよ。きっとルナも興味を――」
「ユリウス、その本……!」
フィンの鋭い声とともに、魔術章の表紙から赤い光が弾けた。
ぱあっ――!
まばゆい光が収まったとき、場に静寂が落ちた。
そして、皆が息を呑む中――
そこに現れたのは、あどけない顔でぶかぶかのワンピースを着た、小さな女の子だった。
「…………」
白銀の髪、赤い瞳。けれど、見上げてくる視線は明らかに幼い。
「……ヴィくとる……?」
呟くようにそう言った小さな彼女――いや、間違いなくルナフィエラだった。
「っ……!?」
ヴィクトルは目を見開いたまま固まる。
そして次の瞬間、ちいさなルナがふらふらと近づき、
両手を伸ばしてぽつりとひと言。
「だっこ……」
「…………っっ!!」
完全に思考が止まった。
「ルナ様……?」
その姿は、いつもの気高さや理性とはまるで別物。
甘えるような目、つたない発音、小さな手――
「……可愛い……」
絞り出すように呟いたその声は、聞く者すべての心に刻まれた。
ヴィクトルは迷いなく屈み、小さなルナを軽々と抱き上げる。
「……はい、どうぞ」
抱きかかえた瞬間、ルナは満足げににこーっと笑い、
彼の胸元にすりすりと顔を埋めた。
「ん~、あったかいの……」
その無垢すぎる行動に、ヴィクトルの表情筋が限界を迎える。
「……ルナ様……反則です……」
背後では、ユリウスが本を開いたまま真っ青になっていた。
「……だ、だっこ……?」
シグが目を瞬かせながら、ヴィクトルの腕の中におさまったルナを見つめる。
そのルナはといえば、ヴィクトルの胸元に顔をうずめ、
「ん~……ヴィくとる、だいすきー……」と、とろけるような声で囁いていた。
「っ……!」
ヴィクトルの肩がびくりと震える。
(この小ささ……この体温……この柔らかさ……可愛いが過ぎる……!)
理性がぐらつくヴィクトルをよそに、後方で動きがあった。
「はいはい!ちょっと待ったああああ!」
勢いよく手を挙げたのはフィンだった。
「今の、明らかに反則!ルナに甘えられて動揺しない人がいると思ってるの!?ねえ!?ねえ!?」
「静かに。ヴィクトルが尊死しかけてる」
ユリウスが魔術書をパタンと閉じながら小声で言った。
「いやいやいや、私情はさておき――!」
フィンはルナの前にしゃがみ込むと、にこっと笑って手を差し出す。
「ルナ、次はフィンのだっこもどうかな? お膝、あったかいよ?」
「ふぃん?」
ルナがぱちぱちと瞬きをして、ヴィクトルの胸元から顔を上げた。
「……ふぃんも、すきー!」
「うわっ、好きって言った!今、“好き”って言った!聞いた!?聞いた!?!?(尊)」
「……っぐ……ルナ様……!」
ヴィクトルは静かに息を吐くと、名残惜しそうにルナをフィンに託す。
「気をつけてください。転ばせたら、命はありませんから」
「わかってるよぉ~。さぁルナ、おいで」
フィンの腕に移ったルナは、満足そうにフィンの肩に顎をちょこんと乗せて「うふふ」と笑う。
その笑顔を見た瞬間、シグが拳を震わせて立ち上がった。
「……おい。なんで俺だけ順番が来ねぇんだよ」
「いや、順番じゃなくて“好感度”じゃない?」
「うるせぇユリウス、後で覚えとけ」
「ルナ、次は僕のターンでいいかな?」
「おまえもか!!」
「ふぃんの、ふわふわ~……」
ルナはぬくもりに身を委ねながら、満ち足りたように目を細める。
騎士たちの“だっこ争奪戦”は、まだ始まったばかりだった。
中庭での抱っこ合戦をひと段落させたあと、
フィンがふと思いついたように提案した。
「ルナ、お外におさんぽ行ってみない? おひさま、ぽかぽかだよ」
「……おそと!」
ぱあっと顔を輝かせたルナが、両手をぶんっと上げる。
「いくのー!ヴィくとる、だっこー!」
「はいはい、どうぞ」
ヴィクトルはいつものようにルナを軽々と抱き上げる。
そして、彼女にそっと自分の外套のフードを被せてやった。
「風が冷たいから、あったかくしておきましょう」
「ん~……ヴィくとる、やさしい~」
「っ……」
隣でフィンが見守りながら小声で呟いた。
「……今日だけでヴィクトルの限界値、超えてない?」
森の小道は朝露が残り、風に揺れる木々がきらきらと光を反射している。
ルナはヴィクトルの腕の中で「わぁ~……!」と感嘆の声を上げながら、
通りすがりの花や葉に次々と手を伸ばしていた。
「ヴィくとるー、あれなにー?」
「鳥です。朝になるとこの森によく来るんですよ」
「じゃあ、あれは?」
「リスですね。……ほら、木の枝の上にもう一匹」
「すごーい!しぐー、あれリスだってー!」
「お、おう……俺に言うなよ、見えてるってば」
シグはルナに名前を呼ばれたことに顔を赤らめながら、
「なんか……癒されるな」と呟いて、フィンに「完全にデレたね」と笑われる始末。
ユリウスは森の道の先で落ち葉を拾い上げ、
「この模様、ルナ好きそうだね」とニコニコしながら見せに来た。
「みて~!おはなもあった!」
ルナが満面の笑みで差し出したのは、なぜかユリウスの袖の飾りボタンだった。
「……これは僕の……いや、ありがとうルナ……」
30分ほど歩くと、開けた場所に出た。
芝の上にルナを下ろしてみると、彼女は小さな足でとてとてと走り出し、
しゃがんで草花を摘んだり、転びそうになってはヴィクトルがすぐに支えたり。
その姿に、全員の表情がやわらかく緩む。
「こういうの……ずっと続けばいいのにな」
ぽつりと呟いたシグに、ユリウスもフィンも頷いた。
「まったくだ」
「……可愛いって、罪ですね」
「んー? なに、はなしてるのー?」
「ルナ様のことを話してました。とても可愛いですと」
「えへへ~!」
胸を張るルナに、ヴィクトルは小さく呟いた。
「……本当に、可愛いですよ」
「ふわぁぁ……」
森の小道をとことこ歩いていたルナが、大きなあくびをひとつ。
「ん~……ちょっと、つかれたの……」
そう呟いたと思ったら、次の瞬間――
ぽてん。
ヴィクトルの足に、頭からふにゃりと倒れ込んできた。
「……ルナ様?」
「……だっこで、ねる……」
「……っ」
その破壊力に一瞬静止するヴィクトルだったが、すぐに優しく彼女を抱き上げ、
胸元に小さくすっぽりと収めるように抱っこする。
「……お疲れ様でした。ゆっくりお休みください、ルナ様」
「ん~……ヴィくとる、あったかい……すきー……」
そのままルナは、すぅ、と寝息を立て始めた。
フィンはそっと毛布を肩にかけ、
シグは「……ちっちゃくなっても、変わらねぇな」とぼそっと呟き、
ユリウスは「この姿を絵画にして保存しておきたい」と真顔で言っていた。
―午後・中庭にて―
「ん~……いいにおいする~」
お昼寝から目を覚ましたルナは、
ふにゃっとした寝起き顔のまま、中庭に敷かれた布の上へ。
「おやつ、たべるー!」
並べられたのは、フィンお手製のふんわりクッキー、ミルクティー、焼き芋、
そしてユリウスが気合いを入れて仕立てた“花びらのサンド”。
「さあ、お姫様。お好きなものからどうぞ」
「えへへ、じゃあ……これ!」
ルナが選んだのは――シグの焼き芋。
「よっしゃあああああ!!」
「うるさいよ、シグ」
「でもルナが先に選んだんだからな!」
次いでクッキー、ミルクティー、そしてユリウスのおしゃれサンドに挑むも――
「……ん~……なんか……ふぃんのがすきー」
「勝った……!」
ユリウスは静かに肩を落とした。
「ルナ、こっちのおいもも、甘いぞ」
「しぐ、すき~」
「お前も勝ったのか……!」
「ヴィくとるは~……あとで、ぎゅーってする~」
「……私は最後にすべてを得るのですね」
中庭に響く、笑い声。
魔法が解けるまでのあいだ、
ちいさな姫様と4人の騎士たちの春は、まだまだ続きそうだった。
翌朝。
淡い光が差し込む寝室の中――
ルナはふと目を開けた。
「……?」
視界が高い。
服がぴったりしている。
小さな手じゃない。自分の声も、いつもの声。
(……戻ってる……?)
そっと布団をめくり、起き上がろうとした瞬間――
どばあっと、脳裏にあの記憶たちが押し寄せた。
「ヴィくとる、だっこ~」
「しぐ、すき~」
「ふぃんの、ふわふわ~」
「ゆりぅすの、ちょっとへんなあじ~」
「~~~~っっ!!」
両手で顔を覆い、そのままベッドに突っ伏す。
「な、な、なんであれ……!? ぜんぶ夢じゃなかったの!?!?」
ごろごろごろごろごろ。
顔を真っ赤にしたルナが、ベッドの上で転がりながら悶えていると――
扉の向こうから、聞き覚えのある声が。
「ルナ、起きてる?朝食の準備できてるよ」
ユリウスだ。
次いで、
「ルナ、お散歩いく?」
フィン。
「焼き芋、今日もあるぞ~」
シグ。
そして――
「……ルナ様。おはようございます」
ヴィクトルの、あの優しくて静かな声。
(だ、だめ、顔合わせられない……!絶対ムリ!!)
ばたん、と再び布団をかぶる。
「ルナ様?」
「いません!ルナはいません!!朝から存在しませんから!!」
外の3人「……あ、これは重症だな」
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