【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな

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番外編・酔いにほどけて、愛に包まれる ①

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週末を控えた金曜の夜。
一週間の疲れがにじむ中、都内のおしゃれなイタリアンレストランの半個室には、仕事帰りの女性4人が集まっていた。

「やっと揃った~! 澪ちゃん、お疲れ!」

先に到着していた西川ひなは、スーツのジャケットを脱ぎ、軽く腕まくりしながらにこにこと澪を出迎える。

「ほんと、全員働き始めるとこういう機会なかなか作れないよね」

隣でメニューを広げていた藤井沙耶が、笑みを浮かべながら頷く。
落ち着いたベージュのワンピースに小さなピアス。
どこか余裕を感じさせる雰囲気は、昔から変わらない。

「さーて、仕事終わりのビールを楽しみに今日一日乗り切った私に乾杯させて。マジで疲れた」

そう言いながら大きなグラスを掲げたのは、佐伯梨花。
グレーのパンツスーツをラフに着こなし、バッサリ切ったショートボブがよく似合っている。


乾杯後、澪は軽く息を吐いて、バッグから小さな箱を取り出す。

「今日は、来てくれてありがとう。実はちょっと……報告があって」

3人の視線が一斉に澪に向く。

「えっ、なに? 急に真面目な顔」

「え、まさか転職? ……いや、引っ越しとか?」

「それとも――男絡み? え、まさか、けっこん……とか?」

澪は小さく笑って、箱を開け、テーブルに3枚の封筒を並べた。

「……結婚しました。10月に結婚式するから、これ、招待状」

「うわっっマジで!? 本当に!? 」

「ちょっと待って、指輪してるじゃん! 全然気づかなかった!」

「もう~! 先に言ってよー! そしたらお祝いする気まんまんで来たのに!」

歓声と笑い声が混ざり合い、仕事帰りの疲れもどこかへ吹き飛んでいくようだった。

「お相手、どんな人なの? 優しい? かっこいい? 何歳?」

「出会いは? 職場関係?」

「写真ないの?」

ひとつ話すたびに、質問が飛び交い、話題が次から次へと展開していく。

澪は照れながらも、少しずつ言葉を重ねていく。

(やっぱり、この空気……好きだな)

ひな、沙耶、梨花――
大学の頃と変わらない3人との、温かくて賑やかな金曜の夜が、始まった。


「……で、結局さ、旦那さんどんな人なのよ~! 澪が惚れ込むって相当じゃない?」

梨花がグラス片手に乗り出してくる。
その隣で沙耶が、にこにこと少し含みのある笑みを浮かべた。

「聞きたいのはそこよね。昔から慎重派の澪が、結婚を決めた相手。絶対、ただものじゃない」

「う、うーん……そうかなぁ」

澪が苦笑いを浮かべながらも頬を染めると、ひなが身を乗り出してくる。

「もしかして、めちゃくちゃ尽くされているとか?」

「……どっちかというと、甘やかされてるかも」

その言葉に、3人の目が一斉に見開かれた。

「えっ、澪が!? 甘やかされてるの!? 想像つかない……」

「うそ……あの完璧主義で頑張り屋の澪が、甘やかされるって……どんな王子様よ」

「いやでもわかるかも。澪ってさ、意外と放っておけないタイプだし。誰かがそばで支えてあげたくなる感じ、あるよ」

「そ、そんなことないってば……!」

澪は慌てて首を振るけれど、顔の赤みは増すばかり。

「でもさ、さっき“甘やかされてるかも”って自分で言ったよね?」

「……う、うん」

「やば……めっちゃ愛されてんじゃん……!」

ひなの言葉に、梨花と沙耶がそろって深くうなずく。

「これはもう、溺愛ってやつだな」

「うちの会社にもほしい、そういう旦那……」

「ちょっと、貸してよその人!」

「ダメですっ!」

思わず口をついて出た澪の即答に、3人が一瞬の間を置いて、爆笑した。

「ほらー、やっぱ愛されてんじゃん!」

「わかりやす!」

「めっちゃ顔ゆるんでるし! ねえ、今の“ダメです”めっちゃ可愛かった~」

「……やめて、ほんとに」

澪は手で頬を押さえて、笑いながら首を振った。
けれどその表情は、どこか照れていて、でも幸せに満ちていた。

「……でも、ほんとにね。彼がいるから、今の私があるって思う。だから、ちゃんと紹介したいの。式でみんなに会ってもらえるの、楽しみにしてる」

「……うん」

「絶対泣く気しかしない」

「幸せオーラ、すでに眩しいよ澪……」

まるで大学時代に戻ったような、けれど確実に少し大人になった空気が、温かく満ちていた。
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