転生したら魅了スキルが強すぎて人生ハードモードだった件

蟒蛇シロウ

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第1章「幼少期~小学生の日々」

第19話「転生者の組織Ouroboros」

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 ピンポーンと再びチャイムが鳴り、3人に緊張が走る。
「また……?」
 母さんはそう呟くと警察を呼んでもすぐに来られない以上、自分でどうにかするしかないという結論に至ったのか、防犯用に買ってあった擦股を手に取り、ゆっくりと扉に近づく。
「……どちら様ですか?」
 母さんが恐る恐るそう言うと、扉の外から聞きなれた声がした。

「急にごめんね、舞歌ちゃん。新山よ! 近くに来たから、雄飛くんと一緒に食べて欲しくてケーキを買って来たわ」
 母さんは覗き穴を確認すると、張り詰めていた気が抜けたように息を吐いて玄関の扉を開けた。
「舞歌ちゃん、これ……って、えっと……大丈夫? 何かあった?」
 擦股を手にしている母さんを見て、新山さんは少し驚いたような表情を浮かべる。
「あぁ、ごめんなさい! あ、どうぞ、上がってください! 実は、ちょっとさっきね……」

 母さんは新山さんに、先ほどの来訪者のことを説明する。新山さんはそれを聞くと、母さんの頭を撫でて抱きしめる。
「そう……舞歌ちゃん。怖かったでしょうによく頑張ったわね。……もう大丈夫よ」
 新山さんと母さんはやっぱり、本当の親子のようだ。そして彼女は、俺と華怜の方にも近寄って来て、頭を撫でてくれた。
「雄飛くん達も怖かったでしょう? しばらくは車で送り迎えしてもらった方がいいかもしれないわね」
 心強い大人である新山さんが来てくれたことに俺は安心する。華怜の方を見ると、彼女は目を輝かせて新山さんを見上げていた。

「さて、少し多めに買ってきてよかったわ。あなたも一緒にケーキを食べましょ? ……えっと、おばちゃんにお名前教えてくれる?」
 新山さんは華怜にそう聞いて、華怜は嬉しそうに口を開く。
「は、はい! わ、私……門宮華怜と言います」
 新山さんはそれを聞いて優しく微笑んだ。
「華怜ちゃんね。いい名前だわ!」
  華怜は、なぜか瞳を潤ませながら満面の笑みを浮かべるのだった。
「あ! 私のクッキーも一緒に食べて! さつきさんにも味見して欲しいんだぁ~♪」
 新山さんが来たことで母さんはいつもの調子に戻り、笑顔でおやつタイムの準備を始めるのだった。

 4人でケーキやクッキーを食べ、紅茶やコーヒーを飲みながら、現在の世界情勢について話す。新山さんや母さんは、テロ行為が多発している今の情勢を憂いているようだ。
 俺が前世で生きていた50年間も治安の悪い時期があったけど、現在はこれまでの中でも最悪と言っていいかもしれない。日本各地でテロ行為やら危険な薬物やらが蔓延し、地方によって治安の良し悪しが明確になってきている。


 おやつタイムを終えて新山さんが帰っていったあと、俺と華怜は華怜の母である茉純さんが迎えに来るまでの間、俺の部屋で遊ぶということにして、先ほどの件について話し合うことにする。
「華怜、さっきの連中って……」
 俺がそう聞くと、華怜はうなずく。
「……アイツらは恐らく、"Ouroborosウロボロス"って組織の構成員よ」
 彼女が挙げた名前には聞き覚えがあった。
「Ouroboros? それって、アジアを拠点にしている過激派テロ組織のこと?」
 俺がそう聞くと、華怜は真剣な表情で続ける。
「えぇ……世界中でテロに加担しては世間を騒がせている奴らよ。表向きにはただそれだけのことなんだけど、私たちにとってはもっと重要なことがあるわ。……入間が調べた限りでは、構成員は全て私たちと同じ転生者よ」
「えぇ!?」
 俺は華怜から聞いた事実に驚愕する。てことは、さっきの痩せた女性も転生者? だから、華怜の能力があまり通用しなかったのか? だけどいったいどうして俺に接触してきたんだ?

「雄飛があの女に襲われる少し前にね、私もアイツらの1人に声を掛けられたのよ。さっきあの女と会話している男の声があったでしょ? そいつが言ってたのよ。……"間もなく選ばれし転生者による、新時代が到来する"……ってね。アイツらの目的は、まだはっきりとは分からないけど、ろくな連中じゃないことは間違いないわ」
「新時代……か」
 俺はそう呟くと、華怜は頷く。
「……恐らく、Ouroborosは私たちを仲間に引き入れようとしているんだと思う。だけどその話をする前に、あの女が雄飛を見て暴走したから撤退したんでしょうね。きっと近いうちに、また接触してくるはずよ」
 仲間に引き入れる? 新時代っていったいなんなんだ? 調べようにもまだ小学生の俺たちでは、行動範囲も選択できる手段も限られてくる。
 俺はそんなことを考えながら、先ほどの会話で気になったことを尋ねる。

「……そうだ、華怜。入間さんは、アイツらのことを調査してるって言ってたけど、それはずっと前から? ……それとも最近?」
 俺がそう聞くと、華怜は顎に手を当てて考える。
「そうね……アイツはずっと昔からOuroborosについて調べていたわ。なんせ転生者しかいないから、能力の宝庫だしね。一時期は、取引もしていたみたいよ」
「取引?」
 俺が聞くと、華怜はうなずく。
「えぇ、能力の情報を受け取る代わりに、彼らの実験に使う薬なんかを提供していたらしいわ」
 彼女の言葉に、俺は目を見開く。

 その一瞬の動揺を見て、華怜が小さくため息をついて続ける。
「……言ったでしょ? 入間はね、善悪で物事を判断しない。アイツは自分の研究にとって利になるかどうかで、物事を判断するの」
 やはり入間さんは、以前華怜が言っていたようにマッドサイエンティストの類なのだろう。それでも、俺の能力のコントロールに協力してくれているのもまた事実だ。
「……ま、それもだいぶ前の話みたい。今はもう取引はしてないでしょうね」
「そっか……」
 俺はその一言を聞いて安心する。
 少なくとも現在は、あの危険な女が所属する組織と入間さんが味方ではないのだから。だったら、今のうちになんとかして入間さんの協力を取り付けたいところだ。
 俺は華怜にそのことを伝えた。

「そうねぇ……Ouroborosを敵に回すことがアイツにとって何かメリットがあれば、頼まなくても進んで協力してくれるんだろうけど……」
 華怜は髪をいじりながら、思案しているようだ。たしかに自分の研究が最優先の入間さんにとって、余計な揉め事は面倒なだけだろう。それでも彼女にとって何かメリットは無いだろうか?
「……そうだ、華怜。入間さんの研究って、確か……」
 俺がそう言いかけた時、家のチャイムが鳴った。どうやら茉純さんが、華怜を迎えに来たようだ。

「このことは、明日学校でまた話し合いましょ? とにかく今日みたいなことが無いとも限らないから、戸締りはしっかりして、明日からしばらくは車で送り迎えしてもらいなさいよ? ……いいわね?」
「うん、分かった。ありがとう華怜」
 華怜は茉純さんに手を引かれて、帰って行った。


 華怜が出て行った玄関を見て、あらためて今日のことを思い出す。
 異様な女性だった。俺の魅了の能力とは無関係に、俺に執着しているようだった。正直、これまで感じたことのない恐ろしさだった。
 また来るのだろうか? 彼女はどうして俺に執着するのだろうか……? 華怜がいない時に襲われたら、俺は対処できるだろうか? 不安や恐怖が頭を支配していく。心臓の鼓動が早くなる。
 怖い……あの女が……。

 その時、柔らかく優しい温もりが俺の体を包む。
「雄飛ちゃん、大丈夫。大丈夫だから。ママが絶対に守るからね」
 母さんが、俺を後ろから優しく抱きしめてくれていた。その声と温もりに、俺の心は落ち着きを取り戻していく。
 ……ああ、そうだ。弱気になってる場合じゃない。強くならなくちゃ。母さんを守るためにも、華怜だけに負担を掛けないためにも……。
「……ありがとう、ママ」
 俺はそう言うと、母さんに抱きしめられたまま心に誓うのだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 とある洋館にて。
「お疲れちゃ~ん♪ 例の子達には会えたか~い?」
 サングラスをかけた金髪の若い男性が、2人の男女に声を掛ける。その2人は、雄飛を襲った女と華怜と接触した男性であった。
「ええ……。彼女が男の子の方を見て、暴走してしまったため、あまりお話しできませんでしたが……。少なくとも少女の方は、我々が何者であるか悟ったことでしょうな」
 サングラスの男の問いに、太めの中年男性が落ち着いた口調で答える。

「ヌフフ♪ それじゃあひとまずは任務達成ってわけだ。さてさて、その子らが素直に仲間になってくれればいいがねぇ」
 サングラスの男は、手にした小さいチョコレートを1つ口に入れて、そう話す。
「大丈夫。雄飛君ハ絶対ニ、私ノモノニスルンダカラ……。ハァ、早クアノ子ヲ味ワイタイワネ」
 ガリガリに痩せた女性はそう言って舌舐めずりをする。その目は、黒く濁っている。
「……うへぇ……女の情念ってヤツぁ、いつ見ても怖いねぇ」
 女性の様子を見て、サングラスの男は震えるような仕草と共に呟く。
「我々はボスへの報告がありますゆえ、これにて失礼させていただきますぞ、はく殿」
 太めの中年男性は痩せた女性と共に、彼らのボスがいるであろう部屋へと向かっていく。

「抑制と解放を使いこなす少女と、無限の精力と神の子種を持つ少年……ね。……さて、どう転ぶかな?」
 白と呼ばれたサングラスの男はそう呟き、再びチョコレートを口に放り込む。それを羨ましそうに見つめる人物がいた。
「ねぇねぇ始友しゆうち~ん。おやつちょっと分けてくれな~い? あたしのおやつ無くなっちゃった!」
 そう言って、彼にチョコレートをねだるのは、10歳前後くらいの肥満体の少女だった。彼女は片手に持ったジュースをストローで飲みながら、サングラスの男……白始友はくしゆうのチョコレートを指差す。

「もう食っちまったのか!? チッ、しゃあねぇなぁ。ホラ、大事に食えよ?」
 白は面倒くさそうに言いながら、チョコレートのケースを1つ取り出して少女に渡すと、少女はすぐに開封して嬉しそうに口に運ぶ。
「お~いひ~♪ ありがと~! でさでさ、始友ち~ん。その子達ってあたしと年齢近いんだよね? お友達になれるかなぁ? 中学校は同じ学校だったらいいなぁ~♪」
 少女はチョコレートを頬張りながら、そう話す。

 白は肩をすくめながら答える。
「さぁな……ま、もし一緒の学校になったら友達になってやれよ、遊娜ゆな? その方が簡単に監視できるだろうからな」
 白がそう言うと、遊娜と呼ばれた少女は頬に手を当て、満足そうにうなずく。
「うん! 一緒にお菓子パーティー開きたいんだぁ☆」
 そして、再びチョコレートを頬張るのだった。
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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