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第1章「冒険の始まり」
第12話「別れは突然に ~闇に煌めく陽星~」
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ファブリスは船員に手配書を返すと、手をパンッと叩いた。
「さて! 気を取り直して次の港へ向かおうか!」
彼は仲間たちに呼びかけ、水平線の向こうに見えるモルディオの首都シェコの港町を指差した。
と、彼が指さした海の向こう側から黒い船が数隻近付いて来るのが見えた。
「また帝国の船……かな?」
若矢が目を凝らすようにして近付いてくる船を見つめる。
「いや……あの旗は帝国じゃねぇな。あれは……ドクロ……てことは海賊だ」
ファブリスは船首に立つ黒い下地に白で大きく描かれたドクロの旗を見て呟く。
「海賊……!?」
先頭の船には巨大なドクロの描かれた旗が海風に揺れていた。
「この海域は比較的穏やかで、海賊が出るなんて聞いたことないけどな……」
ファブリスはそう呟きながら船を睨みつける。
彼が何やら目で合図をすると、船長はうなずき船の進路を少し変更して船団を避けようとする。
しかし、海賊と思われる船団は若矢たちの乗る船の進行方向を塞ぐように航行してきた。そしてすれ違う距離になると、大勢の海賊たちがこちらをニヤニヤと眺めているのが見えた。
海賊たちは筋肉隆々な者ばかりであり、中には獣のような姿をしている者もいた。
「おいおい、いい装備持ってんじゃねぇか!? 他にも金目のモンをこっちによこしな!」
海賊の船長らしき男が叫ぶと、一斉に彼らは笑いだした。
「一体何のつもりだ? お前たちは何者だ」
ファブリスが落ち着き払った声で冷静に尋ねると、海賊たちは笑いながら答えた。
「見ての通り海賊だぜ? 俺たちは相手を選ばねぇんだ。運が悪かったなぁ?」
「お頭~! 若い女が3人もいますぜぇ!」
と1人の海賊が言うと、その声を聞いた他の海賊たちが騒ぎ出した。
「ひょ~っ!! 若い女だァ! ひゃっほう!」
「お頭~! そいつらを俺たちの船に乗せましょうぜ!」
「おい嬢ちゃんたち、俺らと海の上で楽しいことしようや
など、彼らは下品な笑い声を上げながら口々に言い合っていた。
「な、なんなのよこいつら! さっきの男といい、この海にはこんな奴しかいないの!?」
エレーナが嫌悪感丸出しの表情で海賊たちを見る。他の2人も同じような反応をみせた。だが、海賊たちは一切怯むことなく、彼女たちに下卑た視線を送り続ける。
「お頭!こいつらなかなかの上玉ですぜぇ!」
と海賊の一人が叫ぶと、他の海賊たちも再び一斉に騒ぎ出す。
「おい、そこのリーダーっぽいヤツ。金目のモンと女を差し出せば、他は見逃してやってもいいぜ? 俺らに見つかった不運を呪うんだな!」
「なんだとっ!?」
ファブリスは怒りの声を上げるが、海賊たちは意に介さない様子で笑い続けていた。
そんな彼らに向かって若矢は声を張り上げた。
「お前ら! いきなりなんなんだ!? 目的はなんだ?」
すると海賊の頭はニヤリとした表情で答えた。
「目的だぁ? そんなの決まってんだろぉ? 金と女だよ。海での生活でいろいろと溜まっているんでなぁ。全員で犯すんだよ! だが犯すだけじゃねえ、奴隷として売り飛ばしゃあ大儲けできんだろ?」
その言葉を聞いた若矢の怒りは頂点に達する。そしてその感情に任せて声を上げる。
「ふざけるな!そんなこと許されるわけないだろっ!!」
しかし海賊の頭は、全く動じることなく笑い飛ばした。
「許される許されねぇなんざ関係ねぇのさ! 力のある者がそうでない者を自由に扱う! それが世の中の摂理だぜ、ガキ!」
海賊の頭の言葉を受けて、他の海賊たちもゲラゲラと下品に笑い出した。
「おい、まずはこいつからやっちまおうぜ!」
と海賊の1人がエレーナを指差すと、他の海賊たちは興奮した様子で彼女に襲いかかろうとする。
「なっ! それ以上近づいたらあたしの魔法であんたらを丸焼きにするわよっ!」
エレーナが叫ぶと海賊たちは怯んだ様子を見せたが、それは一瞬のことで、すぐにまた下卑た笑いを浮かべる。
「へへっ! 威勢のいい嬢ちゃんだぜ! 早くとっ捕まえて、たっぷりと可愛がってやらねぇとなぁ」
海賊たちは次々と武器を構えて、こちらの船に飛び移ろうと準備をしている。
すると若矢が彼女の前に立ち、庇うようにして立った。
「さっきのアイツといいお前らといい……。こんな美しい世界にもお前らみたいなクズがいるんだなっ! 絶対に許さない!」
怒りの感情を露わにして叫ぶ若矢。
「へっ! なんだァ? その細っちい体で俺たちを止めるつもりかい?」
「お前みたいなガキは、女の前でカッコつけてぇ年頃なんだよな。その気持ち、わかるぜぇ」
頭と他の海賊たちは一斉に笑い出したが、若矢は動じる様子もない。
「エレーナ、あいつらの好きにはさせないから安心して!」
「若矢……ありがと」
とエレーナは少し顔を赤くしながら感謝の言葉を口にする。
「はははっ! カッコつけてんじゃねぇぞガキが! 行くぜ、野郎ども!!」
海賊の頭の掛け声と共に戦いの火蓋が切って落とされようとした、まさにその時だった。
一瞬にして辺り一帯の空が闇に覆われる。
先ほどまで輝いていた太陽が雲に隠れ、夜明けだというのにまるで夜中に逆戻りしたかのような暗さが辺りを包む。
「な、なんだこれはっ!?」
と、海賊たちは動揺の声を上げた。それは、若矢やファブリスたちも同じだった。
「まさか……魔王の手下か!?」
ファブリスは警戒しながら空を見つめる。だが、彼の予想に反して、そこには人影のようなものはなかった。
その代わりに炎のように燃える星々が無数に輝いている。そしてその星々は、次第に大きくなっているように感じられた。
「これは……まさか隕石!? メテオの魔法——!?」
エレーナが空を見上げて叫んだ。そしてさらに驚愕の表情のまま、言葉を続ける。
「で、でもこれだけの大きさと量……。各地の魔法ギルドの長や魔法学校の講師陣……いいえ、それどころかFive Jewelsにだってこんなの使える人なんていないわ……!」
エレーナの言葉を聞くと、若矢は甲板に立つと臨戦態勢を取る。
「若矢……?」
エレーナが心配そうに声をかけた。しかし若矢は決意を秘めた表情で答えた。
「落ちる前に全部粉々にすれば問題ないよな」と。
「ま、まさかあんた1人で行くつもり? あ、あの隕石の量を考えたら……いくらあんたでも……!」
とエレーナが言うが、若矢は微笑むだけで答えない。
「止めなさい! ワカヤくん、死んでしまうわ! 早く逃げないと!!」
「そうですよっ! 船長さん、早くここを離れましょう!!」
カルロッテとリズもエレーナに同意するが、彼は全く動じることもなく、
「大丈夫ですよ! 俺はあの魔王に圧勝したんですから。みんなは船が沈まないように注意してください!」
と言い残して船首の方へ向かうのだった。
「ダメだ、ここは急いで逃げるんだ、ワカヤ!」
ファブリスが手を伸ばすも、すでに若矢は上空へと跳び上がっていた。
若矢は仲間たちの心配の声すら声援に変え、さらに体が軽くなったように感じた。これなら海面に落ちる前にあの隕石を全て砕けそうだ。
(ラムル、エルさん……俺を転生させてくれてありがとう……。大切な人たちを俺は、今救って見せる!!)
そう心の中で叫び、ラムルの方を見ると絶望的な表情をしていた。と、同時にラムルが叫ぶ。
「だ、ダメだ! 若矢くん、今すぐこっちに来るんだ!! ここは船の上だし、何より相手が悪すぎる! 僕はまだ君に死んでほしくないんだよ!」
必死の形相で叫ぶラムル。
彼の反応が意外だった若矢だが、すぐに首を振る。
「大丈夫だよ。あんな石っころ、全部砕いてから戻ってくるから」
若矢はそう言うと船首を蹴って高く跳び上がる。下の方から自分の名を叫ぶ仲間たちの声が聞こえるが、それもだんだんと小さくなっていく。
(よし、今ならなんでもできそうな気がする……。まずは一気に10個くらい粉々にするか)
若矢は迫りくる隕石群に向かって両手をかざすと、静かに力を込めた。そして目にも留まらぬ速さで拳を何度も突き出し、体を回転させながら目の前に迫った隕石を20個ほどまとめて粉々にした。
「よし! 次は……ん?」
若矢は余裕を持って次の隕石を砕こうとしたが、上空に今破壊した何倍もの数の隕石が迫っているのを目にする。
「な、なんだこれ!? 一体どれだけ落ちてくるんだよ……!」
若矢は焦りの表情を浮かべるが、すぐに呼吸を整えて拳に力を込めると、今度は向かってくる隕石を1つずつ壊していく。
「くそっ——! 数が多すぎる——!!」
焦りから出る愚痴をこぼしながらも、次々と隕石を破壊していく若矢。
しかし、その数は一向に減る気配を見せない。それどころか徐々に増えていっているようにすら感じられた。
(くっ……このままじゃ間に合わない……!)
その時だった。
先ほどまで雲間から輝いていたひと際大きな光……若矢がこの異常な黒雲によって閉ざされながらも少しだけ顔を覗かせている、太陽だと思っていたその光が凄まじいスピードで動き始めた。そして、それは空中を目にも留まらぬスピードで移動すると、急に若矢に向けて突っ込んできた。
「なっ、なんなんだ!?」
その光……否、光だと思っていたそれは圧倒的な光量を放つ生物だった。若矢は全力で拳を振り上げて迎え撃とうとするが、凄まじい勢いで彼に向かってくる。
「くっ、速すぎる! こうなったら本気でいかないと……!!」
若矢が意識を集中させると、あの鋭い目の男と戦った時のように彼の拳は緑のオーラを纏った。
突撃してくる光に対し、拳を突き出し迎え撃つ。
しかし、彼の拳のオーラを容易く突き破ると、その太陽のような光の生物は凄まじい勢いを保ったまま若矢に衝突するのだった。
あまりの衝撃に叫び声を上げる間もなかったが、彼の瞳には炎上する船、そして絶望に目を見開いてこちらを見ているファブリス、エレーナ、カルロッテ、リズ、ラムルの姿が映るのだった。
しかし、そこで彼の意識は途切れてしまった。
「若矢くん! 僕は君を失いたくないんだ!!」
薄れゆく意識の中で、ラムルの悲痛な叫びが聞こえたような気がした……。
「さて! 気を取り直して次の港へ向かおうか!」
彼は仲間たちに呼びかけ、水平線の向こうに見えるモルディオの首都シェコの港町を指差した。
と、彼が指さした海の向こう側から黒い船が数隻近付いて来るのが見えた。
「また帝国の船……かな?」
若矢が目を凝らすようにして近付いてくる船を見つめる。
「いや……あの旗は帝国じゃねぇな。あれは……ドクロ……てことは海賊だ」
ファブリスは船首に立つ黒い下地に白で大きく描かれたドクロの旗を見て呟く。
「海賊……!?」
先頭の船には巨大なドクロの描かれた旗が海風に揺れていた。
「この海域は比較的穏やかで、海賊が出るなんて聞いたことないけどな……」
ファブリスはそう呟きながら船を睨みつける。
彼が何やら目で合図をすると、船長はうなずき船の進路を少し変更して船団を避けようとする。
しかし、海賊と思われる船団は若矢たちの乗る船の進行方向を塞ぐように航行してきた。そしてすれ違う距離になると、大勢の海賊たちがこちらをニヤニヤと眺めているのが見えた。
海賊たちは筋肉隆々な者ばかりであり、中には獣のような姿をしている者もいた。
「おいおい、いい装備持ってんじゃねぇか!? 他にも金目のモンをこっちによこしな!」
海賊の船長らしき男が叫ぶと、一斉に彼らは笑いだした。
「一体何のつもりだ? お前たちは何者だ」
ファブリスが落ち着き払った声で冷静に尋ねると、海賊たちは笑いながら答えた。
「見ての通り海賊だぜ? 俺たちは相手を選ばねぇんだ。運が悪かったなぁ?」
「お頭~! 若い女が3人もいますぜぇ!」
と1人の海賊が言うと、その声を聞いた他の海賊たちが騒ぎ出した。
「ひょ~っ!! 若い女だァ! ひゃっほう!」
「お頭~! そいつらを俺たちの船に乗せましょうぜ!」
「おい嬢ちゃんたち、俺らと海の上で楽しいことしようや
など、彼らは下品な笑い声を上げながら口々に言い合っていた。
「な、なんなのよこいつら! さっきの男といい、この海にはこんな奴しかいないの!?」
エレーナが嫌悪感丸出しの表情で海賊たちを見る。他の2人も同じような反応をみせた。だが、海賊たちは一切怯むことなく、彼女たちに下卑た視線を送り続ける。
「お頭!こいつらなかなかの上玉ですぜぇ!」
と海賊の一人が叫ぶと、他の海賊たちも再び一斉に騒ぎ出す。
「おい、そこのリーダーっぽいヤツ。金目のモンと女を差し出せば、他は見逃してやってもいいぜ? 俺らに見つかった不運を呪うんだな!」
「なんだとっ!?」
ファブリスは怒りの声を上げるが、海賊たちは意に介さない様子で笑い続けていた。
そんな彼らに向かって若矢は声を張り上げた。
「お前ら! いきなりなんなんだ!? 目的はなんだ?」
すると海賊の頭はニヤリとした表情で答えた。
「目的だぁ? そんなの決まってんだろぉ? 金と女だよ。海での生活でいろいろと溜まっているんでなぁ。全員で犯すんだよ! だが犯すだけじゃねえ、奴隷として売り飛ばしゃあ大儲けできんだろ?」
その言葉を聞いた若矢の怒りは頂点に達する。そしてその感情に任せて声を上げる。
「ふざけるな!そんなこと許されるわけないだろっ!!」
しかし海賊の頭は、全く動じることなく笑い飛ばした。
「許される許されねぇなんざ関係ねぇのさ! 力のある者がそうでない者を自由に扱う! それが世の中の摂理だぜ、ガキ!」
海賊の頭の言葉を受けて、他の海賊たちもゲラゲラと下品に笑い出した。
「おい、まずはこいつからやっちまおうぜ!」
と海賊の1人がエレーナを指差すと、他の海賊たちは興奮した様子で彼女に襲いかかろうとする。
「なっ! それ以上近づいたらあたしの魔法であんたらを丸焼きにするわよっ!」
エレーナが叫ぶと海賊たちは怯んだ様子を見せたが、それは一瞬のことで、すぐにまた下卑た笑いを浮かべる。
「へへっ! 威勢のいい嬢ちゃんだぜ! 早くとっ捕まえて、たっぷりと可愛がってやらねぇとなぁ」
海賊たちは次々と武器を構えて、こちらの船に飛び移ろうと準備をしている。
すると若矢が彼女の前に立ち、庇うようにして立った。
「さっきのアイツといいお前らといい……。こんな美しい世界にもお前らみたいなクズがいるんだなっ! 絶対に許さない!」
怒りの感情を露わにして叫ぶ若矢。
「へっ! なんだァ? その細っちい体で俺たちを止めるつもりかい?」
「お前みたいなガキは、女の前でカッコつけてぇ年頃なんだよな。その気持ち、わかるぜぇ」
頭と他の海賊たちは一斉に笑い出したが、若矢は動じる様子もない。
「エレーナ、あいつらの好きにはさせないから安心して!」
「若矢……ありがと」
とエレーナは少し顔を赤くしながら感謝の言葉を口にする。
「はははっ! カッコつけてんじゃねぇぞガキが! 行くぜ、野郎ども!!」
海賊の頭の掛け声と共に戦いの火蓋が切って落とされようとした、まさにその時だった。
一瞬にして辺り一帯の空が闇に覆われる。
先ほどまで輝いていた太陽が雲に隠れ、夜明けだというのにまるで夜中に逆戻りしたかのような暗さが辺りを包む。
「な、なんだこれはっ!?」
と、海賊たちは動揺の声を上げた。それは、若矢やファブリスたちも同じだった。
「まさか……魔王の手下か!?」
ファブリスは警戒しながら空を見つめる。だが、彼の予想に反して、そこには人影のようなものはなかった。
その代わりに炎のように燃える星々が無数に輝いている。そしてその星々は、次第に大きくなっているように感じられた。
「これは……まさか隕石!? メテオの魔法——!?」
エレーナが空を見上げて叫んだ。そしてさらに驚愕の表情のまま、言葉を続ける。
「で、でもこれだけの大きさと量……。各地の魔法ギルドの長や魔法学校の講師陣……いいえ、それどころかFive Jewelsにだってこんなの使える人なんていないわ……!」
エレーナの言葉を聞くと、若矢は甲板に立つと臨戦態勢を取る。
「若矢……?」
エレーナが心配そうに声をかけた。しかし若矢は決意を秘めた表情で答えた。
「落ちる前に全部粉々にすれば問題ないよな」と。
「ま、まさかあんた1人で行くつもり? あ、あの隕石の量を考えたら……いくらあんたでも……!」
とエレーナが言うが、若矢は微笑むだけで答えない。
「止めなさい! ワカヤくん、死んでしまうわ! 早く逃げないと!!」
「そうですよっ! 船長さん、早くここを離れましょう!!」
カルロッテとリズもエレーナに同意するが、彼は全く動じることもなく、
「大丈夫ですよ! 俺はあの魔王に圧勝したんですから。みんなは船が沈まないように注意してください!」
と言い残して船首の方へ向かうのだった。
「ダメだ、ここは急いで逃げるんだ、ワカヤ!」
ファブリスが手を伸ばすも、すでに若矢は上空へと跳び上がっていた。
若矢は仲間たちの心配の声すら声援に変え、さらに体が軽くなったように感じた。これなら海面に落ちる前にあの隕石を全て砕けそうだ。
(ラムル、エルさん……俺を転生させてくれてありがとう……。大切な人たちを俺は、今救って見せる!!)
そう心の中で叫び、ラムルの方を見ると絶望的な表情をしていた。と、同時にラムルが叫ぶ。
「だ、ダメだ! 若矢くん、今すぐこっちに来るんだ!! ここは船の上だし、何より相手が悪すぎる! 僕はまだ君に死んでほしくないんだよ!」
必死の形相で叫ぶラムル。
彼の反応が意外だった若矢だが、すぐに首を振る。
「大丈夫だよ。あんな石っころ、全部砕いてから戻ってくるから」
若矢はそう言うと船首を蹴って高く跳び上がる。下の方から自分の名を叫ぶ仲間たちの声が聞こえるが、それもだんだんと小さくなっていく。
(よし、今ならなんでもできそうな気がする……。まずは一気に10個くらい粉々にするか)
若矢は迫りくる隕石群に向かって両手をかざすと、静かに力を込めた。そして目にも留まらぬ速さで拳を何度も突き出し、体を回転させながら目の前に迫った隕石を20個ほどまとめて粉々にした。
「よし! 次は……ん?」
若矢は余裕を持って次の隕石を砕こうとしたが、上空に今破壊した何倍もの数の隕石が迫っているのを目にする。
「な、なんだこれ!? 一体どれだけ落ちてくるんだよ……!」
若矢は焦りの表情を浮かべるが、すぐに呼吸を整えて拳に力を込めると、今度は向かってくる隕石を1つずつ壊していく。
「くそっ——! 数が多すぎる——!!」
焦りから出る愚痴をこぼしながらも、次々と隕石を破壊していく若矢。
しかし、その数は一向に減る気配を見せない。それどころか徐々に増えていっているようにすら感じられた。
(くっ……このままじゃ間に合わない……!)
その時だった。
先ほどまで雲間から輝いていたひと際大きな光……若矢がこの異常な黒雲によって閉ざされながらも少しだけ顔を覗かせている、太陽だと思っていたその光が凄まじいスピードで動き始めた。そして、それは空中を目にも留まらぬスピードで移動すると、急に若矢に向けて突っ込んできた。
「なっ、なんなんだ!?」
その光……否、光だと思っていたそれは圧倒的な光量を放つ生物だった。若矢は全力で拳を振り上げて迎え撃とうとするが、凄まじい勢いで彼に向かってくる。
「くっ、速すぎる! こうなったら本気でいかないと……!!」
若矢が意識を集中させると、あの鋭い目の男と戦った時のように彼の拳は緑のオーラを纏った。
突撃してくる光に対し、拳を突き出し迎え撃つ。
しかし、彼の拳のオーラを容易く突き破ると、その太陽のような光の生物は凄まじい勢いを保ったまま若矢に衝突するのだった。
あまりの衝撃に叫び声を上げる間もなかったが、彼の瞳には炎上する船、そして絶望に目を見開いてこちらを見ているファブリス、エレーナ、カルロッテ、リズ、ラムルの姿が映るのだった。
しかし、そこで彼の意識は途切れてしまった。
「若矢くん! 僕は君を失いたくないんだ!!」
薄れゆく意識の中で、ラムルの悲痛な叫びが聞こえたような気がした……。
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