みっしょん!! ~異世界で生き返ったから、自由気ままに生きてやれ!~ ~狭い世界を飛び出して、最強無敵をめざしちゃえ!~

蟒蛇シロウ

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第2章「新たな地、灯ノ原」

第21話「雑念との戦い ~闘気を使いこなせ~」

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 闘気を自在に扱うための修行が始まった。
 若矢は、何度か無意識的にその力を引き出していたがそれを自在にコントロールするのとは訳が違う。意識して行う修行は、それ自体がとても難しいものだった。
「ラグーさん、これって本当に修行になってるんですか?」
 閉じていた目を開けて、真之介がラグーに尋ねる。問いを受けたラグーは、彼の肩をピシャリと叩く。
「真之介よ、修行とはそういうものじゃ。ただ闇雲に体を動かせばよいというものではない。さぁ目を閉じて深呼吸を繰り返すのじゃ」
 ラグーの言葉に真之介は「はい!」と返事をする。

 3人とも目を閉じて深呼吸を繰り返しながら、ラグーの声に耳を傾ける。
「集中じゃ……。まずは心を空っぽに。雑念を払い、何より煩悩を捨て去ることじゃ。戦いにおいて最も重要なことは、敵に意識を集中し、相手の攻撃に素早く対応すること。一瞬の油断や隙が命取りになることもある。戦いにおいては、相手への集中こそが何よりも重要なのじゃ」
 ラグーはいつになく、厳しい口調だ。

(集中……集中……)
 真之介は頭を空っぽにし、白い空間から敵がこちらに向かって歩いて来る場面が思い浮かぶ。相手の足の動き、視線、呼吸さえも本当にその場にいるかのように感じられる。やがて彼の体から白いオーラが溢れ出す。
「おぉ、やはり見込んだ通り。真之介は習得と上達が早そうじゃな。若矢くんとタイニーの方はまだまだじゃが、こればっかりは反復練習じゃな。時間をかけて体に覚えさせるしかないのう……」
 ラグーは3人に修行を続けるよう促すのだった。

 (集中……集中……集中……カツオ、イワシ、ニシン、アジ、サバ、ホッケ……)
「マグロ、サンマ!!」
 途中まで集中していたタイニーだったが、どうも食欲から好物に意識が集中してしまうようで、なかなか上手くいかない。
「こりゃタイニー! しっかりと集中するのじゃ。食欲に負けるでない!」
 ラグーは厳しい口調でタイニーに言う。
「だ、だって……」
「食事は修行が終わってからじゃ!!」

 (集中……集中……)
 若矢もまた、心を空っぽにして白い空間で敵と対峙している。すると突然、目の前に巨大な鬼が現れた。その鬼が棍棒を構える。
(来るなら来い! ……敵の動き、敵の全てに集中……って、あれ?)
 いつの間にか目の前の鬼は消え去り、代わりにたくさんの人たちが笑顔で手を広げて若矢に向かって走って来る。
「な、なんだ!? し、集中、集中!!」
 若矢は突然のことに驚いて、叫ぶ。その叫び声に驚いたのか、真之介が目を開ける。
「わ、若矢さん? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫!」

(集中……集中……集中……)
「お~い! 若矢~!!」
「若矢く~ん!」
(集中! 集中!!)
 ピシャリ! と若矢の肩が叩かれる。
「痛っ!」
「若矢くんも集中が足らんぞ! 雑念に負けてはならん!!」
「す、すみません……」
 ラグーに叱られた若矢は、慌てて心を無にする。

 (集中……集中……)
と、今度は目の前にたくさんの裸の女性たちが横たわっている。衣服は一切身に着けていない。
「え、えっ!? う、うわぁっ!!」
 その光景に思わず叫ぶと同時にピシャリ! 再び若矢の肩が叩かれる。
「痛っ!」
「凄まじい雑念じゃのぅ。……こりゃあ長く掛かりそうじゃわい……」
 ラグーは呆れたように、若矢を見つめる。
「す、すみません……」
 若矢は申し訳なさそうに謝るのだった。

 それからも修行は続く。
「真之介くん、君は本当に覚えが早いのう。この調子で続けていけば必ず強くなれるぞ」
「ありがとうございます! でも……まだまだです!」
 ラグーの言葉に、真之介の表情は明るくなる。
(集中……集中……集中)
 一方の若矢はというと、またしても雑念が爆発しそうになる。
「痛っ!」
「若矢くん、集中じゃ! 心頭滅却するのじゃ!!」
 ラグーに怒られながらも、若矢は心を無にしようと必死だった。
(集中……集中……ダメだー!!)
「にゃあっ~!! タイニーは魚が食べたい! 今すぐにっ!!」
 どうやら若矢同様にタイニーも苦戦しているようだった。
「タイニー! 魚ならあとで食べさせてやるから、今は修行に集中するんじゃ!」
とラグーは厳しい口調でタイニーに言うのだった。


 あれから3時間が経過していた。
「そこまで」
というラグーの声に、3人はゆっくりと目を開ける。若矢が口を開く。
「……はぁ……全然ダメだな」
 それを聞いたタイニーも後ろに倒れ込み、空を見上げる。
「タイニーもだ。魚の誘惑に負けた」
「ふむぅ……。今日はここまでにしようかのぅ……。真之介くんはようやった。若矢くんとタイニーはまだまだこれからじゃな」
 ラグーの言葉を聞いた3人は、ふぅと一息つくのだった。
「闘気の扱いができるようになるまで掛かる時間は人それぞれじゃ。まぁ、地道に続けていこうではないか」
 そう言ってラグーは微笑むのだった。

 その後、真之介と若矢、タイニーの3人は宿の露天風呂に入っていた。
「はぁ……今日は疲れた……。真之介はすごいなぁ」
と若矢は湯船に浸かり呟く。
 露天風呂の湯加減に癒され、目尻を下げながらタイニーも同意するようにうなずく。そして真之介は、少し照れたように頭を掻いている。
 彼はこの3人の中で一番年下だが、一番闘気の扱いに長けていた。ラグー曰く、まだ年齢的にも己の欲が強くないからだろうとのことだった。

「タイニーが魚に負けたのは事実だ」
 おもむろにそう言って笑うタイニーに釣られ、3人は笑い合うのだった。お風呂から上がった3人は、日が暮れ始めていたこともあって、宿屋で静かに過ごすことに決めた。無論、鬼宴週の鬼たちを避けるためである。
 夕食後は各々の部屋に戻って、部屋の灯りを極力落とし、静かに過ごした。こうして夜は更けていき、3人はそれぞれの部屋で眠りについたのだった。


 翌朝。
 外はすっかり明るくなっていた。昨日は外に出る人がいなかったのか、鬼の声も助けを求める声も聞こえてこなかった。若矢たちは1階で朝食を摂ると、少し休んで昨日の続きの修行が始まった。
 闘気の修行は精神的にも集中力がいるため、一日のうち短時間しか行うことができない。
 午前中の頭がスッキリしているうちに、修行に取り組んでしまうのが一番効率がいいようだ。

 真之介の闘気の扱いは、昨日に引き続き優れていたが、今日はタイニーも負けていなかった。
 朝食を食べたばかりで満腹だったためか、昨日のように魚に心を乱されることはなく、真之介にも引けを取らない。
「ほほぉ~、タイニーもやるではないか」
 ラグーは、タイニーの成長ぶりに感心するのだった。
「タイニーは気付いたんだ。お腹が減っているから、欲に負ける。つまりお腹をいっぱいにして食欲を満たせばいいんだ!」
 タイニーは、そう言ってドヤ顔をするのだった。
「んん? ふむぅ……なるほどのぅ」
 ラグーは、タイニーの言葉に頬を掻き、納得したようなしていないような表情を浮かべる。
 獣人族は元々闘気の扱いに関して優れているためか、一度コツを掴んだタイニーはみるみる上達していった。

 が、一方の若矢はというと昨日とまったく同じ有様であった。集中しようとする度に、様々な光景が頭に浮かび、思考を支配し、修行に身が入らない。「はぁ……」とまたため息をつく若矢。ラグーもそんな彼を見て、どうしたものかと頭を悩ませていた。
(集中しようとすればするほど、雑念が浮かんでくる……か。困ったのぅ)
 その時、彼の頭にある考えが浮かぶ。
(ふむ……これはやってみる価値があるかもしれぬな……)
 ラグーは、3人に声を掛ける。
「よし! 少し休憩じゃ!」
 3人は顔を見合わせる。
 どうやら、修行に身が入っていないのは若矢だけのようで、真之介とタイニーは、まだまだ修行を続けたいという様子でソワソワしているようだった。
 そんな彼らにラグーは告げる。
「なぁに、すぐに再開するから心配はいらん。真之介くんとタイニーは、15分休憩したら、修行再開じゃ。真之介くんもタイニーもそろそろ闘気を己の肉体や、武器に宿して攻撃に転用する段階に入ってもよいじゃろう」
 真之介とタイニーは同時に返事をし、うなずく。ラグーは続けて、少し落ち込んでいる若矢に声を掛ける。


「さて……若矢くん。ちょっとよいか?」
 そう言うと彼は若矢にごにょごにょと耳打ちをする。
「わ、わかりました。やってみます」
 若矢は少し驚いたようにそう言うと、自分の部屋へと戻っていったのだった。残りの2人は不思議そうにしていたが、ラグーの指示で休憩に入る。
 休憩に入ってから15分ほどが過ぎようとした時だった。
「うぅっ! くはぁっっ!!」
という若矢の叫び声が、真之介たちの耳にも届いた。
 そしてその後。
「ふぅ……。これで、よしと」
 再び若矢の声が聞こえたのだった。

 数分後、真之介たちの前に現れた若矢は、晴れやかな顔をしていた。
「しっかりと雑念と向き合いました! これなら!」
 そう言って笑う若矢を見て、タイニーと真之介も笑顔になるのだった。若矢の様子を見たラグーは満足そうにうなずくのだった。
「ふむ……どうやら上手くいったようじゃな」


 その後3人は修行を再開する。
 ラグーの指示で、自らの雑念を捨て去るのではなく、向き合うことで克服した若矢。昨日や先ほどまでとは異なり、どこか落ち着きを感じさせる様子だ。
 若矢は早速、目を閉じて精神を集中し始める。
 先ほどまで同様に様々な雑念が頭に浮かんでくるが、今の若矢は何も感じない。やがて、頭を支配する煩悩はスゥーッと消えていく。と、同時に彼の体から緑色のオーラが溢れ出す。

「おぉ~! さすがは無意識的に何度か闘気を発動させていただけのことはある。凄まじい闘気エネルギーじゃ——!! 見事じゃぞ、若矢くん!」
 ラグーは感嘆の声を上げる。
「すごい! これが若矢さんの闘気!?」
 辺りの草木を揺らす若矢の闘気を目の当たりにし、息を呑む真之介。
(俺がこれまで無意識的にこの闘気を発動させたのは、強敵との戦いの最中だった……。あの時は力任せに拳を振るっていたけど、今なら——)
 若矢は静かに目を開けると、ふぅ~と息を吐きながら右腕に闘気が流れていくのをイメージする。すると右腕のオーラが一段と光を強く放つ。
 若矢はそのまま手を縦にし、目の前にあった大岩に向けて手刀切りを放った。

 スパッ!! と、小気味よい音とともに大岩が真っ二つに切断される。そして崩れ落ちた大岩は地面にぶつかった衝撃で粉々に砕けるのだった。
「うむぅ……。これは期待以上じゃな! なんと……ここまでとは!」
 ラグーは、興奮気味に若矢に称賛の言葉を投げかける。タイニーと真之介も、驚いて声が出ないようだ。
「は、はい! ありがとうございます!」
 若矢は少し照れたように頭を掻いた。

 ラグーは若矢の肩を叩くと、にこやかな笑顔を浮かべる。
「ではここからは応用編じゃな。今の若矢くんのように、闘気を体や武器に纏う方法を教えるとしよう。修行はより実戦的になるぞい!」
 それから数日間、3人は闘気を自ら体に纏ったり武器に宿したりと、様々な方法での発動を練習したのだった。
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