みっしょん!! ~異世界で生き返ったから、自由気ままに生きてやれ!~ ~狭い世界を飛び出して、最強無敵をめざしちゃえ!~

蟒蛇シロウ

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第2章「新たな地、灯ノ原」

第22話「いざ飢鬼山へ ~真之介の刀を取り戻せ~」

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「おぉ、今日もやってるみたいだなぁ。ほら、お美津さんが昼飯を作って来てくれたぜ? ちょっと休憩したらどうだい」
 いつものように修行をしていた若矢たちの元に、弁当箱を持ったお美津と六村がやって来る。
「ありがとうございます! お美津さん」
 若矢は汗を拭いながら、お美津に声を掛ける。
「ううん。気にせんとよーさん食べや」
 笑顔で弁当箱の蓋を開けるお美津。弁当箱が開くと同時に、タイニーは歓喜の声を上げる。
「ご飯だ! タイニーはもう我慢できない!」
 タイニーは一目散に弁当箱に飛びつく。そんな様子を見て、
「あ、タイニーさんずるいですよ!」
と、真之介も慌てて箸を取るのだった。

 お美津の料理に舌鼓を打った面々。お腹いっぱいになり、そのまま休憩していると、六村が真之介に声を掛ける。
「ずいぶんと闘気とやらの扱いが上手くなったみたいじゃねぇか? ただでさえ剣の腕が立つってのに、末恐ろしいな」
 六村は真之介の成長ぶりをラグーから聞いていたようだ。
「いえ……。まだまだですよ秀さん。ラグーさんの修行のお陰です!」
と、少し照れながら答えるのだった。

 しかし、少しすると突然神妙な顔になる真之介。
「……闘気の扱いにも慣れて来たので、そろそろもう一度"飢鬼山ききざん"に向かおうと思います。あの子供から、奪われた刀を取り戻すんだ……」
 そう零した彼の肩に手を置く六村。その表情は真剣だ。
「悪いことは言わねぇ。あの山には近づくな。特に今は鬼宴週きえんしゅうだろ? 鬼が山の至るところにいやがる」
 六村の忠告を聞いた、真之介は首を横に振る。
「いえ……僕は行きます! 奪われた刀を取り戻さないと!」
 そう強く言い切る彼に、六村はため息をつく。

 そして、静かに語り始めるのだった。
「……あの山にはな……鬼の親玉がいるんだ」
「鬼の親玉?」
 そのやり取りを隣で聞いていた若矢が、反応する。
「あぁ……鬼の頭目が住むんだ。それに鬼の大神……いや、戯大神である『魅禍屡那みかるな』を祀る城もあると聞く。言わば鬼の本拠地だ。鬼宴週の今は、その城で何か重要な儀式が行われているらしい」

 その場にいた者たちは、皆一様に息を呑んだ。そんななか沈黙を破ったのは、ラグーだった。
「確かに真之介くんの実力はメキメキと上達しておる。じゃが、鬼の本拠地であるというならば、先日の"魅月"なる高位の鬼に匹敵する者が、他にも数体いる可能性も否定できんのぅ。極めて危険じゃ」
 ラグーの言葉に、その場にいた一同は言葉を失う。真之介はしぶしぶと言ったように
「……わかりました。あれは大事な刀ですが……せめて鬼宴週が明けるまで待つことにします」
と誓うのだった。

(みかるな? 鬼の神様……。ラムルがいれば、エルさんに聞くことができたかもしれないな……)
 若矢は今の話を聞きながら、そんなことを考えていのだった。
「さて、休憩はお終いにして修行といくかの? 鬼宴週は明日で終わりじゃ。いよいよ明後日には、江城に向けて出発じゃ」
 ラグーはそう言うと、パンパンと手を叩きながら立ち上がるのだった。


 その日の夜、ラグーが眠った後に真之介は若矢とタイニーに自らの決意を告げていた。
「秀さんやラグーさんはああ言ってましたけど、やっぱり僕は明日の夕方、飢鬼山に向かおうと思っています。どうしても僕の大切な刀を取り戻したい」
 真之介の決意を聞いた2人は、顔を見合わせる。そして若矢は彼に、詳しく話を聞かせて欲しいと言うのだった。
 彼の話では、2ヶ月ほど前に飢鬼山の麓に架かる橋に現れるという少年を捕縛する依頼を受けたものの、その少年に返り討ちに遭ってしまったのだという。その少年は相手の命は奪わないが、勝利の証として相手の持っていた武器を奪うのだそうだ。そのため真之介の大切な刀も、例に漏れず強奪されてしまったらしい。

「真之介を倒せる子供?」
 タイニーは信じられない、といったように目を見開く。それは若矢も同じだった。
「はい。僕は、あの少年に負けました……。少年は僕よりもさらに幼い見た目をしていますが、若矢さんに匹敵する怪力に加えて、身の丈に合わない大きな薙刀を自在に操って戦います。正直、そこらの鬼では束になっても敵わないと思います。僕も全く手も足も出なくて……」
 真之介は悔しそうに拳を握り締める。自らに匹敵する怪力……。若矢はもしかすると、その少年も転生者なのではないかと考える。

 油断は禁物だが、3人ならなんとかなるかもしれない。鬼の本拠地である飢鬼山に入ることを想像すると、先日の魅月との戦いを思い出し、あの時感じた恐怖がフラッシュバックする若矢だったが、彼は自らを鼓舞する。
 若矢は真之介の目を見据えて口を開く。
「わかった。俺も一緒に行くよ!」
 その言葉に真之介もタイニーも驚くのだった。しかし、真之介は若矢の真剣な眼差しを見てすぐにその意図を察したようだ。
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
と頭を下げるのだった。

 タイニーはというと……
「え? 2人とも行くのか? も、もちろんタイニーも行くぞ! みんなで修行を頑張った仲だしな!」
と、拳を握るのだった。真之介は力強くタイニーの手を握る。タイニーも満更でもない様子だ。
 こうして3人は、明日の夕方に飢鬼山に向かうことになったのだった。


 そして翌日の昼過ぎころ……。
「さて、明日は江城に向けて出発じゃし、今日はこの辺にしておこうかの? 皆、ようやった。今日はゆっくり休むんじゃよ?」
 ラグーは3人を労うと、お風呂、お風呂と呟きながら修行場を後にするのだった。
 3人は顔を見合わせてうなずく。
 飢鬼山に架かる橋に現れる少年は、いつも決まって夕方ごろに橋に立っているのだという。今から徒歩で向かえば夕方の少し前には着けるはずだ、と真之介は2人に説明する。3人は武器と少量の食糧を持つと、ラグーが浴場に向かったタイミングを見計らって出発するのだった。

 飢鬼山への道中、3人は今日の動きについて話していた。
 まずは夕方前に、飢鬼山の橋に着き、そこで少年を待つ。3人で協力して少年から刀を取り返したら、急いで麓の村に移動する。村には真之介の顔なじみの男性が住んでいるため、事情を説明して夜明けまで待機させてもらう。鬼宴週が終わる夜明けと共に、急いで宿まで戻ってラグーと合流する。
 これが3人の立てた作戦だった。


 しばらく歩き続け、ようやく飢鬼山が見えて来た。まだ夕刻前だというのに、麓の村から見上げる山は酷く不気味に感じられた。カラスが無数に飛び交い、けたたましく鳴いている。タイニーは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「この山には、鬼がいるのか……」
 真之介は小さくうなずく。
「はい……それもたくさん……。早く少年から刀を取り返して、下山しましょう」

 若矢と真之介は意を決して、山の麓に向かって駆け出すのだった。2人に続き、タイニーも走り出す。程なくして3人は山への入り口に架かる橋に到着した。
「飢鬼山の中に入らなくてもいいのは、不幸中の幸いだな」
 若矢は思わずそんなことを呟く。
 少しすると、だんだんと陽が傾いてきた。そろそろ出て来てもおかしくない、と言うように真之介は若矢とタイニーに目配せをする。そして3人が橋のたもとに身を潜めていると……。

「あれ? 最近はめっきり人が来なくて、鬼ばっかりだったのに珍しいな~!」
 嬉しそうな声が聞こえて3人が振り返ると、少し離れた木の上でまだ7~8歳程度の美しい顔立ちの子供が木の実を食べながら、こちらを見ていた。
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