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第2章「新たな地、灯ノ原」
第23話「修行の成果を見せろ ~飢鬼山の弁慶~」
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「あれ? 最近はめっきり人が来なくて、鬼ばっかりだったのに珍しいな~!」
嬉しそうな声に3人が振り返ると、少し離れた木の上でまだ7~8歳程度の美しい顔立ちの子供が木の実を食べながら、こちらを見ていた。
(あれが……真之介の言う少年?)
若矢が考えると同時に真之介は一人呟く。
「やっぱり……。あの時の少年だ……」
少年は3人の前までやって来ると、にっこりと笑った。
「ボクを待っていたの?」
屈託のないその笑みに思わず毒気を抜かれそうになるも、若矢が口を開く。
「あぁ、そうだ! 真之介の刀を返してもらう!」
3人は一斉に戦闘態勢を取る。
しかし少年はというと、全く動じた様子がない。それどころか、嬉しそうに目を輝かせるのだった。
「わぁ! 嬉しいなぁ! あと2本で、倒して奪った武器が1000本なんだ! ちょうどそこの猫さんとお兄さんで、1000本! ボクと戦ってくれるんだよね?」
少年は魔法か何かで隠していた、これまで奪った武器の山を実体化させて微笑む。武器を奪うためだけに1000人も倒したのか、と若矢は驚愕する。
「す……すごいな! 1000本も集めたのか!」
タイニーは若矢と違い、直接声に出して驚いている。
と、少年は真之介に気付き手を振る。
「あ、この間の弱っちぃ子だ! ボク、一度倒した相手には興味がないんだよね」
少年のその態度と言葉に、普段は温厚な真之介の瞳が鋭く細められる。
「このっ……! 僕はもうあの時の僕とは違う!」
真之介は怒りを顕わにして、刀を抜き放つ。
「ちょっと待って、真之介!」
「問答無用! 僕の刀を返してもらいます!」
若矢の制止も聞かず、そのまま斬りかかる真之介……が、その一撃はあっさりと躱される。
そして……。
「だから興味ないんだってば……」
まさに一瞬だった。鋭いパンチを繰り出す少年に対し真之介は刀で防いだが、凄まじい轟音と共に山肌に激突させられてしまう。
真之介の刀は折れ、彼自身も肉体に対する大きな衝撃によるダメージからか、立ち上がることができないようだ。
「む、無念……。すみません、2人とも……」
真之介は苦しそうに息をしながら、2人に詫びる。
闘気を使う間もなく、真之介が敗れてしまったことに驚きと焦りを隠せない2人。だが、彼らもこのまま引き下がる訳にはいかない。若矢は少年に向かって駆け出す。その背後からはタイニーも続くのだった。
若矢の拳と少年の拳がぶつかる。
「はあああっ!!」
(う、嘘だろ! 俺の拳と競ってるなんて——!)
若矢は驚愕した。
少年は、彼との拳の打ち合いから一度身を引くと楽しそうに微笑む。
「お兄さんのパンチもなかなかだね! じゃあ猫さんはどうかな?」
そしてそのまま少年の拳が、今度はタイニーに襲い掛かった。
「くぅっ!! なんて馬鹿力だ! タイニーの拳では耐えられそうにない……それなら!」
タイニーはその言葉と共に、胸元から取り出した針のような物を巨大化し、槍に変化させ少年を急襲する。
少年は一瞬驚いたような表情をして、すぐに飛び退く。しかし、その一瞬の隙を若矢は逃さない。
「はっ!!」
若矢の拳による鋭い一撃が少年の腹部にクリーンヒットする。少年はそのまま後方に吹き飛び、地面に倒れ伏すのだった。
「や、やったか!?」
タイニーは叫ぶ。だが……
「いててて……」
少年は何事もなかったかのように立ち上がったのだ。しかも彼には傷1つ付いていないようだ。
「全然効いてない!?」
若矢は思わず声を上げる。
少年は立ち上がると、まだまだこれからといったように構えを取る。
「猫さんの武器は、槍なのか! びっくりしたよ! さて、次はボクの番だよ!」
少年はそう言うと、再び拳を振りかぶるのだった……。
若矢とタイニーは少年に何度も攻撃を加えるも、彼はその全てをものともせず反撃してくる。こちらの攻撃が通用しないことに驚きを隠せない2人だったが、それでも諦めずに立ち向かう。
「若矢。タイニーからの提案だ」
そのタイニーの言葉から何が言いたいのか、若矢はすぐに分かった。若矢は彼に視線を送ると自信ありげにうなずいた。
「ああ、今こそ修行の成果を見せる時だ!」
2人は意識を集中させ、闘気を解放する。若矢は闘気を拳に集中させ、タイニーは針を巨大化させてそこに闘気を宿す。そして……。
「うおおおっ!!」
若矢の渾身の一撃が少年を襲う。少年は先ほど同様にその攻撃を防ごうとしたが、闘気によって威力の上がった若矢の拳を受けて、大きく弾き飛ばされた。
「まだまだぁっ!!」
若矢の怒涛のラッシュが続く。少年はその攻撃を受け流し続けるが、徐々に体勢を崩していく。
「今だ! 喰らえ!」
タイニーの槍が勢いよく、少年に襲い掛かる。
少年は慌てて防御姿勢を取るも、その鋭い突きを防ぎきることはできなかったようだ。
「うぐっ!」
槍が少年の左肩を貫く。
「見たか! これがタイニーたちの闘気の力だ!」
だがしかし……。
「へぇ! それ闘気って言うんだね! ボクはね、炎みたいだからメラメラって呼んでたんだ!」
左肩の傷を気にする様子もなくそう楽しそうに叫んだ少年の体から、水色のオーラ……つまり闘気が溢れ出す。
少年もラグーに教わる前の若矢同様に、無意識的に闘気を扱うことが出来るようだ。
驚く若矢とタイニーに対し、闘気を解放した少年は凄まじいスピードで襲い掛かってくる。
「えいっ!」
少年のパンチがタイニーの腹部にヒットし、あまりの衝撃に大きく吹き飛ばされ、地面に這いつくばる。
「タ、タイニー!大丈夫か!?」
「い、痛い……にゃぁっ……」
若矢が慌ててタイニーに駆け寄るも、彼は少年の一撃を受けて悶絶していた。
助け起こそうとした瞬間、少年の拳が若矢に迫った。若矢も自分の拳に闘気を宿して拳を振るう。
目にも留まらぬ速さの凄まじい拳の応酬になる。若矢も必死の攻防だったが、少年も負けじと拳を振るう。互いの拳がぶつかり合う度に轟音が鳴り響き、衝撃波によって周りの木々が大きく揺れるのだった……。
それからしばらく2人は殴り合ったが、決着がつくことはなかった。若矢の体力は限界を迎えようとしていたが、少年の方は、まだまだ余裕がありそうだ。
「お兄さんすごいね! ボク、こんなに楽しく戦ったの久しぶり! これも使っていいかな?」
少年は嬉しそうに薙刀を取り出した。どう見ても目の前の少年が振り回せる大きさでは無いにも関わらず、それを軽々と振るって見せる。
「な、なんだよそれ……。そんなのアリかよ……」
若矢は息を荒らげながら呟く。すると少年は満面の笑みで言うのだった。
「ボクのひっさつ武器だよ!」
少年から振り下ろされた薙刀の刃を必死で躱す若矢だが、攻撃範囲の広さと素早い武器さばきに圧倒される。若矢も必死で応戦するも、やはり圧倒的なリーチ差に防戦一方となった……。
しかし若矢には腰に差す刀があり、彼はずっと身を守りながら隙を伺っていた。そして少年の一撃を躱したその時……。若矢の体から闘気が溢れる!
「今だ!」
若矢はすかさず腰から抜いた刀を少年に突き立てようとする。しかし少年はそれを見越していたかのように、後ろへ飛び退いてその刃を避けると、すぐさま薙刀を構えなおすのだった。
だが若矢はそれすらも待っていた。
刀の切っ先に闘気のエネルギーを宿して、少年の薙刀よりも長くするとそのリーチを活かして、少年の薙刀を遥か上空へと弾き飛ばしたのだ。そしてそのことに驚いている少年との間合いを一気に詰めると、首先に刀を突きつけるのだった。
「あ、あれ……負けた……? ボクが……? あーあ、やっぱり世界には強い人がたくさんいるんだね……! 大人しく集めた武器は元の持ち主の人たちに還すよ……」
少年は糸の切れた人形のようにその場にへたり込む。その様子を見て、若矢は刀を収めるとタイニーの元に駆け寄る。
タイニーと真之介を抱え起こすと、六村からいつか何かあった時のために、と貰っていた薬を2人に飲ませた。すると不思議なことに、2人の体の痛みはすぐに消えるのだった。
「驚いたな……。痛みが引いていく……」
2人は驚きの声を漏らす。少年は項垂れている様子だったが、若矢は少年に六村の薬を手渡し飲むように言う。
「なぁ、まだ行く当てが無いなら俺たちと来ないか?」
続けてタイニーも口を開く。
「そうだ! お前にやられっぱなしは癪だ! 一緒に来てタイニーに強さの秘密を教えてもらうぞ!」
少年はその提案に驚いているようだった。若矢は続ける。
「なんで武器を奪っていたのか、とか聞きたいことは山ほどあるけどそろそろ日没だし、麓の村に戻ろう? 今日は鬼宴週の最終日だし、鬼の動きも活発になってると思うから」
少年は少し考え込むと、やがて笑顔で頷いた。
「うん! ボク、お兄さんたちと一緒に行くよ!」
若矢は嬉しそうな笑顔を浮かべた。そして真之介の方に視線を送る。
「僕は、自分の刀を返してもらえれば何も言うことはありません。二度もあっさりと負けたのは悔しいですけどね……」
真之介は若矢の方を向いてうなずいた。
少年は真之介から奪った大切な刀を、彼に手渡す。
「武器を奪ってごめんなさい」
真之介は、いいよと伝えてその刀を受け取るのだった。
許してもらえた少年は俯いて何かを考えているようだったが、何かを決断したかのように一人うなずき、若矢の方へ向き直る。そしてなんと自分を家来にして欲しいと名乗り出る。
「いや、仲間ならともかく家来は……」
若矢が困惑していると、少年は目を輝かせて言う。
「ボクをあんなに圧倒したのは、お兄さんで2人目なんだ! だから、ボクを家来にしてください!」
弱ったな、と若矢が頭を掻く。その圧から、一歩も退く気配がないようだ。名前を尋ねると、名前は思い出せないから好きに呼んで欲しいと返す少年。
(橋で武器集め、大きな武器……。それに俺も前の世界で牛若って呼ばれてたし……。弁慶かな?)
若矢はそう考えた。
「じゃあ、弁慶で! これからよろしくな!」
若矢が手を差し出すと、
「ありがとうお兄さん! じゃあ名前を思い出すまで、弁慶って名乗るね!」
弁慶も嬉しそうにその手を取ったのだった……。
「ニャんだ? べんけいって?」
タイニーが首を傾げながら、真之介の方を見るが、彼の方も知らないと言ったように頭を振る。あとで2人と弁慶にも名前の由来を説明してあげようと思いながらも、今はすぐにこの場を離れるべきだと若矢は考えるのだった。
嬉しそうな声に3人が振り返ると、少し離れた木の上でまだ7~8歳程度の美しい顔立ちの子供が木の実を食べながら、こちらを見ていた。
(あれが……真之介の言う少年?)
若矢が考えると同時に真之介は一人呟く。
「やっぱり……。あの時の少年だ……」
少年は3人の前までやって来ると、にっこりと笑った。
「ボクを待っていたの?」
屈託のないその笑みに思わず毒気を抜かれそうになるも、若矢が口を開く。
「あぁ、そうだ! 真之介の刀を返してもらう!」
3人は一斉に戦闘態勢を取る。
しかし少年はというと、全く動じた様子がない。それどころか、嬉しそうに目を輝かせるのだった。
「わぁ! 嬉しいなぁ! あと2本で、倒して奪った武器が1000本なんだ! ちょうどそこの猫さんとお兄さんで、1000本! ボクと戦ってくれるんだよね?」
少年は魔法か何かで隠していた、これまで奪った武器の山を実体化させて微笑む。武器を奪うためだけに1000人も倒したのか、と若矢は驚愕する。
「す……すごいな! 1000本も集めたのか!」
タイニーは若矢と違い、直接声に出して驚いている。
と、少年は真之介に気付き手を振る。
「あ、この間の弱っちぃ子だ! ボク、一度倒した相手には興味がないんだよね」
少年のその態度と言葉に、普段は温厚な真之介の瞳が鋭く細められる。
「このっ……! 僕はもうあの時の僕とは違う!」
真之介は怒りを顕わにして、刀を抜き放つ。
「ちょっと待って、真之介!」
「問答無用! 僕の刀を返してもらいます!」
若矢の制止も聞かず、そのまま斬りかかる真之介……が、その一撃はあっさりと躱される。
そして……。
「だから興味ないんだってば……」
まさに一瞬だった。鋭いパンチを繰り出す少年に対し真之介は刀で防いだが、凄まじい轟音と共に山肌に激突させられてしまう。
真之介の刀は折れ、彼自身も肉体に対する大きな衝撃によるダメージからか、立ち上がることができないようだ。
「む、無念……。すみません、2人とも……」
真之介は苦しそうに息をしながら、2人に詫びる。
闘気を使う間もなく、真之介が敗れてしまったことに驚きと焦りを隠せない2人。だが、彼らもこのまま引き下がる訳にはいかない。若矢は少年に向かって駆け出す。その背後からはタイニーも続くのだった。
若矢の拳と少年の拳がぶつかる。
「はあああっ!!」
(う、嘘だろ! 俺の拳と競ってるなんて——!)
若矢は驚愕した。
少年は、彼との拳の打ち合いから一度身を引くと楽しそうに微笑む。
「お兄さんのパンチもなかなかだね! じゃあ猫さんはどうかな?」
そしてそのまま少年の拳が、今度はタイニーに襲い掛かった。
「くぅっ!! なんて馬鹿力だ! タイニーの拳では耐えられそうにない……それなら!」
タイニーはその言葉と共に、胸元から取り出した針のような物を巨大化し、槍に変化させ少年を急襲する。
少年は一瞬驚いたような表情をして、すぐに飛び退く。しかし、その一瞬の隙を若矢は逃さない。
「はっ!!」
若矢の拳による鋭い一撃が少年の腹部にクリーンヒットする。少年はそのまま後方に吹き飛び、地面に倒れ伏すのだった。
「や、やったか!?」
タイニーは叫ぶ。だが……
「いててて……」
少年は何事もなかったかのように立ち上がったのだ。しかも彼には傷1つ付いていないようだ。
「全然効いてない!?」
若矢は思わず声を上げる。
少年は立ち上がると、まだまだこれからといったように構えを取る。
「猫さんの武器は、槍なのか! びっくりしたよ! さて、次はボクの番だよ!」
少年はそう言うと、再び拳を振りかぶるのだった……。
若矢とタイニーは少年に何度も攻撃を加えるも、彼はその全てをものともせず反撃してくる。こちらの攻撃が通用しないことに驚きを隠せない2人だったが、それでも諦めずに立ち向かう。
「若矢。タイニーからの提案だ」
そのタイニーの言葉から何が言いたいのか、若矢はすぐに分かった。若矢は彼に視線を送ると自信ありげにうなずいた。
「ああ、今こそ修行の成果を見せる時だ!」
2人は意識を集中させ、闘気を解放する。若矢は闘気を拳に集中させ、タイニーは針を巨大化させてそこに闘気を宿す。そして……。
「うおおおっ!!」
若矢の渾身の一撃が少年を襲う。少年は先ほど同様にその攻撃を防ごうとしたが、闘気によって威力の上がった若矢の拳を受けて、大きく弾き飛ばされた。
「まだまだぁっ!!」
若矢の怒涛のラッシュが続く。少年はその攻撃を受け流し続けるが、徐々に体勢を崩していく。
「今だ! 喰らえ!」
タイニーの槍が勢いよく、少年に襲い掛かる。
少年は慌てて防御姿勢を取るも、その鋭い突きを防ぎきることはできなかったようだ。
「うぐっ!」
槍が少年の左肩を貫く。
「見たか! これがタイニーたちの闘気の力だ!」
だがしかし……。
「へぇ! それ闘気って言うんだね! ボクはね、炎みたいだからメラメラって呼んでたんだ!」
左肩の傷を気にする様子もなくそう楽しそうに叫んだ少年の体から、水色のオーラ……つまり闘気が溢れ出す。
少年もラグーに教わる前の若矢同様に、無意識的に闘気を扱うことが出来るようだ。
驚く若矢とタイニーに対し、闘気を解放した少年は凄まじいスピードで襲い掛かってくる。
「えいっ!」
少年のパンチがタイニーの腹部にヒットし、あまりの衝撃に大きく吹き飛ばされ、地面に這いつくばる。
「タ、タイニー!大丈夫か!?」
「い、痛い……にゃぁっ……」
若矢が慌ててタイニーに駆け寄るも、彼は少年の一撃を受けて悶絶していた。
助け起こそうとした瞬間、少年の拳が若矢に迫った。若矢も自分の拳に闘気を宿して拳を振るう。
目にも留まらぬ速さの凄まじい拳の応酬になる。若矢も必死の攻防だったが、少年も負けじと拳を振るう。互いの拳がぶつかり合う度に轟音が鳴り響き、衝撃波によって周りの木々が大きく揺れるのだった……。
それからしばらく2人は殴り合ったが、決着がつくことはなかった。若矢の体力は限界を迎えようとしていたが、少年の方は、まだまだ余裕がありそうだ。
「お兄さんすごいね! ボク、こんなに楽しく戦ったの久しぶり! これも使っていいかな?」
少年は嬉しそうに薙刀を取り出した。どう見ても目の前の少年が振り回せる大きさでは無いにも関わらず、それを軽々と振るって見せる。
「な、なんだよそれ……。そんなのアリかよ……」
若矢は息を荒らげながら呟く。すると少年は満面の笑みで言うのだった。
「ボクのひっさつ武器だよ!」
少年から振り下ろされた薙刀の刃を必死で躱す若矢だが、攻撃範囲の広さと素早い武器さばきに圧倒される。若矢も必死で応戦するも、やはり圧倒的なリーチ差に防戦一方となった……。
しかし若矢には腰に差す刀があり、彼はずっと身を守りながら隙を伺っていた。そして少年の一撃を躱したその時……。若矢の体から闘気が溢れる!
「今だ!」
若矢はすかさず腰から抜いた刀を少年に突き立てようとする。しかし少年はそれを見越していたかのように、後ろへ飛び退いてその刃を避けると、すぐさま薙刀を構えなおすのだった。
だが若矢はそれすらも待っていた。
刀の切っ先に闘気のエネルギーを宿して、少年の薙刀よりも長くするとそのリーチを活かして、少年の薙刀を遥か上空へと弾き飛ばしたのだ。そしてそのことに驚いている少年との間合いを一気に詰めると、首先に刀を突きつけるのだった。
「あ、あれ……負けた……? ボクが……? あーあ、やっぱり世界には強い人がたくさんいるんだね……! 大人しく集めた武器は元の持ち主の人たちに還すよ……」
少年は糸の切れた人形のようにその場にへたり込む。その様子を見て、若矢は刀を収めるとタイニーの元に駆け寄る。
タイニーと真之介を抱え起こすと、六村からいつか何かあった時のために、と貰っていた薬を2人に飲ませた。すると不思議なことに、2人の体の痛みはすぐに消えるのだった。
「驚いたな……。痛みが引いていく……」
2人は驚きの声を漏らす。少年は項垂れている様子だったが、若矢は少年に六村の薬を手渡し飲むように言う。
「なぁ、まだ行く当てが無いなら俺たちと来ないか?」
続けてタイニーも口を開く。
「そうだ! お前にやられっぱなしは癪だ! 一緒に来てタイニーに強さの秘密を教えてもらうぞ!」
少年はその提案に驚いているようだった。若矢は続ける。
「なんで武器を奪っていたのか、とか聞きたいことは山ほどあるけどそろそろ日没だし、麓の村に戻ろう? 今日は鬼宴週の最終日だし、鬼の動きも活発になってると思うから」
少年は少し考え込むと、やがて笑顔で頷いた。
「うん! ボク、お兄さんたちと一緒に行くよ!」
若矢は嬉しそうな笑顔を浮かべた。そして真之介の方に視線を送る。
「僕は、自分の刀を返してもらえれば何も言うことはありません。二度もあっさりと負けたのは悔しいですけどね……」
真之介は若矢の方を向いてうなずいた。
少年は真之介から奪った大切な刀を、彼に手渡す。
「武器を奪ってごめんなさい」
真之介は、いいよと伝えてその刀を受け取るのだった。
許してもらえた少年は俯いて何かを考えているようだったが、何かを決断したかのように一人うなずき、若矢の方へ向き直る。そしてなんと自分を家来にして欲しいと名乗り出る。
「いや、仲間ならともかく家来は……」
若矢が困惑していると、少年は目を輝かせて言う。
「ボクをあんなに圧倒したのは、お兄さんで2人目なんだ! だから、ボクを家来にしてください!」
弱ったな、と若矢が頭を掻く。その圧から、一歩も退く気配がないようだ。名前を尋ねると、名前は思い出せないから好きに呼んで欲しいと返す少年。
(橋で武器集め、大きな武器……。それに俺も前の世界で牛若って呼ばれてたし……。弁慶かな?)
若矢はそう考えた。
「じゃあ、弁慶で! これからよろしくな!」
若矢が手を差し出すと、
「ありがとうお兄さん! じゃあ名前を思い出すまで、弁慶って名乗るね!」
弁慶も嬉しそうにその手を取ったのだった……。
「ニャんだ? べんけいって?」
タイニーが首を傾げながら、真之介の方を見るが、彼の方も知らないと言ったように頭を振る。あとで2人と弁慶にも名前の由来を説明してあげようと思いながらも、今はすぐにこの場を離れるべきだと若矢は考えるのだった。
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