淫らで美味しいワンコ君が、センセイの帰りを待っています! ~崖っぷちから始まる辺境女教師スローライフ~

冬島六花

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第二章 淫らで美味しい同居生活

2-2.実は……処女なんです★

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「ちょ……ちょっと待って。……そもそも、あなたは誰?」

 覆い被さってきたワンコ君を押し退けながら、リズは問う。さすがに名前も知らない男と身体を重ねるわけにはいかない。

「僕? そうだな、例えるなら君の運命……」
「ちょ! 冗談はやめて」

 自分に酔いしれるかのように、ワンコ君は言う。しかしリズにとっては噴飯物である。

(初対面の人間が運命だなんて……分かるわけないでしょう!)

 なんといっても、リズは婚約までこぎつけた男性に裏切られた過去があるのだ。そりゃあ、目の前のワンコ君はかっこいいし、自然と胸も高鳴ってはくるが……しかし〝運命〟だなんて、そう簡単に訪れはしないだろう。

「僕は本気だよ。パーティで分かったんだ。君は僕の運命のつがいだ」
「だ、だから……今は冗談を言う場面じゃないでしょ! 見ず知らずの人間を家に上げるわけにはいかないわ」

 ワンコ君の胸をポンポンと叩きながら、リズは言った。彼を家に連れてきてしまったのは自身の落ち度だが、このままなし崩しで身体を重ねるわけにはいかない。

「ごめんごめん。僕はテッド」
「テッド? 本名は……セオドア……というところかしら?」
「うん、まぁ、そんなところ。でもテッドでいいよ。センセイは?」
「私はリズよ。正式にはエリザベスだけれど、ごくありふれた名前でしょう? みんなリズと呼ぶわ」

 エリザベスというのはかつて偉業をなした女王の名で、女子名としては定番である。リズが迎えられた家の親族にもいた。彼女がベティと呼ばれていたので、それより少しマイナーな〝リズ〟が愛称になったのだ。

「そっか。リズ先生、よろしく」

 テッドはリズをぎゅぅぅっ……と強く抱きしめ、ソファに押し倒した。そしてリズの耳朶をそっと唇で食む。

「っ……んっ」

 ビリビリと弱い電気が走るような感覚が、身体の内から湧き上がってくる。

「リズ先生、かわいい」

 テッドはリズの反応を面白がっているようだった。耳の形に添って舌を這わせると、リズは細かく身体を震わせる。たしかにリズは、大人の女性にしては初心うぶかもしれなかった。

「やっ……だ、だめなのっ」

 まだ耳を舐められてだけだというのに、リズは堪えきれず、テッドを押しのけた。

「それはやっぱり、僕が得体の知れない男だから?」
「ううん、そうではなくて……」
「そうではなくて?」

 少し残念そうに見つめるテッドに対し、リズは意を決して告げた。

「私……処女なの……」

 二人の間に気まずい沈黙が流れる。
 絶対に言いたくない事柄だから、まだ誰にも言っていなかったのだ。

(テッドは、私の婚約破棄を知っているのかしら)

 以前の婚約者は、決してリズに手を出そうとしなかった。それをリズは、彼の真面目さゆえの行動と信じていた。まさか他に好きなひとがいたなんて――。

「ごめん」

 間を置いて、テッドはポツリと謝った。予想外の展開に、しばらく反応ができなかったようである。

「じゃあさ、今夜はもう何もしない。その代わり僕をこの家に住まわせてよ。僕、掃除も料理も得意なんだ」
「ちょ! なんでそうなるのよ」

 テッドはポジティブな性格のようである。切り替えて、無茶苦茶なことを言ってきた。

「だってさ……リズ先生、家事とか苦手でしょ? 使用人がいたら、助からない?」

 ぐるりと部屋を見渡しながら訊ねる。

(痛いところを突くわね、この子)

 何を隠そう、テッドの指摘通りだった。リズは家事が苦手で、とりわけ片付けが嫌いだ。引っ越してきたばかりの部屋もグチャグチャ――とはいかないまでも、リズが個人的に収集した鉱物標本や専門書などが、部屋のそこかしこに仮置きされている。

「だめ。見ず知らずの人間を住まわせるわけにはいきません」

 ニコニコとした表情でとんでもないことを言い出すテッドの言葉を、リズはぴしゃりと拒絶した。

「そう? もう、見ず知らずってわけでもないよね?」

 テッドはリズの顔を正面から見据えると、唇に軽くキスをした。彼の可愛らしい顔を見ていると、リズの心が緩んでくる。

(そんなに……悪くもないかも?)

 情けない話ではあるが、転職したばかりのリズには余裕がなかった。教師の仕事は忙しく、一日一日を乗り越えるだけで精一杯だ。家事をしてくれる人間がいるなら、これ以上の手助けはない。

「ちょ……もうっ。分かったわ。給金はいくらお支払いすれば良いかしら。今夜はもう晩いから、明日話しましょう」

 根負けしたリズは、テッドに応えるように、唇を合わせたのだった。
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