七つの家

小鳥遊郁

文字の大きさ
2 / 4

しおりを挟む

  オレ、魚住大樹が一大決心をして家を購入したのには訳がある。オレとミーナは幼馴染だ。そしてこれが一番重要だが恋人同士ではない。こんなに長い間一緒にいるのになぜか恋人にしたいと思ったことがなかった。ミーナの方もオレを男だと思っていないようで一つの部屋に二人で泊まることがあっても妙な空気にさえなったことがない。
   それがどうしたと思うかもしれないが、このままではいけないと何故か思ってしまったのだ。そこでこの格安の家の購入を決めた。もちろんこの家がヤバイ事は小さい頃から聞かされていた。
   でも本当にヤバイのだろうか?  木がボウボウで草もボウボウだから暗くて、お化け屋敷のように感じただけではないのか。小さい頃に探検したときも何も起こらなかった。テレビで取り上げられて、アイドルが一晩ここに止まったけど何もなかったではないか。オレはミーナとの仕事場が欲しかった。仕事場ができれば楽になる。今までみたいに夜中にファミレスで作業をして嫌がられる事もない。
  リフォームされた家の中を見て、これを買わなかったら男じゃないとまで思って判を押した。
   でもやっぱりと言うか、ミーナには呆れられてしまった。でもこの家を買うぐらいの甲斐性しかまかったのだから仕方がない。本当は現金で買ったけどローンで買ったとミーナには言った。その方が折れてくれると思ったのだ。案の定、彼女はそれなら稼がないといけないと思ったようだ。

   オレとユーナは同人誌で生計を立てている。時々は商業誌でも書かせてもらってるけど、ほとんどは同人誌で稼いでいる。オレの方はそれだけの収入では心もとないので週に三回バイトも入れている。実家暮らしのミーナはバイトはしていない。漫画を描くのは時間がかかるから無理らしい。オレは小説の方と原案だけだから、確かに漫画を描くよりは時間に余裕がある。

「えー!  今夜バイトがあるの?」

  コンビニのバイトがあるのでそれを言うとミーナが叫んだ。いつもと同じ曜日なんだし、知ってるはずなのに騒がないでほしい。

「いつものことだろ。それにオレの方は終わってるし、あとはミーナの仕事だろ」

「それはそうだけど、この家に夜は一人でいるのはちょっと…」

「昨日もその前もオレ一人でも大丈夫だったし、隣の家も近いから何かあったら隣にかけ込めばいいよ」

   幽霊なんて眉唾だと思っているから、ミーナが怖がっているのが新鮮だった。ミーナだって幽霊なんて見たことないって言ってるのに何が怖いのだろう。
  ああ、そうか。見たことがないから怖いのかもしれないな。

「まあ、でも広い部屋でゆっくり描けるのは良いよね。ところで屋根はいつ直すの?」

  いつ落ちてくるか不安なのか天井を見ながらユーナが聞いてくる。リフォームされているので天井を見上げても外の屋根の状態はわからない。

「一応、今度の原稿があがってからってにしてくれって言ってる。屋根の修理は音がすごいらしいから、うるさくて作品に集中できないだろ」

  家を売るときに中のリフォームと一緒に屋根を直すのが普通だと思うのに何故か俺が買った家だけ屋根が直されていなかった。本当は引っ越す前には修理されているはずだったのに、何かあったのか工事が遅れたと謝っていた。内心ではユーナに見せるのになんで直しとかないんだって言いたかったけど、何度も謝る姿に何も言えなかった。

「確かにうるさいだろうけど、早く修理した方がいいよ。屋根が落ちて押し潰されて死んだなんて話もあるしね」

「じゃあ、行ってくるよ。冷蔵庫にお茶もコーヒーもあるから」

  アルバイト先はこの町に唯一あるコンビニだ。週に三日だけ深夜のアルバイトをしている。深夜は時給も高いし、仕事も楽だ。
  近いけど車で行く。歩いた方が健康には良さそうだけど、まだ健康を考えるほど歳はとっていない。
  車のエンジンをかけると隣の家の窓から誰かが見ているのに気付いた。誰だろう?  挨拶には行ったけど、家族全員を見たわけではないのでよくわからない。長い髪のようだから女の人かな。
  わざわざ車を降りて挨拶するほどでもないだろう。オレはアルバイトの時間に間に合うように車を走らせた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...